悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

文字の大きさ
上 下
96 / 412
第一章 幼少期編

第九十五話 王家の守り人

しおりを挟む
 やって参りました。謁見の間。
 なぜ、私がこんなところに居るのかといえば、王妃様が口にした『王家の守り人』という存在についての説明のためだ。と、いっても、実のところ、この言葉の意味はお父様からあらかじめ説明を受けている。


「面を上げよ」


 お父様とともに顔を上げた私は、陛下へと視線を向ける。
 陛下と対面するのは二度目だが、正直、前回はイルト王子のことしか見えていなかった。こうやって、陛下をまともに見るのは、初めてと言っても過言ではない。


(うん、威厳たっぷりの王様だ)


 厳めしい顔つきで、威圧感を与えるその様子は、王という座に相応しいと思えた。王妃様に引き続き、表情を読み取らせてはくれそうにない。


「此度は、王妃の危機を救い出してくれたこと、感謝する」

「もったいなきお言葉」


 私は、一応五歳児ということで、陛下との会話は、求められでもしない限りお父様の役割となる。私のここでの役割は、ただただ黙って話を聞くことのみ。いわゆる、形式というやつだ。


「王妃が口にした『王家の守り人』というのは、ユミリア嬢で決定した。王家に仕え、王家のためにのみ働く駒。とはいえ、ユミリア嬢は公爵家の令嬢でもある。特例として、代行者の許可を出すこととした。その選抜は、アルテナ公爵へと一任する。良いな?」

「御意」


 陛下の言葉通り、『王家の守り人』というのは、王家のために存在する実力者のことだ。戦争が絶えなかった昔に成立した制度であり、彼らは影からずっと王家を守り続けてきた。おかげで、彼らはその地位を表立って宣言する場合、王家の次に権力を持つ者として見られたのだが……ここ百年ほど、戦争から遠ざかっている我が国においては、その制度は風化したものだった。そんな制度を持ち出した王妃様が何を考えていたのかといえば、とにかくその場を収めることと、私を安全圏に引き上げることだった。ただ、風化していたとはいえ、法としてなくなっていたわけではないそれは、私に強力な義務を課すこととなる。すなわち、『全ての力を用いて、王家を守ること』だ。


(うん、まぁ、王妃様もそこまでのことを私に求めてはいなかったよね……)


 もちろん、王妃様も、陛下も、私にその役割を本気で押しつけるつもりはない。だからこその、『代行者』などという特例なのだ。要するに『ユミリア嬢を本気で王家の守り人にするつもりはないよ? だから、適当にそこそこの実力がある人物を選んで、そいつがユミリア嬢の代わりに王家を守るように仕向けてね? 実績は、全部ユミリア嬢のものにしておくから』ということだ。


(まぁ、普通、五歳児が『王家の守り人』って何の冗談だと思うよね)


 それほどまでに重い立場。幸いにして、あのお茶会ではそれを完全に察せるほどの大人がいなかったため、『王妃様が私を『王家の守り人』という存在と示して場を収めた』くらいにしか受け取られなかったものの、これが親世代に報告されるとなるとその程度では収まらない。
 『王妃様から贔屓されて、高い地位を得た』なんて思う者も居るだろうし、そもそも、報告そのものを疑って本気にしない者だって出てくるだろう。何らかの魔法で、そう見せただけなのだと思われても仕方がないのだ。


(でも、王族の発言は重い。王妃様の発言自体は、嘘だと思うことは不可能だろうから、私に対しては、かなり負の感情が集中する。で、それを撤回するために、『代行者』なんてものを持ち出した、と)


 『代行者』の存在は、恐らくは極秘事項だろう。私の代わりに『代行者』が実績を出せば、それだけ、私へ手を出そうとする者は居なくなる。お父様とて、それが分かるからこそ、『代行者』の選別に手を抜く、ということはない。


(急ごしらえにしては、上手く考えてる、のかな?)


 ところどころに穴がないわけではない。しかし、それでも大きな穴は塞げたといったところだろう。そんな状態だからこそ、王妃様が、あの時、必死に考えを巡らせてくれたのだとも理解できる。


(……よしっ、『代行者』はローランってことにしておいてもらおうっ)


 ただ、私にとっては上手い隠れ蓑ができた、という状況だったりもする。味方にとっては、ローランが私の実績を作っていると思わせられるし、敵にとっては、私という存在がどんどん脅威となって映るだろう。もちろん、正しい認識は敵側のものだ。私は、ローランに身代わりをしてもらうつもりなどない。せっかく、『王家の守り人』なんていう素敵な立場と権力をもらったのだ。思う存分、イルト王子や王妃様を守るために使う所存である。
 謁見の間で、仰々しく『王家の守り人』就任の証であるブローチを受け取った私は、お父様に連れられて早々に退出したのだった。
しおりを挟む
感想 344

あなたにおすすめの小説

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...