悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第二章 少女期 瘴気編

第二百八十七話 予期せぬこと

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「イルト様……?」


 その日も、いつも通り、登校したのだが、そこに、いつも居るはずの人物が見当たらなかった。


「どうした? ユミリア?」


 隣で、ニコリと微笑みながら問いかけるロード様。そんなロード様に、私は、何か知っているかもしれないと向き直る。


「あの、イルト様は、どこに行ったのかご存知ですか?」

「うん? あぁ、イルト、か……アレなら、随分と思い詰めている様子だったから、新たなる魔王になれるよう、手を貸してあげたよ」

「えっ……?」


 ロード様の言葉の意味が、今、私は理解できなかった。


(イルト様? 魔王?)

「ユミリアはどうなりたい? このままずっと、この世界で揺蕩っていても良いし、元の世界に帰してあげることもできるよ?」


 理解が追いつかない間に、ロード様は、さらに言葉を重ねる。


「ぇ……あ……」

「私の愛し子と同じ色を持つ者ならば、救ってあげても良い。さぁ、選んで?」


 わけが、分からない。そうは思うものの、ロード様は、その瞳に昏い色を混ぜながら、冷たく問いかけてくる。逃げられない、と思わせるのに十分な狂気。そんな中、一つだけ確かなのは……私は、何かを間違えたということだけ。


(ログアウト? いや、でも、それはできないはずで……あ、れ……そもそも、ユミリアが主人公なゲーム、あったっけ?)


 間違えたのならば、修正すれば良い。そう思うのに、私の意識は、そんなことはできないと訴える。


「イルト様は、無事……?」

「あぁ、『今』はな」


 何かが欠けている。何かがおかしい。それでも、返事を先延ばしにすることは許されない。


「……イルト様の、ところへ」


 行かなければ、と思うのに、ロード様は、それを許してはくれない。動こうとした私の腕を掴んで、離してくれない。


「ダメだ。さぁ、選べ。このままが良いか、元の世界が良いか」


 イルト様は、ゲームのキャラクターの一人。だから、想いを寄せるだけ無駄。そう考える頭とは裏腹に、私は、イルト様が恋しくて仕方がない。


「いやっ、私はっ、私はっ、イルト様の元に行くんですっ!」


 理屈ではない。私は、イルト様のことを、愛している。それこそ、ずっと、ずっと、昔から……。


「っ!?」

「きゃあっ」


 イルト様のところに行かなければと、必死にもがいていると、急に、ロード様の手が緩み私は、そのまま尻餅をつく。


「これは……まさかっ」


 戸惑いに揺れるロード様の様子は、おかしいとは思ったものの、今は、それに構っている暇などない。何が何でも、イルト様の元へ向かうのが、今の私の目的だ。


「転移っ!!」


 そうして、私は、その場から逃げ切った。
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