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第一章 幼少期編
第五十八話 顔合わせ
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今日は、待ちに待った顔合わせの日。本当は、イルト王子の色である黒のドレスを着たかったのだが、急なことだったため、そちらは用意できていない。いや、私が作ろうと思えばできたのだが、それはお父様からの許可が下りていないのでできなかった。何でも、すぐに対応できてしまえば、余計な勘繰りを受けるだろうとのことだった。代わりに、青のドレスと、黒い宝石、オニキスのネックレスを着けて、どこか変なところはないだろうかと鏡で真剣に確認する。
「とても似合っておりますよ」
「本当に? イルト様は、この姿でも気に入ってくださるかな?」
「えぇ、もちろん。もし、気に入らないなどと言われましたら、私がキツくシメて差し上げますので、心配無用です」
少し不穏な言葉を聞きながらも、とりあえずは私とイルト王子の仲を応援してくれているメリーに感謝する。
テキパキと髪をセットして、金の髪飾りがチラリと見える状態になれば、薄くお化粧も施される。
「これで、完璧です。さぁ、ユミリアお嬢様。第二王子殿下を骨抜きにしましょうっ」
「みゅっ!」
そんな掛け声とともに、城へと向かったのが、数十分前。現在の私はというと……。
「……」
「……」
謁見の間に通され、頭を上げる許可を陛下からいただいた直後、イルト王子を見つけて固まる。
(漆黒の正装……すっごく、素敵!)
陛下を素通りして、イルト王子にロックオンした視線は、全く離れない。この素晴らしい姿を何がなんでも目に、記憶に、心に焼きつけなければならない。この世界にカメラが存在しないことが口惜しくて仕方がない。
(って、そうだっ。作れば良い……って、材料が足りない……)
とある昆虫の目が、カメラのレンズに最適な素材なのだが、残念ながらその素材を持っていない私は、格好いいと可愛いの両方を兼ね備えるというミラクルを起こしたイルト王子をじっと、じーっと見つめ続ける。
対して、イルト王子は私が視線を向けた瞬間、ほんのり赤くなった顔をフイッと背けて……そのままだんだんと赤くなっていく。
「……ここまでとはな」
と、そこで、金髪に緑の瞳を持つ厳めしい顔立ちの陛下が小さく低い声をあげる。何のことかと思って、一瞬陛下の方へと視線を向けるものの、その表情は無であり、内心を知ることなどできない。
「イルト、ユミリア嬢を庭へ案内せよ」
「っ、はいっ」
陛下の先ほどの言葉に気づいていなかったらしいイルト王子は、陛下に声をかけられ、ビクッとしながらも受け入れ、私の元へと小さな歩幅で歩いてくる。
「ゆ、ゆみりあじょう。ごいっしょしていただけますか?」
「えぇ、喜んで」
差し出された手にそっと手を置くと、二人で陛下に退出の挨拶をして謁見の間を去る。
(……イルト様の、手が……)
温かいイルト王子の小さな手が、どうしてか心臓をかき回す。
(う、うぅ、手汗とか、ない、よね? 大丈夫、だよね?)
端的に言うのであれば……私は、ものすごく緊張していた。大好きな人と手を繋いでいると考えるだけで、顔に熱が集中する。
(この前は、ここまでじゃなかったはずなのに……)
お互い無言のまま、小さな歩幅で城の庭園を目指す。そして……。
「イルト様」
「ゆみりあじょう」
意図せず、私達はお互いの名前を同時に呼んでしまい、固まった。
「とても似合っておりますよ」
「本当に? イルト様は、この姿でも気に入ってくださるかな?」
「えぇ、もちろん。もし、気に入らないなどと言われましたら、私がキツくシメて差し上げますので、心配無用です」
少し不穏な言葉を聞きながらも、とりあえずは私とイルト王子の仲を応援してくれているメリーに感謝する。
テキパキと髪をセットして、金の髪飾りがチラリと見える状態になれば、薄くお化粧も施される。
「これで、完璧です。さぁ、ユミリアお嬢様。第二王子殿下を骨抜きにしましょうっ」
「みゅっ!」
そんな掛け声とともに、城へと向かったのが、数十分前。現在の私はというと……。
「……」
「……」
謁見の間に通され、頭を上げる許可を陛下からいただいた直後、イルト王子を見つけて固まる。
(漆黒の正装……すっごく、素敵!)
陛下を素通りして、イルト王子にロックオンした視線は、全く離れない。この素晴らしい姿を何がなんでも目に、記憶に、心に焼きつけなければならない。この世界にカメラが存在しないことが口惜しくて仕方がない。
(って、そうだっ。作れば良い……って、材料が足りない……)
とある昆虫の目が、カメラのレンズに最適な素材なのだが、残念ながらその素材を持っていない私は、格好いいと可愛いの両方を兼ね備えるというミラクルを起こしたイルト王子をじっと、じーっと見つめ続ける。
対して、イルト王子は私が視線を向けた瞬間、ほんのり赤くなった顔をフイッと背けて……そのままだんだんと赤くなっていく。
「……ここまでとはな」
と、そこで、金髪に緑の瞳を持つ厳めしい顔立ちの陛下が小さく低い声をあげる。何のことかと思って、一瞬陛下の方へと視線を向けるものの、その表情は無であり、内心を知ることなどできない。
「イルト、ユミリア嬢を庭へ案内せよ」
「っ、はいっ」
陛下の先ほどの言葉に気づいていなかったらしいイルト王子は、陛下に声をかけられ、ビクッとしながらも受け入れ、私の元へと小さな歩幅で歩いてくる。
「ゆ、ゆみりあじょう。ごいっしょしていただけますか?」
「えぇ、喜んで」
差し出された手にそっと手を置くと、二人で陛下に退出の挨拶をして謁見の間を去る。
(……イルト様の、手が……)
温かいイルト王子の小さな手が、どうしてか心臓をかき回す。
(う、うぅ、手汗とか、ない、よね? 大丈夫、だよね?)
端的に言うのであれば……私は、ものすごく緊張していた。大好きな人と手を繋いでいると考えるだけで、顔に熱が集中する。
(この前は、ここまでじゃなかったはずなのに……)
お互い無言のまま、小さな歩幅で城の庭園を目指す。そして……。
「イルト様」
「ゆみりあじょう」
意図せず、私達はお互いの名前を同時に呼んでしまい、固まった。
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