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第一章 幼少期編
第六十話 王の心(ガイアス視点)
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今、私の目の前には、非常にめんど……ゲフンゲフン、偉い人物が居る。ライル・ラ・リーリス。このリーリス国における国王にして、私の従兄弟だ。
「それで、なぜ、殿下に何も言わない?」
「……私が何か話したところで、守ってはやれない。無理だ。嫌われたら、死ぬっ」
謁見の間では仰々し過ぎるということで、応接室へと場所を移した私達は、互いに向き合う形で座り、人払いをした静かな空間で無礼講で話し合う。
「安心しろ。すでに嫌われている可能性は高い」
「ぐはぁっ」
ダメージを受ける陛下を横目に紅茶を飲むと、不思議といつもより美味しく感じる。やはり、その場の雰囲気というのは大切なのだろう。
「そもそも、守るためだといって接触を控えたところで、守れているのかどうか怪しいところだと思わないのか?」
「いや、しかし、そうしているからこそ刺客の数も少なく済んでいるとも考えられるし……」
「体は守れても、心までは守れていないのではないか?」
「だからこそ、今回の婚約も認めたのだ。イルトがあそこまで関心を示すことなど、見たこともなかったのだからな」
「……うちのユミリアに目をつけたことは、素直に称賛しよう。だが、まだユミリアは可愛い盛りなんだっ! それが、こんなに早く婚約者ができるとかっ」
「いや、五歳くらいなら、婚約者ができてもおかしくないだろう?」
ユミリアが、私の大切な愛娘が、イルト殿下に取られてしまうのは、かなり悔しいものがある。しかし、それがライル陛下にとっても、イルト殿下にとっても、そして、アルト殿下にとってもこの上なく良い選択肢であることに間違いはなかった。それが分かるからこそ、私は愚痴を吐くくらいのことしかできない。
「くっ、ユミリア……」
「いや、そこまで悲壮感たっぷりだと、私が悪いみたいな気がするのだが!?」
ユミリア達が居た時とはかなり反応の異なるライル陛下は、もちろん、これが素だ。しかし、この状態を知る者は、きっとかなり少ないのだろう。少なくとも、ライル陛下の息子達は知らないはずだった。
「っと、そんな話ではなかったな。改めて、今回の婚約を受けてくれたこと、感謝する」
そうして、深々と頭を下げるライル陛下。これが他の人間が居る場所であったら問題になっていただろうが、今回は私とライル陛下だけだ。とりあえず、慌てて頭を上げるように言うと、ライル陛下は、最近ではほとんど見ることのなかった穏やかな表情を浮かべていた。
「イルトがユミリア嬢と婚約したことで、イルトが王太子になるという未来は、より薄まった。まだ完全ではないが、イルトを担ぎ上げようとする輩にはろくな奴が居ない。イルト自身、万が一王太子になってしまえば、辛い現実に直面するだけだ」
陛下が言うことは正しい。イルト殿下は、その色さえなければ、良き王として讃えられたのではないかと思えるくらいに、頭が良い。しかし、イルト殿下が立太子すれば、黒ゆえに、巨大な反発が起こるはずだ。下手をすれば、クーデターすら起こりかねない。
ライル陛下からすれば、イルト殿下を守るためにも、イルト殿下には、どこかの婿になってもらうしかなかった。ユミリアとの婚約は、イルト殿下を強く守るための一手なのだ。
「……今度からは、私にもイルト殿下を守る理由ができた。そろそろ、素直になってみたらどうだ?」
「……考えておく」
自身から遠ざけることで、イルト殿下を守っていたライル陛下。しかし、それはイルト殿下にとって寂しさを募らせるばかりの手段でもある。だから、状況が変わった今、方針を変えることだって可能なはずなのだ。
『考えておく』と言いながらも、すでに答えを決めているらしいライル陛下は、再び私にお礼を告げて、二人を迎えに行こうということで席を立つのだった。
「それで、なぜ、殿下に何も言わない?」
「……私が何か話したところで、守ってはやれない。無理だ。嫌われたら、死ぬっ」
謁見の間では仰々し過ぎるということで、応接室へと場所を移した私達は、互いに向き合う形で座り、人払いをした静かな空間で無礼講で話し合う。
「安心しろ。すでに嫌われている可能性は高い」
「ぐはぁっ」
ダメージを受ける陛下を横目に紅茶を飲むと、不思議といつもより美味しく感じる。やはり、その場の雰囲気というのは大切なのだろう。
「そもそも、守るためだといって接触を控えたところで、守れているのかどうか怪しいところだと思わないのか?」
「いや、しかし、そうしているからこそ刺客の数も少なく済んでいるとも考えられるし……」
「体は守れても、心までは守れていないのではないか?」
「だからこそ、今回の婚約も認めたのだ。イルトがあそこまで関心を示すことなど、見たこともなかったのだからな」
「……うちのユミリアに目をつけたことは、素直に称賛しよう。だが、まだユミリアは可愛い盛りなんだっ! それが、こんなに早く婚約者ができるとかっ」
「いや、五歳くらいなら、婚約者ができてもおかしくないだろう?」
ユミリアが、私の大切な愛娘が、イルト殿下に取られてしまうのは、かなり悔しいものがある。しかし、それがライル陛下にとっても、イルト殿下にとっても、そして、アルト殿下にとってもこの上なく良い選択肢であることに間違いはなかった。それが分かるからこそ、私は愚痴を吐くくらいのことしかできない。
「くっ、ユミリア……」
「いや、そこまで悲壮感たっぷりだと、私が悪いみたいな気がするのだが!?」
ユミリア達が居た時とはかなり反応の異なるライル陛下は、もちろん、これが素だ。しかし、この状態を知る者は、きっとかなり少ないのだろう。少なくとも、ライル陛下の息子達は知らないはずだった。
「っと、そんな話ではなかったな。改めて、今回の婚約を受けてくれたこと、感謝する」
そうして、深々と頭を下げるライル陛下。これが他の人間が居る場所であったら問題になっていただろうが、今回は私とライル陛下だけだ。とりあえず、慌てて頭を上げるように言うと、ライル陛下は、最近ではほとんど見ることのなかった穏やかな表情を浮かべていた。
「イルトがユミリア嬢と婚約したことで、イルトが王太子になるという未来は、より薄まった。まだ完全ではないが、イルトを担ぎ上げようとする輩にはろくな奴が居ない。イルト自身、万が一王太子になってしまえば、辛い現実に直面するだけだ」
陛下が言うことは正しい。イルト殿下は、その色さえなければ、良き王として讃えられたのではないかと思えるくらいに、頭が良い。しかし、イルト殿下が立太子すれば、黒ゆえに、巨大な反発が起こるはずだ。下手をすれば、クーデターすら起こりかねない。
ライル陛下からすれば、イルト殿下を守るためにも、イルト殿下には、どこかの婿になってもらうしかなかった。ユミリアとの婚約は、イルト殿下を強く守るための一手なのだ。
「……今度からは、私にもイルト殿下を守る理由ができた。そろそろ、素直になってみたらどうだ?」
「……考えておく」
自身から遠ざけることで、イルト殿下を守っていたライル陛下。しかし、それはイルト殿下にとって寂しさを募らせるばかりの手段でもある。だから、状況が変わった今、方針を変えることだって可能なはずなのだ。
『考えておく』と言いながらも、すでに答えを決めているらしいライル陛下は、再び私にお礼を告げて、二人を迎えに行こうということで席を立つのだった。
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