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第一章 幼少期編
第八十一話 いざ、お茶会
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お茶会の会場は、王城のローズガーデン。色とりどりの薔薇が彩る美しいその場所は、歴代の王妃様が愛した場所として有名だ。白いテーブルと椅子が疎らに並ぶそこでは、日光をある程度遮断する結界がそれぞれのテーブルごとに設置されている。城のメイドがせっせと給仕を行い、紅茶の良い香りが辺りに漂う。
私とイルト王子、アルト王子がその会場へ足を踏み入れれば、そこでは反応が二手に分かれた。一つは、私やイルト王子を忌避する者、もう一つは、アルト王子に取り入ろうとする者だ。
(ここまで露骨だと、むしろ感心する)
私は公爵令嬢。そして、イルト王子は、この国の王子。そんな立場であるにもかかわらず、彼ら彼女らは私達を恐れ、嫌い、遠ざけようとする。どうやら、今回のお茶会は私達の年齢にある程度合わせた者が集まっているらしく、上は十歳くらいだろうか。年齢が下にいくほど、私達を恐れる目が多く、上にいけば、アルト王子に媚びを売る者と私達を蔑む者が半々くらいになる。
そんな会場を前に、イルト王子はエスコートのために取っていた私の手をギュッと握る。
「だいじょうぶ。ゆみりあじょうは、ぼくがまもるから」
真剣な瞳で告げられて、私の心臓はズッキューンと打ち抜かれる。
(なんなのっ、イルト様は、私を殺す気なの!? いや、ダメよ、ユミリア、まだ死んじゃあっ。私の夢は、イルト様のお嫁さんになって、子供をたくさん産んで、幸せな家庭を築いて、うんと年を重ねて、子供や孫に囲まれて看取られることなんだからっ!)
「た、頼りにしてます」
頬の熱をはっきりと感じながら、そう告げれば、イルト王子は嬉しそうに微笑む。
イルト王子にエスコートされるがまま、私は空いていたテーブル席へと座り、メイドが紅茶やお菓子を持ってくる様子を眺める。
「おうひさまは、すぐにこられるはずだから、それまで、ゆっくりしよう」
「はいっ」
アルト王子が入り口から数歩も歩かないうちに肉食な令嬢達から集られているのを横目に、私は色とりどりのお菓子をキラキラとした目で眺める。
(さすがは王城。どれも美味しそうっ)
プチケーキ達が並ぶお皿を見て、どれを取ろうかと迷っていると、ふいに、隣からイルト王子が私を呼ぶ。
「ゆみりあじょう、はい、あーん」
蕩けるような微笑みを浮かべて、いつの間にかケーキをフォークに刺していたイルト王子。そのあまりにも刺激の強過ぎる光景に、私は、ここが天国かと少しばかり思考を飛ばす。
「ゆみりあじょう? これはきらい?」
「い、いえ、そんなことありませんっ」
「そっかっ! なら、はい、あーんっ」
期待に満ちた表情で『あーん』を決行してくるイルト王子に、私はワタワタしながらも、ギュッと目を閉じて、口を開く。
「んっ」
「どう? おいしい?」
『あーん』の衝撃が強過ぎて、味が分からない。しかし、それでも必死にうなずけば、イルト王子は本当に嬉しそうにして、次はどれが食べたいかと尋ねてくる。
(えっ? これ、まだ続くの……? し、心臓が持たないんだけど!?)
そんな私の思いはお構い無しに、イルト王子はその後も『あーん』を続ける。
王妃様が来るまで、そんなに時間はかからなかったはずなのだが、それまでの間、私はイルト王子の微笑みに終始心臓をフル稼働させ続け、クラクラとしてしまうのだった。
私とイルト王子、アルト王子がその会場へ足を踏み入れれば、そこでは反応が二手に分かれた。一つは、私やイルト王子を忌避する者、もう一つは、アルト王子に取り入ろうとする者だ。
(ここまで露骨だと、むしろ感心する)
私は公爵令嬢。そして、イルト王子は、この国の王子。そんな立場であるにもかかわらず、彼ら彼女らは私達を恐れ、嫌い、遠ざけようとする。どうやら、今回のお茶会は私達の年齢にある程度合わせた者が集まっているらしく、上は十歳くらいだろうか。年齢が下にいくほど、私達を恐れる目が多く、上にいけば、アルト王子に媚びを売る者と私達を蔑む者が半々くらいになる。
そんな会場を前に、イルト王子はエスコートのために取っていた私の手をギュッと握る。
「だいじょうぶ。ゆみりあじょうは、ぼくがまもるから」
真剣な瞳で告げられて、私の心臓はズッキューンと打ち抜かれる。
(なんなのっ、イルト様は、私を殺す気なの!? いや、ダメよ、ユミリア、まだ死んじゃあっ。私の夢は、イルト様のお嫁さんになって、子供をたくさん産んで、幸せな家庭を築いて、うんと年を重ねて、子供や孫に囲まれて看取られることなんだからっ!)
「た、頼りにしてます」
頬の熱をはっきりと感じながら、そう告げれば、イルト王子は嬉しそうに微笑む。
イルト王子にエスコートされるがまま、私は空いていたテーブル席へと座り、メイドが紅茶やお菓子を持ってくる様子を眺める。
「おうひさまは、すぐにこられるはずだから、それまで、ゆっくりしよう」
「はいっ」
アルト王子が入り口から数歩も歩かないうちに肉食な令嬢達から集られているのを横目に、私は色とりどりのお菓子をキラキラとした目で眺める。
(さすがは王城。どれも美味しそうっ)
プチケーキ達が並ぶお皿を見て、どれを取ろうかと迷っていると、ふいに、隣からイルト王子が私を呼ぶ。
「ゆみりあじょう、はい、あーん」
蕩けるような微笑みを浮かべて、いつの間にかケーキをフォークに刺していたイルト王子。そのあまりにも刺激の強過ぎる光景に、私は、ここが天国かと少しばかり思考を飛ばす。
「ゆみりあじょう? これはきらい?」
「い、いえ、そんなことありませんっ」
「そっかっ! なら、はい、あーんっ」
期待に満ちた表情で『あーん』を決行してくるイルト王子に、私はワタワタしながらも、ギュッと目を閉じて、口を開く。
「んっ」
「どう? おいしい?」
『あーん』の衝撃が強過ぎて、味が分からない。しかし、それでも必死にうなずけば、イルト王子は本当に嬉しそうにして、次はどれが食べたいかと尋ねてくる。
(えっ? これ、まだ続くの……? し、心臓が持たないんだけど!?)
そんな私の思いはお構い無しに、イルト王子はその後も『あーん』を続ける。
王妃様が来るまで、そんなに時間はかからなかったはずなのだが、それまでの間、私はイルト王子の微笑みに終始心臓をフル稼働させ続け、クラクラとしてしまうのだった。
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