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第二章 少女期 瘴気編
第二百五十五話 混乱する心
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「う……ん……」
「ユミリア!」
「お姉様っ」
「お嬢様っ!」
寝起きから、何やら騒がしい声が聞こえて、不思議に思いながらも、それぞれが誰なのかは分かるため、そっと目を開ける。
「イルト様?」
そして、真っ先に視界に入ったのは、どこか切羽詰まった様子のイルト様。ただし……。
「えっ? イルト様が成長してる!? うん? あれ? ミーシャも!?」
記憶の中にあるイルト様とは違い、今のイルト様は、随分と美しく、妖艶な方向へと進化を遂げていた。
「っ、ユミリア、言葉が……」
「戻った、の?」
「いえ、待ってください。そう判断するには、お嬢様の先程の言葉は、少しおかしいかと」
よくよく見れば、メリーも記憶にある姿より、若干年を取っているように見える。
(いや、待って。それよりも、私……)
「ちゃんと、話せてる……?」
「っ、お姉様、意識を失う前のことは、覚えておいでですか?」
「みゅっ? いや、ちょっと待って、今、さすがに混乱中」
(そう、まずは、名前から。私の名前は、ユミリア……いや、雪? ……あれ? どっちの記憶が、私……?)
記憶の中の私は、大学生の雪であり、一歳を過ぎたばかりの転生した幼女であり、イルト様やミーシャと出会った五歳児でもある。……正直、あまりにも記憶がごちゃ混ぜになっていて、何が何だか分からない。
色々と質問をしたそうなミーシャを留めて、必死に記憶を集めるものの、どうにも、要領を得ない。
「私……わたし、は……」
分からない。分からない。自分のことなのに、それが全く、分からない。
足元が崩れ落ち、底の見えない闇に墜ちていくような恐怖に、私は自然と自分の体を抱き締める。
「ユミリア……」
そう、私は、ユミリアだ。ユミリア・リ・アルテナ。目の前のイルト様がそう呼んでくれるのだから、それで間違いないはずだ。しかし、そう思えば、雪としての記憶が邪魔をしてくる。
「う、ぁ……」
あまりにもごちゃ混ぜの記憶に、泣きそうになる。しかし、それは、寸前で留まることとなった。
「ユミリア、落ち着いて? ほら、ゆっくり、息をしよう。……そう、吸って……吐いて……」
私の大好きなイルト様が、どこか意を決した表情で、震える私の手を握ってくれたのだ。
「大丈夫。僕にとって、ユミリアはユミリアだ。だから、大丈夫」
自分で自分が分からなくなってしまっていたその瞬間に、そんなイルト様の言葉は、スッと胸の中に入っていった。
「どんな私でも、ですか……?」
気づけば、私はそんな問いかけをしていた。
「うん、どんなユミリアでも、僕は愛してるよ」
優しく、優しく、私を包み込むようなイルト様の言葉に、私はようやく安心して、体の力を抜いていった。
「ユミリア!」
「お姉様っ」
「お嬢様っ!」
寝起きから、何やら騒がしい声が聞こえて、不思議に思いながらも、それぞれが誰なのかは分かるため、そっと目を開ける。
「イルト様?」
そして、真っ先に視界に入ったのは、どこか切羽詰まった様子のイルト様。ただし……。
「えっ? イルト様が成長してる!? うん? あれ? ミーシャも!?」
記憶の中にあるイルト様とは違い、今のイルト様は、随分と美しく、妖艶な方向へと進化を遂げていた。
「っ、ユミリア、言葉が……」
「戻った、の?」
「いえ、待ってください。そう判断するには、お嬢様の先程の言葉は、少しおかしいかと」
よくよく見れば、メリーも記憶にある姿より、若干年を取っているように見える。
(いや、待って。それよりも、私……)
「ちゃんと、話せてる……?」
「っ、お姉様、意識を失う前のことは、覚えておいでですか?」
「みゅっ? いや、ちょっと待って、今、さすがに混乱中」
(そう、まずは、名前から。私の名前は、ユミリア……いや、雪? ……あれ? どっちの記憶が、私……?)
記憶の中の私は、大学生の雪であり、一歳を過ぎたばかりの転生した幼女であり、イルト様やミーシャと出会った五歳児でもある。……正直、あまりにも記憶がごちゃ混ぜになっていて、何が何だか分からない。
色々と質問をしたそうなミーシャを留めて、必死に記憶を集めるものの、どうにも、要領を得ない。
「私……わたし、は……」
分からない。分からない。自分のことなのに、それが全く、分からない。
足元が崩れ落ち、底の見えない闇に墜ちていくような恐怖に、私は自然と自分の体を抱き締める。
「ユミリア……」
そう、私は、ユミリアだ。ユミリア・リ・アルテナ。目の前のイルト様がそう呼んでくれるのだから、それで間違いないはずだ。しかし、そう思えば、雪としての記憶が邪魔をしてくる。
「う、ぁ……」
あまりにもごちゃ混ぜの記憶に、泣きそうになる。しかし、それは、寸前で留まることとなった。
「ユミリア、落ち着いて? ほら、ゆっくり、息をしよう。……そう、吸って……吐いて……」
私の大好きなイルト様が、どこか意を決した表情で、震える私の手を握ってくれたのだ。
「大丈夫。僕にとって、ユミリアはユミリアだ。だから、大丈夫」
自分で自分が分からなくなってしまっていたその瞬間に、そんなイルト様の言葉は、スッと胸の中に入っていった。
「どんな私でも、ですか……?」
気づけば、私はそんな問いかけをしていた。
「うん、どんなユミリアでも、僕は愛してるよ」
優しく、優しく、私を包み込むようなイルト様の言葉に、私はようやく安心して、体の力を抜いていった。
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