悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第百五話 レッツ、パーティー!8

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 イルト王子に話したのは、敵がイルト王子に『呪言の石』を触れさせようとしているということ。そして、その形状が分からず、警戒するしかない状態であることだ。


「なら、ぼくはゆみりあじょうからはなれず、ふしんなものにふれなければいいんだね?」

「みゅっ、そうです」


 心を壊そうと動く人間が居るという事実に、怯えを一切見せず、イルト王子はうなずいてみせる。


(もし、これが、普段から命を狙われているから、とかだったら嫌だなぁ……)


 五歳児にあるまじきその余裕に、私は、イルト王子の過去に思いを馳せて顔をしかめる。


「ゆみりあじょうは、きにしなくていい。おうぞくにうまれたからには、このくらい、かくごのうえだから」


 私の表情に、そんな言葉を向けてくるイルト王子に、私は自分の予想が正しかったことを理解して、泣きたくなる。


「ゆっ、ゆみりあじょう!?」


 そして、それに慌てたのは、当然ながら、イルト王子だった。


「ぼくは、ゆみりあじょうをかなしませるようなことをいってしまった? もしそうなら、おしえてほしい。ちゃんとあやまるし、にどといわないからっ」


 二曲目の音楽に突入しながら、イルト王子は懸命に訴えてくる。しかし、違う。違うのだ。


「イルト様は、何も悪くはありません。ただ、イルト様がこれまで辿った過去を思うと、私が側に居られなかったことが悔しかったんです」


 そう、私は、悔しかった。最初から前世の記憶を持っていた私ならば、イルト王子の心を守れたかもしれないのに、肝心な時に、私はそこに居なかったのだから。


「ゆみりあじょう……だいじょうぶ。しかくがはなたれていることはしっているけど、それはすべて、きしたちにほばくされている。ぼくは、たまたまそれをしっただけだから」

「でもっ、その時は、辛かったはずですっ」


 命を狙われるほどに疎まれているという事実は、イルト王子の心を蝕んだに違いない。それなのに、イルト王子は、私に優しい笑みを向ける。


「ゆみりあじょうに、そういってもらえるだけで、ぼくはすくわれる。ありがとう。ゆみりあじょう」


 辛くないはずのない事実。それを知ったイルト王子の内心は、計り知れない。しかし、イルト王子が私に救われたと言うのであれば、私は、ずっと、イルト王子の救いであろうと決意する。


「いまはまだ、ふがいないおうじだけど、きっとちからをつけて、ゆみりあじょうをまもるから、だから、まってて?」

「はい、私も、イルト様を守りますから、お互い様ですねっ。絶対に、敵の思い通りにはさせませんっ」


 『ぼくがゆみりあじょうをまもりたいんだけどなぁ』とかいう声は、とりあえず聞かなかったことにしよう。私だって、イルト王子を守りたいのだから。

 そうして、二曲目を踊り終えるところで……辺りを照らしていた魔力灯が突如として消えた。
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