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第三章 少女期 女神編
第三百四十七話 読めない本
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大きな不安を抱えながら戻ってきた私達に、イルト様が真っ先に駆け寄ってくる。
なぜか、地面が破壊されていて、何かの臭いを誤魔化すためか、フレグランスな匂いが漂うその場所には、メリーや竜神様達、そして、未だに意識を失ったままのセイ達が居る。
「ユミリア、何があった?」
『何か』ではなく、『何が』と問いかける辺り、きっと、私の表情はよほど酷いものなのだろう。
「その話もしたいけど、それより、セイ達の状態を先に聞きたいから、それでも良いですか?」
三日しか時間がないセイ達と、いつ、どうなるか分からないあの世界。ただ、私の感覚では、あの世界を覆う結界の強度には問題がなかった。恐らくは、結界の術者に何かがあったからこその揺らぎ。となれば、何の予測も立てられない上、そもそもあれに対抗する手立てが思い浮かばない状態だ。
(あの世界がこちらへ侵食してきたら……どこか、別の星に移住するしかないのかも)
それでもきっと、全てを救うことはできない。そう思えるほどの脅威を前に、私は、対策を取れるかもしれないものから話を聞くことにする。
「では、僭越ながら、私がご説明します」
無事に竜神様達をこちらへ引っ張り出せたらしいメリーは、どこか険しい表情で口を開く。
「状況はあまり良くありません。神だと名乗りながら、ここには頭が空っぽなポンコツしかいらっしゃらなかったらしく、さらに二日分、侵食を遅らせることしかできておりません」
「ちょっ、あんたねぇ」
「エイリーン。仕方ありません。我々は、この本の内容が理解できないのですから」
そう言って、竜神様が目を落とすのは、私が見つけたあの本だ。竜神様は、それを険しい表情で見つめて、やがて、ゆっくりと閉じてしまう。
「……そう」
正直、竜神様達ならば、何か分かるのではないかと期待した。しかし、どうやらダメだったらしい。
「この本には、強力な神力を感じます。特定の人物にしか、その内容が読めないようなものだというのは分かりますが、誰であれば、読めるのかが分かりません」
(ん?)
「見たことがない文字が使われてるとは思ったが、竜神様も知らない文字とかいう問題じゃあないんですか?」
(んん?)
「はい、これは、資格を持つ者が見れば、見慣れた文字で書かれた文章として認識できるものです」
(んんん?)
何かが、おかしい。そう思いながら、私は、本を持つ竜神様のところへ歩いていく。
「そうか……そういやぁ、ユミリア様は古代魔法魔法とか言ってたが、何でそうだと思ったんだ?」
本を見つめながら歩いていたため、竜神様は本に用があるのだろうと、近くに来た私にそれを渡してくれる。
「『反逆者の歴史』」
「「「え?」」」
「『この本を読む者はきっと、我々の魂を受け継ぐ者。あるいは、あの尊き方々の魂を持つ者で間違いないだろう。我々は、あの方々を貶めた者達を許すつもりはない。故に、この記録を残そうと思う』」
「読める、のですか?」
信じられないといった様子の竜神様に、私は小さくうなずく。
「? 僕も読めるけど?」
ついでに、私の背後から覗き込んだイルト様もそう告げて、なぜか、竜神様とエイリーンが固まる。
「っ、なら、その中に、セイ達を救う手立てがあるってことか?」
「さすがです、お嬢様!」
どうやら、本当に、私とイルト様以外には読めないらしい。別に、特別な文字ではなく、この国で使われる言語で書かれているにもかかわらず、竜神様も、エイリーンも読めなかったようだ。
「とりあえず、関係がありそうな場所を読みますね」
反逆者の過去は、今はどうでも良いとばかりに、この本を見つけた時にチラリと見た『反逆者の魂、侵食について』という項目を探して、読み始めた。
なぜか、地面が破壊されていて、何かの臭いを誤魔化すためか、フレグランスな匂いが漂うその場所には、メリーや竜神様達、そして、未だに意識を失ったままのセイ達が居る。
「ユミリア、何があった?」
『何か』ではなく、『何が』と問いかける辺り、きっと、私の表情はよほど酷いものなのだろう。
「その話もしたいけど、それより、セイ達の状態を先に聞きたいから、それでも良いですか?」
三日しか時間がないセイ達と、いつ、どうなるか分からないあの世界。ただ、私の感覚では、あの世界を覆う結界の強度には問題がなかった。恐らくは、結界の術者に何かがあったからこその揺らぎ。となれば、何の予測も立てられない上、そもそもあれに対抗する手立てが思い浮かばない状態だ。
(あの世界がこちらへ侵食してきたら……どこか、別の星に移住するしかないのかも)
それでもきっと、全てを救うことはできない。そう思えるほどの脅威を前に、私は、対策を取れるかもしれないものから話を聞くことにする。
「では、僭越ながら、私がご説明します」
無事に竜神様達をこちらへ引っ張り出せたらしいメリーは、どこか険しい表情で口を開く。
「状況はあまり良くありません。神だと名乗りながら、ここには頭が空っぽなポンコツしかいらっしゃらなかったらしく、さらに二日分、侵食を遅らせることしかできておりません」
「ちょっ、あんたねぇ」
「エイリーン。仕方ありません。我々は、この本の内容が理解できないのですから」
そう言って、竜神様が目を落とすのは、私が見つけたあの本だ。竜神様は、それを険しい表情で見つめて、やがて、ゆっくりと閉じてしまう。
「……そう」
正直、竜神様達ならば、何か分かるのではないかと期待した。しかし、どうやらダメだったらしい。
「この本には、強力な神力を感じます。特定の人物にしか、その内容が読めないようなものだというのは分かりますが、誰であれば、読めるのかが分かりません」
(ん?)
「見たことがない文字が使われてるとは思ったが、竜神様も知らない文字とかいう問題じゃあないんですか?」
(んん?)
「はい、これは、資格を持つ者が見れば、見慣れた文字で書かれた文章として認識できるものです」
(んんん?)
何かが、おかしい。そう思いながら、私は、本を持つ竜神様のところへ歩いていく。
「そうか……そういやぁ、ユミリア様は古代魔法魔法とか言ってたが、何でそうだと思ったんだ?」
本を見つめながら歩いていたため、竜神様は本に用があるのだろうと、近くに来た私にそれを渡してくれる。
「『反逆者の歴史』」
「「「え?」」」
「『この本を読む者はきっと、我々の魂を受け継ぐ者。あるいは、あの尊き方々の魂を持つ者で間違いないだろう。我々は、あの方々を貶めた者達を許すつもりはない。故に、この記録を残そうと思う』」
「読める、のですか?」
信じられないといった様子の竜神様に、私は小さくうなずく。
「? 僕も読めるけど?」
ついでに、私の背後から覗き込んだイルト様もそう告げて、なぜか、竜神様とエイリーンが固まる。
「っ、なら、その中に、セイ達を救う手立てがあるってことか?」
「さすがです、お嬢様!」
どうやら、本当に、私とイルト様以外には読めないらしい。別に、特別な文字ではなく、この国で使われる言語で書かれているにもかかわらず、竜神様も、エイリーンも読めなかったようだ。
「とりあえず、関係がありそうな場所を読みますね」
反逆者の過去は、今はどうでも良いとばかりに、この本を見つけた時にチラリと見た『反逆者の魂、侵食について』という項目を探して、読み始めた。
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