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第二章 少女期 瘴気編
第二百七十一話 歪な王子(ミーシャ視点)
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「アノ人は、いったい、何なんでしょう?」
「私にも、分からない。ただ、私の記憶の中で、彼は、ずっとユミリア嬢の側に居た。そして、ユミリア嬢のもう一人の婚約者だ」
休憩時間として設けたお茶の席。しかし、そこで交わされる会話は、不穏以外の何物でもない。
お姉様達とこの星に帰還した直後、私は、見慣れない黒髪の長身男性が、お姉様を抱き締めるのを見て、唖然とすることとなる。思わず、お姉様へ呼びかけを行うものの、お姉様は、その男性に抱き締められることに、何一つ、違和感を感じていないらしく、私を不思議そうに見る始末。お姉様命なヤンデレイルト殿下ならばと思って、そちらを見ても、イルト殿下は、それが当然といったように、特に反応らしい反応を見せていない。あまりにも異常な状況に、私はすぐ、その違和感を訴えようとしたのだが……。
(あれは、怖かった……)
微笑みを浮かべながら。しかし、強烈な殺意を私にぶつけた見知らぬ男。スーちゃんは、その様子に、男へ威嚇しようとしたものの、今、それをするのは危険だと判断して、私は、とにかく成り行きを見守ることにした。
男の名前は、ロード・ラ・リーリス。アルト様とイルト殿下の兄にあたる、第一王子だとのことだ。ただし、私の記憶の中に、その人物は居ない。王子と呼ばれるのは、アルト様とイルト殿下しか居なかったはずなのだ。
(どうにか、アルト様には状況を説明して、違和感を抱いてもらえるようにはなったものの……それでも、不自然な記憶が残ったまま)
一人の記憶を書き換えるなんてこと、恐らく、この世界ではお姉様くらいにしかできないと思っていたが、今回のこれは、規模が違う。恐らくは、この国全域で、ロードは第一王子という認識が広まっている。そんなことができる存在など、少し前の私では、思いつかなかっただろう。ただ、今の私には、女神から話してもらった知識がある。
(あれが、邪神……?)
そうだとするならば、今の状況は、かなり不味い。いや、もし、邪神本人でないにしろ、彼が異分子であることに間違いはない。ロードは、なぜか、私以外の全ての人間に好かれている。お姉様も、イルト殿下も、アルト様も、ハイルやティト、ディランにも。だからこそ、今、私は動くに動けない状態だった。かろうじて、仲間に迎えられたアルト様にしても、まだ、ロードが敵であるということを信じきれていない様子なのだ。
(ローランは、最近見かけないし、セイ達は、もっと分からない)
ロードによって、私は遠ざけられているため、お姉様の護衛や使用人、家族のことについては全く分からない。ただ、メリーさんだけは、帰ってきた時に一緒に居たため、やはり、ロードの存在に違和感を抱いていないことが分かってしまっていた。
「はぁ……」
前途多難な状況に、私は、大きくため息を漏らしていた。
「私にも、分からない。ただ、私の記憶の中で、彼は、ずっとユミリア嬢の側に居た。そして、ユミリア嬢のもう一人の婚約者だ」
休憩時間として設けたお茶の席。しかし、そこで交わされる会話は、不穏以外の何物でもない。
お姉様達とこの星に帰還した直後、私は、見慣れない黒髪の長身男性が、お姉様を抱き締めるのを見て、唖然とすることとなる。思わず、お姉様へ呼びかけを行うものの、お姉様は、その男性に抱き締められることに、何一つ、違和感を感じていないらしく、私を不思議そうに見る始末。お姉様命なヤンデレイルト殿下ならばと思って、そちらを見ても、イルト殿下は、それが当然といったように、特に反応らしい反応を見せていない。あまりにも異常な状況に、私はすぐ、その違和感を訴えようとしたのだが……。
(あれは、怖かった……)
微笑みを浮かべながら。しかし、強烈な殺意を私にぶつけた見知らぬ男。スーちゃんは、その様子に、男へ威嚇しようとしたものの、今、それをするのは危険だと判断して、私は、とにかく成り行きを見守ることにした。
男の名前は、ロード・ラ・リーリス。アルト様とイルト殿下の兄にあたる、第一王子だとのことだ。ただし、私の記憶の中に、その人物は居ない。王子と呼ばれるのは、アルト様とイルト殿下しか居なかったはずなのだ。
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(あれが、邪神……?)
そうだとするならば、今の状況は、かなり不味い。いや、もし、邪神本人でないにしろ、彼が異分子であることに間違いはない。ロードは、なぜか、私以外の全ての人間に好かれている。お姉様も、イルト殿下も、アルト様も、ハイルやティト、ディランにも。だからこそ、今、私は動くに動けない状態だった。かろうじて、仲間に迎えられたアルト様にしても、まだ、ロードが敵であるということを信じきれていない様子なのだ。
(ローランは、最近見かけないし、セイ達は、もっと分からない)
ロードによって、私は遠ざけられているため、お姉様の護衛や使用人、家族のことについては全く分からない。ただ、メリーさんだけは、帰ってきた時に一緒に居たため、やはり、ロードの存在に違和感を抱いていないことが分かってしまっていた。
「はぁ……」
前途多難な状況に、私は、大きくため息を漏らしていた。
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