103 / 412
第一章 幼少期編
第百二話 レッツ、パーティー!5
しおりを挟む
「おや、これは異なことを。儂は明確な立場を表明していると思いますがの?」
確かに、エルドン侯爵は第一王子派であることに変わりはない。しかし、穏健派にも過激派にも通じているとなれば、その立場は一気に怪しげなものへと変わってくる。
(ただ、自分に利のある方を見定めている、というだけなら良いんだけど……)
もし、そうでなかった場合は、彼の存在は地雷になりかねない。
飄々と誤魔化してみせるエルドン侯爵に、私はちょっとだけ、爆弾を投げてみる。
「そうですか、なら、一つだけ面白い情報を差し上げます。近々、侯爵の派閥は大打撃を受けて、再起不能になりそうですよ?」
にっこりと微笑みながら告げれば、エルドン侯爵はひくりと頬を引きつらせる。彼の情報網には、そんな兆候は欠片もなかったはずだ。しかし、それを五歳児の公爵令嬢があたかも当然のように宣言する。そうなってくると、エルドン侯爵としては疑問に思うはずだ。『過激派と穏健派、どちらの派閥が被害を受ける?』と。
もちろん、内情を知らなければ第一王子派全体が打撃を受けると思う者も居るだろうが、エルドン侯爵はそうは受け取らないだろう。何せ、第一王子派は巨大な派閥だ。それらへ一気に攻撃を仕掛け、傾かせることは不可能と言っても過言ではない。
「それは、お父君から伺ったのですかな?」
「さぁ? どうでしょう?」
私のお父様は、恐らく、エルドン侯爵は穏健派だと思っている。と、いうより、ほとんどの人間がエルドン侯爵は第一王子派の穏健派だと考えているのだ。だから、エルドン侯爵はそこを突いて、誰からの情報かを得ることによって、どちらの派閥が危険なのかを探ろうとしたのだろうが、そんな単純な引っかけに乗ってあげるつもりはない。
そもそも私は、侯爵にどちらの派閥に属しているのかを尋ねてしまっている。そうなると、エルドン侯爵には自身がどちらの派閥だと思われているのかが分からなくなってしまう。
(さて、と。あなたは私達の敵かな?)
私から情報を引き出せず、しかも、これだけの駆け引きを見せられて、派閥の危機という情報をはったりだと断じることもできなくなったエルドン侯爵は、どうにか笑顔を浮かべながらも次の言葉を探しているらしかった。しかし……。
「ゆみりあじょう。もう、あいさつはおわったのだから、ぼくのそばにいて?」
「はい、喜んでっ」
イルト王子の存在が、タイムリミットを告げる。さすがに、エルドン侯爵もイルト王子に逆らうような真似はできない。
(悩め悩め。もしも敵ならば、嫌がらせになるし、そうでなかったとしても……うん、しっかりと私達の利になる。しっかりと働いてね?)
「それでは、私達はここで失礼します」
「え、えぇ、またいずれ、お会いしとうございますな」
社交辞令の一貫、もしくは、本音でそう言ったであろうエルドン侯爵に、イルト王子は冷たい視線を注ぐ。
「……」
「は、はいっ、そうですね。それでは」
今にもエルドン侯爵を殺しそうな雰囲気のイルト王子に、私は早々に会話を切り上げてイルト王子の手をしっかりと握ってその場を離れる。
「ゆみりあじょう?」
「えっと……私は、イルト様以外、眼中にないですよ?」
ハイライトの消えた目で問いかけるイルト王子に、私はほの暗い喜びを覚えながらも一応諌める。
「……ほんとうに?」
「はいっ。イルト様、大好きですっ!」
そう言って、イルト王子にギュッと抱きつけば、イルト王子もようやく納得したのか、瞳に光を戻す。
「ほかのおとこと、ふたりきりになったらゆるさないからね?」
「そんなこと、万に一つもあり得ないと思いますが、しっかり、肝に銘じておきますねっ」
残念なことに、エルドン侯爵からは今回の事件の黒幕である確証は得られなかった。いや、むしろ、無関係である可能性が高くなってしまった。もしも関係があるのであれば、私が派閥の危機を口にした段階で、あそこまで焦ることはなかったはずだ。
柔らかな笑みを浮かべて機嫌良さげにするイルト王子を前に、私は、残る黒幕候補を考えて、ふいに、視界の端にお父様とお継母様の姿が映る。今回のパーティーは、イルト王子にエスコートされるためにお父様達とは別々に来ることになったものの、二人もしっかりと参加しているのだ。
(あれ? あの、お父様達と話しているのは……)
そして、そこに映った黒幕候補の姿に、私は、そいつを黒幕だと認定して、笑みを浮かべるのだった。
確かに、エルドン侯爵は第一王子派であることに変わりはない。しかし、穏健派にも過激派にも通じているとなれば、その立場は一気に怪しげなものへと変わってくる。
(ただ、自分に利のある方を見定めている、というだけなら良いんだけど……)
もし、そうでなかった場合は、彼の存在は地雷になりかねない。
飄々と誤魔化してみせるエルドン侯爵に、私はちょっとだけ、爆弾を投げてみる。
「そうですか、なら、一つだけ面白い情報を差し上げます。近々、侯爵の派閥は大打撃を受けて、再起不能になりそうですよ?」
にっこりと微笑みながら告げれば、エルドン侯爵はひくりと頬を引きつらせる。彼の情報網には、そんな兆候は欠片もなかったはずだ。しかし、それを五歳児の公爵令嬢があたかも当然のように宣言する。そうなってくると、エルドン侯爵としては疑問に思うはずだ。『過激派と穏健派、どちらの派閥が被害を受ける?』と。
もちろん、内情を知らなければ第一王子派全体が打撃を受けると思う者も居るだろうが、エルドン侯爵はそうは受け取らないだろう。何せ、第一王子派は巨大な派閥だ。それらへ一気に攻撃を仕掛け、傾かせることは不可能と言っても過言ではない。
「それは、お父君から伺ったのですかな?」
「さぁ? どうでしょう?」
私のお父様は、恐らく、エルドン侯爵は穏健派だと思っている。と、いうより、ほとんどの人間がエルドン侯爵は第一王子派の穏健派だと考えているのだ。だから、エルドン侯爵はそこを突いて、誰からの情報かを得ることによって、どちらの派閥が危険なのかを探ろうとしたのだろうが、そんな単純な引っかけに乗ってあげるつもりはない。
そもそも私は、侯爵にどちらの派閥に属しているのかを尋ねてしまっている。そうなると、エルドン侯爵には自身がどちらの派閥だと思われているのかが分からなくなってしまう。
(さて、と。あなたは私達の敵かな?)
私から情報を引き出せず、しかも、これだけの駆け引きを見せられて、派閥の危機という情報をはったりだと断じることもできなくなったエルドン侯爵は、どうにか笑顔を浮かべながらも次の言葉を探しているらしかった。しかし……。
「ゆみりあじょう。もう、あいさつはおわったのだから、ぼくのそばにいて?」
「はい、喜んでっ」
イルト王子の存在が、タイムリミットを告げる。さすがに、エルドン侯爵もイルト王子に逆らうような真似はできない。
(悩め悩め。もしも敵ならば、嫌がらせになるし、そうでなかったとしても……うん、しっかりと私達の利になる。しっかりと働いてね?)
「それでは、私達はここで失礼します」
「え、えぇ、またいずれ、お会いしとうございますな」
社交辞令の一貫、もしくは、本音でそう言ったであろうエルドン侯爵に、イルト王子は冷たい視線を注ぐ。
「……」
「は、はいっ、そうですね。それでは」
今にもエルドン侯爵を殺しそうな雰囲気のイルト王子に、私は早々に会話を切り上げてイルト王子の手をしっかりと握ってその場を離れる。
「ゆみりあじょう?」
「えっと……私は、イルト様以外、眼中にないですよ?」
ハイライトの消えた目で問いかけるイルト王子に、私はほの暗い喜びを覚えながらも一応諌める。
「……ほんとうに?」
「はいっ。イルト様、大好きですっ!」
そう言って、イルト王子にギュッと抱きつけば、イルト王子もようやく納得したのか、瞳に光を戻す。
「ほかのおとこと、ふたりきりになったらゆるさないからね?」
「そんなこと、万に一つもあり得ないと思いますが、しっかり、肝に銘じておきますねっ」
残念なことに、エルドン侯爵からは今回の事件の黒幕である確証は得られなかった。いや、むしろ、無関係である可能性が高くなってしまった。もしも関係があるのであれば、私が派閥の危機を口にした段階で、あそこまで焦ることはなかったはずだ。
柔らかな笑みを浮かべて機嫌良さげにするイルト王子を前に、私は、残る黒幕候補を考えて、ふいに、視界の端にお父様とお継母様の姿が映る。今回のパーティーは、イルト王子にエスコートされるためにお父様達とは別々に来ることになったものの、二人もしっかりと参加しているのだ。
(あれ? あの、お父様達と話しているのは……)
そして、そこに映った黒幕候補の姿に、私は、そいつを黒幕だと認定して、笑みを浮かべるのだった。
69
お気に入りに追加
5,677
あなたにおすすめの小説
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる