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第三章 少女期 女神編
第三百八十九話 創世神様
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イルト様が、何かを抱えていることには気づいていた。あの邪神の名前を聞いた瞬間、それが、イリアスの肉親であることにも気づいた。妹か姉か、母か祖母か……その辺りのことは分からないが、とにかく、イルト様が、何かを覚悟して、肉親を手にかけようとしていることに気づいてしまった。
(一番、近くに居たのは私、なのに……)
止められなかった。止めなきゃいけないと分かっていたのに、止められなかった。
「イルト様っ!!!」
大鎌を振るった直後、倒れていくイルト様の姿を、私はスローモーションで眺めている気分だった。あまりにも、現実味のない現象を前に、思考が麻痺していた。それでも、踏みとどまる気配もなく、そのまま倒れたイルト様を見て、動けないなんてことはあり得ない。必死に駆け寄って、イルト様の意識を確認する。
「イルト様っ! イルト様っ!!」
邪神のことなど頭にない状態で、とにかくイルト様の名前を呼び続けるも、反応はない。
(脈っ……ある。意識を失っただけ?)
本当にそれだけであるのならば良い。しかし、力の反動か、邪神の攻撃か、どちらかが原因で意識を失ったのだとしか思えない現状、楽観的なことは何も言えない。
「う……私、は……」
イルト様が意識を失う中、リリアナ様が目を覚ます。
「ユミリア。きっと、殿下は大丈夫だよ。創世神様も近くに居るし、あの邪神を捕まえて、とりあえず診てもらおう?」
近くにはセイも来ていて、そんな言葉をかけてくれる。確かに、私では、イルト様の不調をどうすることもできない。上手く頭が働かないながらもうなずいて、邪神の方へ目を向けると……何やら、鋼、ネシス、レインボードラゴン達が必死に、邪神を拘束しようとして、それを弾かれている状態だった。
「結界?」
「……これ、歯が、立たない……」
「ユミリア、どうしよう。全力で攻撃しても砕けないよぉ」
邪神の周囲には、やたらと頑丈な結界が張られており、見る限りいくつもの複雑な魔法で構成された結界だと分かる。本来は浮き出ることなどないはずの魔法陣が、結界に攻撃を加える度に浮き出るのがその証拠だ。
「……これ、結界に特化した神じゃなきゃ、解けないんじゃあ……」
「無理じゃよ」
結界を眺めて、感想を告げるセイに、ふと、とても懐かしく感じられる柔らかな声が響く。
「「「「創世神様!?」」」」
私達がここに着いた時には、もう倒れていた創世神様。この後、どうにか回復してもらって、意識を取り戻してもらわなければと思っていたところで、何ともない様子で背後に立ち、ヒゲを撫でるかの方の姿に、誰もが驚愕をあらわにする。
「創世神様、この度は、まことに申し訳なく「よいよい。奴が来たのであれば、仕方なかろうて」し、しかしっ」
いち早く立ち直ったのはリリアナ様で、何か謝罪をしようとしたところで遮られる。
「ふむ、それよりも……何とも派手に戦ったのぅ? こりゃあ、再建が大変そうじゃわい」
邪神の様子は、ここからでは分からない。生きているのか、死んでいるのかすらも。
未だに緊迫感が残るその場所で、創世神様はのんびりと、私とイルト様の前に回り込みニッコリと微笑んだ。
(一番、近くに居たのは私、なのに……)
止められなかった。止めなきゃいけないと分かっていたのに、止められなかった。
「イルト様っ!!!」
大鎌を振るった直後、倒れていくイルト様の姿を、私はスローモーションで眺めている気分だった。あまりにも、現実味のない現象を前に、思考が麻痺していた。それでも、踏みとどまる気配もなく、そのまま倒れたイルト様を見て、動けないなんてことはあり得ない。必死に駆け寄って、イルト様の意識を確認する。
「イルト様っ! イルト様っ!!」
邪神のことなど頭にない状態で、とにかくイルト様の名前を呼び続けるも、反応はない。
(脈っ……ある。意識を失っただけ?)
本当にそれだけであるのならば良い。しかし、力の反動か、邪神の攻撃か、どちらかが原因で意識を失ったのだとしか思えない現状、楽観的なことは何も言えない。
「う……私、は……」
イルト様が意識を失う中、リリアナ様が目を覚ます。
「ユミリア。きっと、殿下は大丈夫だよ。創世神様も近くに居るし、あの邪神を捕まえて、とりあえず診てもらおう?」
近くにはセイも来ていて、そんな言葉をかけてくれる。確かに、私では、イルト様の不調をどうすることもできない。上手く頭が働かないながらもうなずいて、邪神の方へ目を向けると……何やら、鋼、ネシス、レインボードラゴン達が必死に、邪神を拘束しようとして、それを弾かれている状態だった。
「結界?」
「……これ、歯が、立たない……」
「ユミリア、どうしよう。全力で攻撃しても砕けないよぉ」
邪神の周囲には、やたらと頑丈な結界が張られており、見る限りいくつもの複雑な魔法で構成された結界だと分かる。本来は浮き出ることなどないはずの魔法陣が、結界に攻撃を加える度に浮き出るのがその証拠だ。
「……これ、結界に特化した神じゃなきゃ、解けないんじゃあ……」
「無理じゃよ」
結界を眺めて、感想を告げるセイに、ふと、とても懐かしく感じられる柔らかな声が響く。
「「「「創世神様!?」」」」
私達がここに着いた時には、もう倒れていた創世神様。この後、どうにか回復してもらって、意識を取り戻してもらわなければと思っていたところで、何ともない様子で背後に立ち、ヒゲを撫でるかの方の姿に、誰もが驚愕をあらわにする。
「創世神様、この度は、まことに申し訳なく「よいよい。奴が来たのであれば、仕方なかろうて」し、しかしっ」
いち早く立ち直ったのはリリアナ様で、何か謝罪をしようとしたところで遮られる。
「ふむ、それよりも……何とも派手に戦ったのぅ? こりゃあ、再建が大変そうじゃわい」
邪神の様子は、ここからでは分からない。生きているのか、死んでいるのかすらも。
未だに緊迫感が残るその場所で、創世神様はのんびりと、私とイルト様の前に回り込みニッコリと微笑んだ。
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