107 / 412
第一章 幼少期編
第百六話 レッツ、パーティー!9
しおりを挟む
辺りが闇に包まれた途端、こちらへ猛然と向かってくる気配が一つ。足音も、気配もほとんど感じられないそいつは、恐らくは暗殺の専門家。ただし、今回の目的は暗殺とは少し違う。ただ、『呪言の石』をイルト王子に触れさせるだけのお仕事のはずだ。
(配下の貴族は、ブラフかっ!)
殺気を向けてくる、分かりやすい敵対者である貴族達は、どうやらこいつに気づかれないためのブラフだったらしい。きっと、イルト王子につけられている護衛に対抗する手段だったのだろう。しかし、こちとら、何の対策もしていないなんてことはあり得ないのだ。
(嘗めてもらったら、困る)
イルト王子の近くに来たそいつへと、私はひっそり魔石を取り出し、その魔法を行使する。
暗闇に包まれて、ほとんどの人間が混乱する中、私はしっかりと視界を確保し、そいつの姿を捉えていたのだ。それもこれも、慎重に選んだドレスのおかげだ。
「っ!?」
あともうちょっと、というところで、実行犯は転倒する。
地面を少し盛り上げる程度の土魔法。即座に元に戻せば、証拠すら残らないその所業によって、実行犯はつまづいたのだ。
バランスを崩した実行犯を前に、私は万事上手くいくことを確信して、笑みを浮かべる。
ザワザワと落ち着きのなかった空間に、一度だけ、ガンっと、そこそこ重い音が響いたものの、それを気にする者は居ない。誰もが、今は自分達のことで手一杯なのだ。
……だから、実行犯を気絶させて、グルグルと簀巻きにして、セイ達のところに転移で送ってあげた私に非はない。ちょっと、気が動転していただけ、なのだから。
「イルト様。とりあえず、うずくまっていてもらえますか?」
「? うん、わかった」
魔法灯が消えた原因は不明だ。しかし、灯りがない状態がずっと続くはずもなく、チラホラと、ランタンが提供されて、辺りを認識できるようになる。
(さて、上手く騙されてくれるかな?)
「イルト様、大丈夫ですか?」
「……だいじょうぶ」
私の考えを読めないイルト王子は、その内容の解説を私に求めて、視線を向けてくる。
(とりあえず、陛下から許可をいただいて、早めに退席させてもらいましょう。きっと、そうすれば……)
今回のことを知る貴族ならば、今の演技で騙されてくれるかもしれない。そうなれば、儲けものというやつだ。
(さぁ、どう出る?)
後に待つのは、イルト王子にとってのトラウマ要因とされるはずだった襲撃のみ。これによって、周囲には、イルト王子がこの襲撃で心を病んだようにみせかけるのだ。ただし、大前提が覆った今、それは通用しない。
そうして気を抜いていたのがいけなかったのだろうか? 私は、もう一人の刺客に気づけなかった。
(配下の貴族は、ブラフかっ!)
殺気を向けてくる、分かりやすい敵対者である貴族達は、どうやらこいつに気づかれないためのブラフだったらしい。きっと、イルト王子につけられている護衛に対抗する手段だったのだろう。しかし、こちとら、何の対策もしていないなんてことはあり得ないのだ。
(嘗めてもらったら、困る)
イルト王子の近くに来たそいつへと、私はひっそり魔石を取り出し、その魔法を行使する。
暗闇に包まれて、ほとんどの人間が混乱する中、私はしっかりと視界を確保し、そいつの姿を捉えていたのだ。それもこれも、慎重に選んだドレスのおかげだ。
「っ!?」
あともうちょっと、というところで、実行犯は転倒する。
地面を少し盛り上げる程度の土魔法。即座に元に戻せば、証拠すら残らないその所業によって、実行犯はつまづいたのだ。
バランスを崩した実行犯を前に、私は万事上手くいくことを確信して、笑みを浮かべる。
ザワザワと落ち着きのなかった空間に、一度だけ、ガンっと、そこそこ重い音が響いたものの、それを気にする者は居ない。誰もが、今は自分達のことで手一杯なのだ。
……だから、実行犯を気絶させて、グルグルと簀巻きにして、セイ達のところに転移で送ってあげた私に非はない。ちょっと、気が動転していただけ、なのだから。
「イルト様。とりあえず、うずくまっていてもらえますか?」
「? うん、わかった」
魔法灯が消えた原因は不明だ。しかし、灯りがない状態がずっと続くはずもなく、チラホラと、ランタンが提供されて、辺りを認識できるようになる。
(さて、上手く騙されてくれるかな?)
「イルト様、大丈夫ですか?」
「……だいじょうぶ」
私の考えを読めないイルト王子は、その内容の解説を私に求めて、視線を向けてくる。
(とりあえず、陛下から許可をいただいて、早めに退席させてもらいましょう。きっと、そうすれば……)
今回のことを知る貴族ならば、今の演技で騙されてくれるかもしれない。そうなれば、儲けものというやつだ。
(さぁ、どう出る?)
後に待つのは、イルト王子にとってのトラウマ要因とされるはずだった襲撃のみ。これによって、周囲には、イルト王子がこの襲撃で心を病んだようにみせかけるのだ。ただし、大前提が覆った今、それは通用しない。
そうして気を抜いていたのがいけなかったのだろうか? 私は、もう一人の刺客に気づけなかった。
71
お気に入りに追加
5,677
あなたにおすすめの小説
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる