悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第百十五話 異変

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 イルト王子が居ると言われた部屋には、事前に知らされていた通り、アルト王子も居た。しかし、どうにも様子がおかしい。使用人の一人が、私と入れ替わりで飛び出していったこと、そして、イルト王子が泣きそうになりながら、アルト王子を呼んでいるのを見て、普通だと思えるわけがないだろう。


「イルト様!?」

「っ、ゆみりあじょうっ。にいさんがっ、にいさんがっ」


 何が起こっているのか分からずにイルト王子の元へと駆け寄れば、使用人達は制止しようとしたものの、イルト王子が私にすがることでその動きを止める。


「う、うぅぅうっ」


 イルト王子の影に隠れて見えていなかったアルト王子は、ソファの上で頭を抱えてうずくまり、苦しそうに呻いていた。


「これは……」

「さっき、いきなりあたまをかかえだしたんだっ」


 そう言うイルト王子は、少しは落ち着きを取り戻したのか、アルト王子に寄り添って、涙目になりながらもアルト王子の背中をさすっている。しかし、私の目に移るのは、それだけではなかった。


(この異常な魔力は……まさか……?)


 具体的に、それがどういう形で起こるのかは知らない。しかし、それの可能性がある以上、今、私にできることをするだけだ。


「結界と、魔力循環用の魔導具と、後は……お医者様待ち、かな?」


 小さく、今から必要なことを確認した私は、早速、アルト王子、イルト王子、そして私を含めて無言で結界の魔石を作動させる。外で使用人達が騒ぐ声が聞こえたが、これは、私の予想が正しいのならば、絶対に必要な措置だ。今、この場は、中の音も光景も外に届かないようになっており、使用人達からすれば、いきなり私達の姿がドーム状の黒い結界で覆われたように見えるだろう。実際、彼らはここに入ることはできない。


「ゆみりあじょう?」


 イルト王子は、私が何をしたのかを理解はしていない。しかし、外で騒ぐ使用人の様子から、何かをしたらしい、くらいの理解はしたようだった。


「大丈夫です。お医者様が来たら、ちゃんと通します。だから、アルト王子にこの魔導具を渡してください」


 イルト王子に渡したのは、指輪型の青い魔石が填まった魔導具。それをイルト王子はじっと見つめ、少しだけ悩む素振りを見せた後に、アルト王子の手にそっと握らせる。


「うっ……いると……?」

「にいさんっ、だいじょうぶ? まだ、あたまいたい?」

「いや、いまは、そんなにいたくない。きゅうに、いたくなくなった?」


 そんなアルト王子の言葉を受けて、イルト王子は私へと視線を送る。


「そうですね……それじゃあ、説明しますね?」


 アルト王子は、私も居るとは思わなかったらしく、驚いたような表情を浮かべたものの、私が何かをしたということに理解が及んだようで、コクリとうなずく。それを見届けて、私はその予想を口にした。
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