悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第二章 少女期 瘴気編

第二百十三話 ユミリア嬢との出会い1(ハイル視点)

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 俺は、自分がさほど頭が良くないことを知っている。直感だけを頼りに体を動かすことは得意でも、人の噂を操ったり、腹の探り合いをしたりなんてことには全く向かない。ただ、それでも、今、ユミリア嬢に必要なものがそういったものだと言うのならば、俺は、それに全力で応えよう。ユミリア嬢は、俺の心を救ってくれた恩人なのだから……。

 ユミリア嬢と初めて出会ったのは、五歳の頃。ユミリア嬢の誕生パーティーの会場だった。その時の俺は、黒という存在に対する謂れのない噂を耳にして、黒は悪いやつ、悪いやつは成敗という謎の思考回路を持っていた。そんな中で出会った初めての黒は、あろうことか、自分よりも幼く見える女の子で、戸惑いながら威嚇して、見事に返り討ちにあった。そう、その時の女の子こそが、ユミリア嬢だったのだ。
 女の子に負けるなんて情けない。そう思って、俺は必死に体を鍛えてきた。しかし、年月が経つに従って、その時の感情は薄れ、代わりに、騎士団長の息子という目で見られ、勝手に周りの人間から期待されることが苦しくなっていった。


「あー、もう、放っておいてくれねぇかなぁ?」


 当時、十歳になったばかりの俺は、訓練をサボっては、城下町に下りて、色々な屋台巡りをしていた。その日も、いつも通り、ブラブラと歩いていると……茶色いフードを被った誰かが、いかつい男達に絡まれているのを見つけた。


(喧嘩、か?)


 フードの人物が男か女かは分からないが、男達が喚く様子に動じることなく立っている様子を見れば、多分男だろうと思えた。
 いつの間にか野次馬として集まった人間が、ことの次第を見物してやろうと彼らを囲む。


(まぁ、本当に危なかったら、俺が間に入れば良いか)


 二、三発くらい殴って終わりにするのであれば、止めはしない。しかし、殺すほどの勢いで殴るというのであれば、俺は、あのフード野郎を助けよう。そう思って、男の一人が拳を振り上げるのをのんびりと眺め……その拳を、小さな手が真正面から止めたことに少しだけ驚く。


「いっ、は、離しやがれっ」


 男は、必死に暴れて、フードの奴から逃れようとするものの、反対の手を繰り出せば、掴まれた手を振り回され、後ろに、横にと体を引っ張って抜け出そうとするものの、フードの人間に堪えた様子はない。


(なんか、デジャヴが……?)

「あら、子供の、しかも、レディに手を掴まれたくらいで大袈裟な。いえ、それとも、軟弱なのでしょうか?」


 昔、似た光景とセリフを見て、経験した気がして、俺は、ようやく思い出す。


(あぁ、そうか……あれは……)

「ユミリア嬢……」


 ポツンと呟けば、距離はあるはずなのに、フードの女性と目が合った……気がした。
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