冒険の書 ~続の書~

星宮歌

文字の大きさ
上 下
1 / 21
プロローグ

目覚め

しおりを挟む
「……トマトッ!! って、あれ? ここ、どこだ?」


 何か寝言らしきものを叫んで目が覚めた僕は、全くもって見覚えのない光景に首をかしげる。

 見渡す限り灰色っぽい石の天井で、何やら発光している苔がそこかしこに生えている光景。これを見て、『知らない天井だ』とかいう言葉を出せる人間は、きっと危機感ゼロの人間くらいだろう。


「よっこらせっ」


 と、言っても、僕にもその危機感があるのかどうかは怪しいかもしれない。つい、いつもの習慣で、年寄りじみた掛け声を出してしまうのだから……。


「……ほんとに、ここ、どこだよ?」


 改めて起き上がって見渡してみると、天井と同じような石の壁に囲まれていることが分かる。
 僕自身は、安っぽいベッドの上に寝転がっていたようで、何やらガチャガチャとした音がするし、体が痛いと思って見てみると、鎧を着ていた。


「おぉう、スゲー。これ、甲冑だよな」


 それは、西洋の騎士が装備するような甲冑で、鉛色が鈍く苔の光を反射している。興味本意に動かしてみると、それなりに重く、コスプレにしては本格的だと思ってしまう。


「っていうか、何で僕はこんなコスプレをしてるんだ?」


 何か変なパーティーにでも誘われたりしただろうかと首をかしげるも、どうにも記憶が曖昧だ。


「確か、あきらを探してて、町を歩き回ってたんだよな……」


 一週間前、突如として行方不明になった親友。奇妙なことに、僕と妹の琴音ことね以外は、その彰のことを最初から居なかった存在として、全く覚えていなかった。それは、彰の家族でさえも同じだった。

 異常な現象に危機感を抱いた僕は、琴音と一緒になって、毎日彰を探していた。ただ、覚えているのはそこまでだった。


「どう考えても、こんなコスプレに繋がる記憶がないんだよなぁ」


 言いながら、僕は腰に刺さっていた剣を抜いてみる。


「おっ、結構重……い?」


 それは、重かった。重すぎた。ただの、コスプレだとするには、その剣の輝きは、あまりにも現実味を帯びていた。


「これ、もしかして、本物?」


 鉛色の光を反射する剣を見て、僕は呆然と呟く。だって、あり得ないのだ。日本では銃刀法違反なんていう法律がある。こんな本物の剣が、ここにあって良いはずがない。


「ってことは、この鎧も……?」


 そう考えると、途端に今の状況が怖くなった。いや、先程までも怖くないわけではなかったものの、今は現実を理解するにつれて余計に恐怖心が増したのだ。


「何なんだ、これ……」


 少なくとも、夢ではない。夢であればどんなに良かったことかとは思うものの、鎧を着て寝ていたせいで体の節々が痛みを発している。夢だと疑う余地などなかった。
 改めて襲い来る現実感に、僕はとにかく状況把握から始めることにする。もしも、これが誘拐であるなら、犯人は何かしらの目的を持って、僕にこんな姿をさせているということになる。


 剣が本物って時点で、嫌な予感しかしないんだがなぁ。


 すでに自分が犯罪に巻き込まれたであろうことを前提に、僕は気を引き締める。何があっても、すぐに対応できるよう、剣もしっかり握っておく。


「……ん? これは……本?」


 何か手がかりになるものでもないだろうかと探していると、枕の下から、随分と分厚い本が出てくる。


「『冒険の書』?」


 妙に硬い質感の、白を基調とした表紙に書かれていたタイトルは、『冒険の書』。何だか、これからゲームでも始まりそうなタイトルだ。

 ページを捲ってみると、赤い文字で書かれた文章が飛び込んでくる。


『冒険の書

一日目

第一フロア 地帯区分A

ようこそ、冒険の舞台へ。

あなたは勇者に選ばれました。

勇者として、魔王を討伐しましょう。

その暁には、あなたの親友が帰って来るでしょう』


 そこには、意味の分からない文章が書かれていて、僕はついつい首をかしげる。


「何だこれ?」


 まるでゲームの説明のような……いや、それにしても幼稚な内容に、僕はどうにかその意味を理解しようとする。


「勇者、魔王討伐…………異世界トリップでもしたとか?」


 最近良く読む小説の中には、勇者として異世界に召喚されるというものが多い。そのため、そんな考えをしてみたものの……。


「まさかな。現実にそんなこと、あるわけないし」


 モンスターにでも遭遇すれば考えを改めるかもしれないが、ひとまず、今のところは誘拐されたという線で考えるのが妥当だろう。……そう、妥当なはずだ。


「あれ?」


 自分で自分を納得させていると、ふいに、僕は『冒険の書』の文章の変化に気づく。


「……ない」


 先程の『ようこそ』から始まるくだりの文章が消えていた。まるで、最初から、そんなものは存在しなかったかのように……。


「……これ、紙じゃ、ないのか?」


 いきなり消えた文章を見て、僕はこの『冒険の書』がタブレットみたいな何かかと疑ってみる。しかし、どんなに質感を確かめてみても、それは紙以外の何物でもなさそうだ。


「本当に異世界トリップだったら、洒落にならないんだけど……」


 若干、頬を引きつらせた僕は、そうなると、ここはさしずめ城のどこかだろうかと遠い目で考え込む。異世界トリップの定番では、大抵、主人公は城に召喚されるものだ。……巻き込まれ系主人公とかいうパターンなら、森の中もありだが、一応ここは建物の中らしいので、それはないだろう。

 そして、もう一つ気になるのは、『親友が帰ってくる』というくだり。まるで、親友はこの世界で人質に取られているかのようだ。


「いやいやいや、まさか、まさかだよな?」


 できることなら、自分が主人公の物語なんて勘弁してほしい。


 何が悲しくて、山あり谷ありの波瀾万丈な人生を送らなきゃならないんだ。平凡が一番なんだよっ!


 とはいえ、現代科学で説明ができるかどうか良く分からない現象が目の前で起こったことは事実だ。

 高校生にもなって、夢と現実の区別がつかないということはないが、きっと、これ以上摩訶不思議な現象にさらされ続ければ、僕はここが異世界だということを認めるしかなくなるような気がする。


「よし、異世界かどうかは、ひとまず置いておいて、探索続行だなっ」


 今は考えても分からない。それどころか、考えれば考えるほどにドツボにはまる気がして、僕は思考を一時打ち切る。
 今優先すべきは、状況把握。それだけを目標に、僕は部屋を探し回った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さぁ、始まりました。

『冒険の書 ~続の書~』ですっ。

この度の主人公は勇者サイド。

できるかぎりギョッとするような結末をご用意できればと思いながら書いて参ります。

なお、この作品は三日に一度か四日に一度くらいのペースで更新していきますので、気長にお待ちください。

それでは、また!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...