悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第二章 少女期 瘴気編

第二百八十八話 リーリス国の手前(ローラン視点)

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 戦いの準備は整った。恐怖心は、どうにか押し込め、ただただ、守りたい人のために、国と国を繋ぐ道を外れて、ほぼ獣道な場所で足を動かしていた俺達は、やっと、リーリス国に着く……と思った瞬間、突如として、凄まじい風が吹き荒れる。


「わっ」

「きゃんっ」

「うおっ」


 飛ばされてしまうほどの風ではなかったものの、何の前触れもなく発生したそれに、少しばかりたたらを踏む。


「ローラン!!」


 そして、俺達以外に居なかったはずのその場所には、黒目黒髪なのに、どこか、キラキラしい男が立っていた。


「あなた、は……」


 初めて見る男であるはずなのに、なぜか、そうは思えない。むしろ、出会ったことがあるはずなのに、思い出せないと考える方が自然だと思えるくらいに、強い懐かしさに囚われていた。


「ローラン、知り合い?」

「……記憶にはない、が、会ったことがある気がする」


 黒を基調とした、騎士のような服を纏うその人物は、俺が振り向いた直後から、感極まったようにその場から動かない。


(この方は、誰、だ?)


 とても、とても、良く知っているはずなのに、どうしても、思い出せない。


「あの男は、危険だと思う?」

「いや、そうは思えない」


 セイの問いかけに答えれば、セイとコウは、完全ではないものの、ある程度の警戒を解いてくれる。


(とても懐かしいと思えるのに……あいつは、誰、なんだ?)


 敵ではない。その直感の下、俺は、ソイツに声をかける。


「なぁ、あんた。悪いけど、俺はあんたのことを忘れてるみたいなんだ。だから、教えてくれないか? あんたのことを」

「あ……う、うぅ……」

「へぁっ!? ちょっ、何で泣くんだ!?」


 俺は、優しく話しかけたはずだ。少なくとも、高圧的には見えないように、言葉を選んだはずなのだ。それなのに、男は、その瞳から綺麗な涙をポロポロと落としていく。


「ローランに忘れられて悲しい、とか?」

「ローランに会えて、嬉しいっ!」


 思わず、近くの仲間に視線で助けを求めれば、そんな答えが返ってくる。


「お、俺が悪いのか?」

「多分?」

「うんっ」


 男の泣き顔など、普段なら何とも思わなかったのだろうが、彼は、とても綺麗に涙をこぼしていた。そして、ついつい、その姿に魅せられてしまった俺は、どうにか、彼に泣き止んでもらいたいと必死に、できることを探そうとして……。


「やっと、やっと、会えた。嬉しい。嬉しい、よ……」


 とにかく宥めれば、この男も正気に戻るはずだと思ったものの、その純粋な喜びの感情に、俺は固まって動けなくなる。


「あぁ、私の、大切な、愛しい子……」


 強い既視感とともに、その慈愛の籠った視線を受け、俺は、唐突に、彼の正体を思い出す。


「竜神様……?」


 彼は、俺の国で奉られる、竜神様だった。
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