悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第四十九話 パーティー会場

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「「ユミリア(ちゃん)」」

「みゅっ、お父様っ、お継母様」


 本日の御披露目パーティーは、我が家の庭で行われる。そのため、一階に下りれば、エントランスで待ち受けていたお父様とお継母様が優しく微笑んでくれた。


「ユミリア、とても似合っている」

「ふふっ、可愛らしい淑女が出来上がりですわね。さぁ、今日は戦いです。堂々と胸を張るのですよ?」


 金髪に青い瞳を持つ格好いいお父様と、ピンクがかった白っぽい髪にピンクの瞳を持つ可愛らしいお継母様。その二人も、それぞれ正装をしており、特にお母様の髪の色に会わせた白とピンクのグラデーションのドレスは目を惹いた。


「ありがとうございます。お父様。お継母様っ、私、頑張りますっ」


 できるだけ口癖が出ないように気をつけながら話せば、お父様もお継母様もふわりと笑う。


「では、行こうか。雑音は気にせずとも良いからな」

「そうです。うるさい者達の言葉を取り合う必要はありませんからね?」

(それは、やっぱりうるさい人が多いってことだよね?)


 お父様とお継母様の助言に、いっそう気を引き締めた私は、お父様のエスコートで会場へと向かう。

 メリーを助けるために、少しだけ訪れたことのある庭。そこは、とても広大な場所で、お母様が居た頃は多少荒れていたらしいのだが、今は整然としており、色とりどりの花が植えられ、机と椅子が大量に並んでいる。
 そして、その場所に入った瞬間、ザワリと会場に動揺が走る。


「ひっ」

「まぁ、忌み子だなんて」

「不吉だ」

「おかーさまっ! 怖いっ」

「いやっ、いやっ!」


 ザワザワと黒の獣つきを前にした感想が広まっていく。と、いうより、大人はまだしも、子供というのはとても素直で、悲鳴を上げたり泣き叫んだりする者もちらほらと見られる。


(うん、これは、ユミリアが歪むのも分かるわ)


 『モフ恋』で、ユミリアはこの時、相当ショックを受けたことだろう。そして、この後に出会うアルトには、本当に救われたのだと思う。それだけ、この会場は悪意に、恐怖に満ちていた。
 あまりの光景に、少しだけ足を止めた私は、お父様と繋いだ手がふいにギュッと握られて我に返る。


(っ、そうだ。堂々とするんだっ)


 お継母様の言う通り、私は胸を張る。こんなところで負けるわけにはいかない。この程度で折れるわけにはいかない。私は、この世界で幸せになってみせるのだから。

 いつの間にか垂れていた耳をぴんっと立てて、背筋もしっかりと伸ばす。


(私は、ユミリア・リ・アルテナ。アルテナ公爵家長女にして、ガイアス・リ・アルテナとミリア・リ・アルテナの娘!)


 お父様とお継母様が居る。それに、メリーもセイも鋼もローランだって、今はここに居なくとも、いつも近くで見守ってくれている。そんな人達に恥じる行為はできないとばかりに、私は今まで学んだマナーを生かして優雅に歩いてみせる。
 ヒソヒソと囁く声は変わらないものの、それでも、そんなものは取るに足りないものだと割り切って、庭に設けられた壇上へと上がる。


「本日は、五歳になる愛娘のためにお越しくださり、誠にありがとうございます。愛娘の祝いの席とのことで、贅を尽くした料理をご用意致しました。どうぞ、ご堪能あれ」


 お父様がやけに『愛娘』というのを強調した挨拶をした後、次は私の番だとばかりに背中を押される。


「本日は、遠いところをお越しくださいまして、ありがとうございます。私はこの容姿ではありますが、アルテナ公爵家の一人娘として精進して参ります。若輩者ではございますが、どうぞよろしくお願いします」


 そう、ニッコリと笑って挨拶を終え、カーテシーをすれば、会場にはポカンと口を開く大人達が量産される。大方、まだ何も分からない子供だと侮っていたところで、あまりにもしっかりとした挨拶を受けることとなり、呆然としているのだろう。ついでに、私の言葉には、『あまり私を蔑ろにすれば、公爵家の怒りを買いますよ?』という含みもある。
 会場がしん、と静まり返る中、チラリとお父様の方を見れば、キラッキラと目に痛いほどの笑みが返ってくる。どうやら、このくらいの脅しはちょうど良かったらしい。

 しばらくすると、パーティーが本格的に始まって、いくらかの挨拶を受けることとなる。


(確か、しばらくするとお忍びできていたアルトが一人になった私の側に来るんだった、かな?)


 なぜ、王族をこのパーティーに招かないのかと言えば、現在、王妃様の国が戦争に巻き込まれており、それどころではないからだ。ただ、それでもアルトは同じ年頃の近い身分の娘、ということで興味を持ってお忍び状態になってまで来るという設定だったはずだ。


(さぁ、いつでも戦闘体勢は整ってるよっ)


 挨拶が終われば接触することになるであろうアルトのことを考えて、私は奮起した。
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