悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

文字の大きさ
上 下
128 / 412
第一章 幼少期編

第百二十七話 白黒兄弟1

しおりを挟む
 お城に着くと、出迎えてくれたのは……執事でもメイドでもなく、イルト王子とアルト王子だった。


「ユミリアじょうっ!」


 私の姿を見た瞬間、イルト王子はパッと顔を輝かせる。そして、アルト王子は、頭に帽子を被った状態で、そんなイルト王子をニコニコと見つめていた。


「イルト様、お会いしたかったですっ。それと、アルト王子は、もうお加減はよろしいのですか?」

「うん、おかげさまで、いまはなんともない。たすけてくれてありがとう。ユミリアじょう」


 恐らく、その帽子の下には、白い耳が生えていることだろう。しかし、それを不用意にさらすわけにはいかない。そんなことをすれば、どれだけ騒がれるか分かったものではない。


「まりょくのほうも、おさえるどうぐをおくってもらえて、とてもたすかっている」

「それは、ようございました」


 どんなに白の獣つきになったことを隠そうとしても、魔力がいきなり増大してしまえば、すぐにバレてしまう。それを防ぐために、私はアルト王子が倒れた翌日、表に出てくる魔力を抑制する魔導具を生み出して贈っていた。


「イルトとおそろいで、うれしいっ」


 ちなみに、贈ったのは色違いの腕輪だ。アルト王子には、セレナイトに金の縁取りをした腕輪、イルト王子はオニキスに金の縁取りをした腕輪だ。アルト王子の方には、魔力を抑制する効果、イルト王子の方には、何かあった時に治癒魔法が発動する効果をつけている。白と黒で対称的ではあるものの、二人の色を考えれば不自然ではない。ただ、そんな会話を繰り広げている私達を見るイルト王子は、少し複雑そうだった。


「……にいさんばかり、ユミリアじょうとはなして、ずるい」


 イルト王子としては、アルト王子も大切だからこそ、ヤンデレモード発動とまではならなかったようだが、それでも、私がアルト王子と仲良く喋っている様子は、イルト王子にとってあまり面白くないらしい。しかも、イルト王子はゲームでの私の立ち位置まで知っている。私がアルト王子の婚約者になるはずだったと知って、冷静ではいられない部分もあるのだろう。


「なら、イルトもはなせばいい。イルトは、ユミリアじょうにあえるきょうを、たのしみにしていただろう? あまりにもきをとられて、さんぽちゅうにいけにおち、ふぎゅっ」

「にいさん、それはいわないでっ」


 なるほど、池に落ちたのか、と思いながらも、一番に思うのは、イルト王子の怪我の有無だ。


「イルト様、お怪我は?」

「……だいじょうぶ」


 私の問いかけに、顔を赤くして、目を逸らしながらボソッと答えるイルト王子。


「うんっ、かすりきずだっていわれてたぞっ」

「に、にいさんっ」


 そして、見栄を張って何ともないように装ったイルト王子を、全く悪意の欠片もなしに突き落とすアルト王子。
 しかし、まぁ……。


「分かりましたっ、では、今度からイルト王子が池に落ちても大丈夫なように、新しい魔導具を作ってみますねっ!」

「ユミリアじょうっ!?」

「おぉーっ、すごいっ! よろしくね、ユミリアじょうっ」


 ワタワタするイルト王子と、パチパチと手を叩くアルト王子。そんな様子に和みながら、私達は庭園へとやってきた。
しおりを挟む
感想 344

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...