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第一章 幼少期編
第六十六話 週に一度の交流
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イルト王子との手紙のやり取りは、毎日続いている。内容はどれもこれも他愛のないものばかり。それでも、イルト王子が私のために手紙を書いてくれているという事実そのものが、天に昇るほど嬉しかった。
(あぁっ、今日は、イルト様に会える。やっと、やっとこの日が……)
そして今日は、一週間に一度のイルト様との交流の日。まだまだ礼儀作法も、教養も足りない。まだまだ、イルト王子の隣で胸を張れるほどではない。
(でも、前世というアドバンテージがある分、同じ年頃の子と比べれば抜きん出てる)
残念ながら、記憶チートや武力チートなんてものは、私自身には備わっていない。備わっているのは生産チートであり……むしろ、それを使えば記憶チートも武力チートも可能なのだが、それは何となく手抜きのような気がして嫌だった。もちろん、本当に必要な時に躊躇うことはないだろうが、そうでないのならば、努力を怠ることはあってはならないと思ってしまう。
「ユミリア、ちょっとは落ち着いたら?」
「ユミリア、遊ぶ?」
メリーにドレスもメイクも髪も、全てセットしてもらって、自室で待てなかった私は、玄関口でウロウロとしていた。セイは呆れた様子だし、鋼は、遊んでもらえると思っているらしく、尻尾がブンブンと振られている。
「うん、落ち着く。それと、鋼は、後でね?」
深呼吸をゆっくりと繰り返し。私は頑張って落ち着こうと努める。すでに、先触れは来ているため、すぐにでもイルト王子が来てもおかしくはない状態だ。
「っ、ユミリア、来た!」
そして、このメンバーの中で最も耳の良い鋼が、馬車の音を捉えたらしく、ようやく落ち着きそうだった心臓がドキンッと跳ね上がる。
「あ、ぅ……セ、セイ。私、どこかおかしいところない?」
「……ユミリア、その質問、さっきから十回以上聞いてるんだけど? 自信持ちなよ」
「大丈夫。ユミリアはいつも通りだ」
セイの言葉には励まされたが、鋼の言葉は聞かなかったことにする。いつも以上におしゃれをしていて、いつも通りだったら困るのだ。
そして、次第に私にも外の音が聞こえるようになって、緊張したまま扉を見つめていると、おもむろにメリーの夫であるムトが扉を開ける。
「ゆみりあじょう!」
「っ、イルト様!」
その後から入ってきたのは、もちろん、イルト王子で、一週間ぶりのイルト王子を前に私の心臓はバクバクと音を立てる。
イルト王子は、私の姿を見た途端、満面の笑みを浮かべて駆け寄ろうとして……すぐに、ハッとしたような表情になり、何かを後ろ手に隠して歩いてくる。
「ゆみりあじょう。いつもてがみをありがとう。これ、ゆみりあじょうのために、しろでとってきたんだ」
そうして差し出されたのは、一輪の赤い薔薇。この世界にも花言葉は存在し、赤い薔薇一輪の花言葉は、『あなただけを愛している』だ。
一瞬、イルト王子はその意味を知っているのだろうかと疑問を抱いてその表情を窺えば……私の心に、その表情はクリティカルヒットした。
真っ赤な顔で、モジモジとしながら上目遣いでこちらを見るイルト王子。明らかに、意味を理解していると思われるその表情に、私は、心臓が止まるのではないかと思った。
「あ、ありがとう、ございます」
そっと、震える手から、震える手でそれを受け取る。
「……」
「……」
「おほんっ。ユミリアお嬢様?」
「っ!? あっ……ど、どうぞ、こちらへっ」
赤い薔薇を前に、二人で一緒になって固まっていた私達は、ムトの言葉でようやく起動する。
案内することも忘れていたと、少し慌てたものの、そのまま振り返れば、セイ、鋼、お父様、お継母様の生温かい視線が……。
「あぅぅ……」
これは、別の意味で居たたまれない。しかし、そのままムトが案内を始めてくれたおかげで、私は羞恥心に殺されることなく、応接室に着く前には、頬の火照りも治まった……と思う。
「ユミリアお嬢様。それでは、存分にいちゃついてください」
「それは余計よっ!」
しかし、応接室で座った途端に、ムトにサムズアップされてそんなことを言われたせいで、私は再び、頬の熱と格闘することになった。
(あぁっ、今日は、イルト様に会える。やっと、やっとこの日が……)
そして今日は、一週間に一度のイルト様との交流の日。まだまだ礼儀作法も、教養も足りない。まだまだ、イルト王子の隣で胸を張れるほどではない。
(でも、前世というアドバンテージがある分、同じ年頃の子と比べれば抜きん出てる)
残念ながら、記憶チートや武力チートなんてものは、私自身には備わっていない。備わっているのは生産チートであり……むしろ、それを使えば記憶チートも武力チートも可能なのだが、それは何となく手抜きのような気がして嫌だった。もちろん、本当に必要な時に躊躇うことはないだろうが、そうでないのならば、努力を怠ることはあってはならないと思ってしまう。
「ユミリア、ちょっとは落ち着いたら?」
「ユミリア、遊ぶ?」
メリーにドレスもメイクも髪も、全てセットしてもらって、自室で待てなかった私は、玄関口でウロウロとしていた。セイは呆れた様子だし、鋼は、遊んでもらえると思っているらしく、尻尾がブンブンと振られている。
「うん、落ち着く。それと、鋼は、後でね?」
深呼吸をゆっくりと繰り返し。私は頑張って落ち着こうと努める。すでに、先触れは来ているため、すぐにでもイルト王子が来てもおかしくはない状態だ。
「っ、ユミリア、来た!」
そして、このメンバーの中で最も耳の良い鋼が、馬車の音を捉えたらしく、ようやく落ち着きそうだった心臓がドキンッと跳ね上がる。
「あ、ぅ……セ、セイ。私、どこかおかしいところない?」
「……ユミリア、その質問、さっきから十回以上聞いてるんだけど? 自信持ちなよ」
「大丈夫。ユミリアはいつも通りだ」
セイの言葉には励まされたが、鋼の言葉は聞かなかったことにする。いつも以上におしゃれをしていて、いつも通りだったら困るのだ。
そして、次第に私にも外の音が聞こえるようになって、緊張したまま扉を見つめていると、おもむろにメリーの夫であるムトが扉を開ける。
「ゆみりあじょう!」
「っ、イルト様!」
その後から入ってきたのは、もちろん、イルト王子で、一週間ぶりのイルト王子を前に私の心臓はバクバクと音を立てる。
イルト王子は、私の姿を見た途端、満面の笑みを浮かべて駆け寄ろうとして……すぐに、ハッとしたような表情になり、何かを後ろ手に隠して歩いてくる。
「ゆみりあじょう。いつもてがみをありがとう。これ、ゆみりあじょうのために、しろでとってきたんだ」
そうして差し出されたのは、一輪の赤い薔薇。この世界にも花言葉は存在し、赤い薔薇一輪の花言葉は、『あなただけを愛している』だ。
一瞬、イルト王子はその意味を知っているのだろうかと疑問を抱いてその表情を窺えば……私の心に、その表情はクリティカルヒットした。
真っ赤な顔で、モジモジとしながら上目遣いでこちらを見るイルト王子。明らかに、意味を理解していると思われるその表情に、私は、心臓が止まるのではないかと思った。
「あ、ありがとう、ございます」
そっと、震える手から、震える手でそれを受け取る。
「……」
「……」
「おほんっ。ユミリアお嬢様?」
「っ!? あっ……ど、どうぞ、こちらへっ」
赤い薔薇を前に、二人で一緒になって固まっていた私達は、ムトの言葉でようやく起動する。
案内することも忘れていたと、少し慌てたものの、そのまま振り返れば、セイ、鋼、お父様、お継母様の生温かい視線が……。
「あぅぅ……」
これは、別の意味で居たたまれない。しかし、そのままムトが案内を始めてくれたおかげで、私は羞恥心に殺されることなく、応接室に着く前には、頬の火照りも治まった……と思う。
「ユミリアお嬢様。それでは、存分にいちゃついてください」
「それは余計よっ!」
しかし、応接室で座った途端に、ムトにサムズアップされてそんなことを言われたせいで、私は再び、頬の熱と格闘することになった。
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