悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

文字の大きさ
上 下
136 / 412
第一章 幼少期編

第百三十五話 帰りたくない

しおりを挟む
 イルト王子を側妃様の手から救出した私は、すっかり元気をなくしてしまったイルト王子の側に付き添い、お父様が迎えに来るまで、そのままだった。


「ユミリア。詳細はアルト殿下にお聞きした。だが、さすがにもう帰らなければ」

「はい、お父様」


 イルト王子の危機を察知して、一緒にこの部屋へと向かっていたはずのアルト王子が姿を現さないと思っていたら、どうやら、一度は部屋の前に来て、様子を確認した後、各所に事の次第を説明してくれていたらしい。


「イルト様、私は帰りますが、もし、何かあれば、すぐに知らせてくださいね?」

「うん。ユミリアじょうも、しらせてね?」


 まだ、すっかり元通りというわけにはいかないものの、落ち着きを取り戻し、微笑んでくれたイルト王子。心配は尽きないものの、一応、現段階でイルト王子に直接危害を加える方法は限られているし、私が居ない間、セイ達に護衛だってしてもらっている。だから、きっと、大丈夫なはずだと思って、スッと立ち上がると、クイッとドレスの裾が引っ張られる感覚がする。見れば、イルト王子が軽く、指でドレスの裾を掴んでいた。


「あ、ご、ごめん」


 私の視線を追って、自分が私を引き留めていることに気づいたらしいイルト王子は、慌ててドレスから手を離す。


「イルト様……やっぱり、私……」

「だいじょうぶ。だから、ちゃんとかえって?」


 もう少しだけ、この場に残るべく、お父様へ交渉しようかとも思ったが、それを察したイルト王子に否定されてしまっては、何もできない。本当は、帰りたくなかったものの、あまり、お父様の手を煩わせるわけにもいかない。


「あ……」


 少しだけ悩みながらも、じっと待ってくれているお父様の方へ振り向いて歩き出せば、小さな、本当に小さな、イルト王子の声がした。

 チラリと振り向けば、イルト王子は、私の方ではなく、何かを見て、ショックを受けたような表情をしていた。何を見ているのかが気になって、その視線を追えば、そこには、潰れた箱らしきものがある。


「ユミリア。行くぞ」

「……はい、お父様」


 お父様に促されて、私は、イルト王子に話しかけたいのを我慢して、その場を去る。


(後で、アルト王子に確認してみよう。それで、あれが何か大切なもので、壊れたとかなら、私が直せるはずだから、イルト様に提案してみよう)


 仕事で忙しいはずのお父様を、これ以上待たせるわけにもいかなかった私は、ひとまずその場を後にする。それがまさか、側妃様に否定される以上のダメージをイルト王子に与えていたとも知らずに……。
しおりを挟む
感想 344

あなたにおすすめの小説

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...