60 / 412
第一章 幼少期編
第五十九話 離さない
しおりを挟む
「あ、あの、イルト様からっ」
「い、いや、ゆみりあじょうからっ」
お互いにお互いへと会話を譲り合う私達。しかし、こういった場合、どちらかが妥協しなくてはならない。戸惑い、緊張しながらも、『では』と応えて、私は続きを話す。
「その、イルト様は、この婚約をどうお思いになっているのですか?」
私は確かに、イルト様のことが大好きだ。しかし、イルト様の方はどうなのだろう? もしかすると、政略結婚として割り切っていたりしないだろうか?
そんな不安から出た言葉だったが、私の言葉に、イルト様はほんのり顔を赤くする。
「そ、その……ぼくなどでいいのであれば、ゆみりあじょうと、こんやくしたい、の、だが……」
少し不安そうに、上目遣いになるイルト様を前に、私は可愛いの直撃をくらって一瞬だけ硬直する。
「もちろんっ、私はイルト様が好きなのだから、問題ありませんっ」
しかし、すぐに再起動して、私の想いを伝えれば、イルト王子は顔を真っ赤にする。
「そ、の……ぼくも、ゆみりあじょうのことを、す、す、す……こ、このましいとおもっている」
はにかみ笑顔の何という破壊力だろうか。もう、イルト王子と一緒にいるだけで、心臓がドッタンバッタンとうるさく跳ね回ってしまう。
「はぅっ」
「ゆ、ゆみりあじょう……ぼくは、ゆみりあじょうをいっしょうたいせつにするから、だから、ぼくをすてないで?」
しかも、何やら真剣な声で、潤んだ瞳で、そんなことを言われたら、もう、結婚しても構わないのではないかとさえ思えてくる。
「捨てるなんてありえませんっ! 私は、イルト様と結婚して、たくさん子供を作って、幸せに暮らすことが夢なんですっ!」
思いっきり宣言すれば、イルト王子は……なぜか、泣き出した。
「ふぇ!? ちょっ、えぇっ!?」
「す、すまない……その、うれし、くて……」
先ほどは、ただの欲望の発露しかなかったはずなのに、何がそんなにイルト王子を泣かせるまでのものだったのか分からず、私はただただあたふたする。
(な、泣き顔も可愛……いやいやいや、私はノーマルっ、私はノーマルっ)
「ぼく、は……だれからも、ひつようとされないのだと、おもってた。……にいさんだって、きっと、そのうち、はなれていくんだとおもってた。……ねぇ、ぜったいに、はなれない? すてない?」
「もちろんですっ!」
黒ゆえの孤独。それを聞いた私は、間髪を入れずにイルト王子がほしいであろう言葉を放つ。
「……なら、ずっとはなさないから。ないても、さけんでも、にがさない」
「はいっ!」
後に私は、これがヤンデレの始まりだったことを知ることになるのだが……今はただ、大好きな人からの独占欲に浮かれるたけだった。
「い、いや、ゆみりあじょうからっ」
お互いにお互いへと会話を譲り合う私達。しかし、こういった場合、どちらかが妥協しなくてはならない。戸惑い、緊張しながらも、『では』と応えて、私は続きを話す。
「その、イルト様は、この婚約をどうお思いになっているのですか?」
私は確かに、イルト様のことが大好きだ。しかし、イルト様の方はどうなのだろう? もしかすると、政略結婚として割り切っていたりしないだろうか?
そんな不安から出た言葉だったが、私の言葉に、イルト様はほんのり顔を赤くする。
「そ、その……ぼくなどでいいのであれば、ゆみりあじょうと、こんやくしたい、の、だが……」
少し不安そうに、上目遣いになるイルト様を前に、私は可愛いの直撃をくらって一瞬だけ硬直する。
「もちろんっ、私はイルト様が好きなのだから、問題ありませんっ」
しかし、すぐに再起動して、私の想いを伝えれば、イルト王子は顔を真っ赤にする。
「そ、の……ぼくも、ゆみりあじょうのことを、す、す、す……こ、このましいとおもっている」
はにかみ笑顔の何という破壊力だろうか。もう、イルト王子と一緒にいるだけで、心臓がドッタンバッタンとうるさく跳ね回ってしまう。
「はぅっ」
「ゆ、ゆみりあじょう……ぼくは、ゆみりあじょうをいっしょうたいせつにするから、だから、ぼくをすてないで?」
しかも、何やら真剣な声で、潤んだ瞳で、そんなことを言われたら、もう、結婚しても構わないのではないかとさえ思えてくる。
「捨てるなんてありえませんっ! 私は、イルト様と結婚して、たくさん子供を作って、幸せに暮らすことが夢なんですっ!」
思いっきり宣言すれば、イルト王子は……なぜか、泣き出した。
「ふぇ!? ちょっ、えぇっ!?」
「す、すまない……その、うれし、くて……」
先ほどは、ただの欲望の発露しかなかったはずなのに、何がそんなにイルト王子を泣かせるまでのものだったのか分からず、私はただただあたふたする。
(な、泣き顔も可愛……いやいやいや、私はノーマルっ、私はノーマルっ)
「ぼく、は……だれからも、ひつようとされないのだと、おもってた。……にいさんだって、きっと、そのうち、はなれていくんだとおもってた。……ねぇ、ぜったいに、はなれない? すてない?」
「もちろんですっ!」
黒ゆえの孤独。それを聞いた私は、間髪を入れずにイルト王子がほしいであろう言葉を放つ。
「……なら、ずっとはなさないから。ないても、さけんでも、にがさない」
「はいっ!」
後に私は、これがヤンデレの始まりだったことを知ることになるのだが……今はただ、大好きな人からの独占欲に浮かれるたけだった。
206
お気に入りに追加
5,854
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる