132 / 412
第一章 幼少期編
第百三十一話 白黒兄弟5
しおりを挟む
イルト王子と離れて、私達は、少しの間、応接室へ立ち寄って腰掛ける。
「イルトは、きっとすぐにもどってくるけど、そのあいだに、あのときのこえのぬしのはなしをしておいてもいいか?」
「はい、私も、それをお聞きしたかったところです」
あの、イルト王子を散々に貶していた女性が何者なのか、アルト王子から話してもらえるというのであれば、ぜひとも聞いておきたいところだ。
私の言葉に、アルト王子はうなずくと、徐に口を開く。
「かのじょのなまえは、スーリャ・ラ・リーリス。イルトの、うみのおや、だ」
「っ、側妃様!?」
イルト王子の母親といえば、側妃様しかいない。つまりは、イルト王子は、自身の母親から、あんな言葉を投げ掛けられていたということだ。
「わたしのははうえは、ティアルーンこくからきているから、イルトのことをさげすんだりはしない。でも、イルトのははうえであるスーリャさまは、このくにのきぞくだ。とうぜん、くろにたいして、いいかんじょうはもっていない」
ティアルーン国は、黒を崇める国。対して、リーリス国は黒を蔑む国。お互いがお互いに信じるものが異なるこの国同士は仲が悪く、それでも、隣国同士、手を取り合わなければ生き残れない状況が、ちょうど王妃様が生まれた頃にあったのだそうだ。元々、権力の集中を防ぐため、王妃は外国からもらうことが義務づけられたリーリス国の王室は、王妃様との婚約によって、ティアルーン国との繋がりを得ることとなる。
しかし、王妃様と婚姻した直後、リーリス国では側妃を推す声が高まり、陛下は国内の高位貴族令嬢であったスーリャ様を側妃として選んだ。王妃様だけでなく、スーリャ様に子供ができれば、王位継承権を巡る争いが起こるに違いないという状況下、陛下は何を思ったのか、王妃様もスーリャ様も妊娠させ、二人の王子を誕生させた。王妃様の子が、アルト王子。スーリャ様の子が、イルト王子。そして、スーリャ様は、イルト王子が黒目黒髪だったがために、危うい立場となった。
「スーリャさまは、『イルトさえいなければ』って、よくはなしている。でも、くろだとか、そんなのかんけいない。イルトは、とってもゆーしゅーなんだっ。わたしなんかよりも、ずっと、ずっと、すごいんだっ」
スーリャ様は、恐らく、イルト王子を産んだことで、様々な人から責められたのだろう。そして、自身も、イルト王子を産んでしまったことに絶望を感じている。しかし、だからといって、何の罪もないイルト王子を攻撃するのは間違っている。
「イルト様の素晴らしさなら、私だってたくさん知っていますっ!」
『イルト王子は素晴らしい』。その事実を知る同志を前にして、私達は、お互いに、婚約者自慢、もしくは、弟自慢を繰り広げるのだった。
「イルトは、きっとすぐにもどってくるけど、そのあいだに、あのときのこえのぬしのはなしをしておいてもいいか?」
「はい、私も、それをお聞きしたかったところです」
あの、イルト王子を散々に貶していた女性が何者なのか、アルト王子から話してもらえるというのであれば、ぜひとも聞いておきたいところだ。
私の言葉に、アルト王子はうなずくと、徐に口を開く。
「かのじょのなまえは、スーリャ・ラ・リーリス。イルトの、うみのおや、だ」
「っ、側妃様!?」
イルト王子の母親といえば、側妃様しかいない。つまりは、イルト王子は、自身の母親から、あんな言葉を投げ掛けられていたということだ。
「わたしのははうえは、ティアルーンこくからきているから、イルトのことをさげすんだりはしない。でも、イルトのははうえであるスーリャさまは、このくにのきぞくだ。とうぜん、くろにたいして、いいかんじょうはもっていない」
ティアルーン国は、黒を崇める国。対して、リーリス国は黒を蔑む国。お互いがお互いに信じるものが異なるこの国同士は仲が悪く、それでも、隣国同士、手を取り合わなければ生き残れない状況が、ちょうど王妃様が生まれた頃にあったのだそうだ。元々、権力の集中を防ぐため、王妃は外国からもらうことが義務づけられたリーリス国の王室は、王妃様との婚約によって、ティアルーン国との繋がりを得ることとなる。
しかし、王妃様と婚姻した直後、リーリス国では側妃を推す声が高まり、陛下は国内の高位貴族令嬢であったスーリャ様を側妃として選んだ。王妃様だけでなく、スーリャ様に子供ができれば、王位継承権を巡る争いが起こるに違いないという状況下、陛下は何を思ったのか、王妃様もスーリャ様も妊娠させ、二人の王子を誕生させた。王妃様の子が、アルト王子。スーリャ様の子が、イルト王子。そして、スーリャ様は、イルト王子が黒目黒髪だったがために、危うい立場となった。
「スーリャさまは、『イルトさえいなければ』って、よくはなしている。でも、くろだとか、そんなのかんけいない。イルトは、とってもゆーしゅーなんだっ。わたしなんかよりも、ずっと、ずっと、すごいんだっ」
スーリャ様は、恐らく、イルト王子を産んだことで、様々な人から責められたのだろう。そして、自身も、イルト王子を産んでしまったことに絶望を感じている。しかし、だからといって、何の罪もないイルト王子を攻撃するのは間違っている。
「イルト様の素晴らしさなら、私だってたくさん知っていますっ!」
『イルト王子は素晴らしい』。その事実を知る同志を前にして、私達は、お互いに、婚約者自慢、もしくは、弟自慢を繰り広げるのだった。
48
お気に入りに追加
5,677
あなたにおすすめの小説
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる