悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第五十九話 離さない

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「あ、あの、イルト様からっ」

「い、いや、ゆみりあじょうからっ」


 お互いにお互いへと会話を譲り合う私達。しかし、こういった場合、どちらかが妥協しなくてはならない。戸惑い、緊張しながらも、『では』と応えて、私は続きを話す。


「その、イルト様は、この婚約をどうお思いになっているのですか?」


 私は確かに、イルト様のことが大好きだ。しかし、イルト様の方はどうなのだろう? もしかすると、政略結婚として割り切っていたりしないだろうか?
 そんな不安から出た言葉だったが、私の言葉に、イルト様はほんのり顔を赤くする。


「そ、その……ぼくなどでいいのであれば、ゆみりあじょうと、こんやくしたい、の、だが……」


 少し不安そうに、上目遣いになるイルト様を前に、私は可愛いの直撃をくらって一瞬だけ硬直する。


「もちろんっ、私はイルト様が好きなのだから、問題ありませんっ」


 しかし、すぐに再起動して、私の想いを伝えれば、イルト王子は顔を真っ赤にする。


「そ、の……ぼくも、ゆみりあじょうのことを、す、す、す……こ、このましいとおもっている」


 はにかみ笑顔の何という破壊力だろうか。もう、イルト王子と一緒にいるだけで、心臓がドッタンバッタンとうるさく跳ね回ってしまう。


「はぅっ」

「ゆ、ゆみりあじょう……ぼくは、ゆみりあじょうをいっしょうたいせつにするから、だから、ぼくをすてないで?」


 しかも、何やら真剣な声で、潤んだ瞳で、そんなことを言われたら、もう、結婚しても構わないのではないかとさえ思えてくる。


「捨てるなんてありえませんっ! 私は、イルト様と結婚して、たくさん子供を作って、幸せに暮らすことが夢なんですっ!」


 思いっきり宣言すれば、イルト王子は……なぜか、泣き出した。


「ふぇ!? ちょっ、えぇっ!?」

「す、すまない……その、うれし、くて……」


 先ほどは、ただの欲望の発露しかなかったはずなのに、何がそんなにイルト王子を泣かせるまでのものだったのか分からず、私はただただあたふたする。


(な、泣き顔も可愛……いやいやいや、私はノーマルっ、私はノーマルっ)

「ぼく、は……だれからも、ひつようとされないのだと、おもってた。……にいさんだって、きっと、そのうち、はなれていくんだとおもってた。……ねぇ、ぜったいに、はなれない? すてない?」

「もちろんですっ!」


 黒ゆえの孤独。それを聞いた私は、間髪を入れずにイルト王子がほしいであろう言葉を放つ。


「……なら、ずっとはなさないから。ないても、さけんでも、にがさない」

「はいっ!」


 後に私は、これがヤンデレの始まりだったことを知ることになるのだが……今はただ、大好きな人からの独占欲に浮かれるたけだった。
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