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第一章 幼少期編
第三十二話 明日に備えて
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ローランと出会ってから、一週間が過ぎた。その間に、私はセイ達とともにいくつかの場所へと赴き、素材採取を必死になって行った。そして、屋敷に居る間は、疲れもあるだろうに、鋼やセイ、ローランがせっせと食べ物を取ってきては貢いでくれた。
(鋼のお肉は分かるし、セイの木の実やら山菜も分かる……でも、ローランはどこからパンとか調味料とか調達してくるんだろう?)
その頃、屋敷では頻繁に食材が盗まれる被害が多発していたのだが、私がそれを知ることはなかった。
(まっ、いっか!)
一週間の間の変化はそれだけではない。あの魔境で採取した魔の実。あれを、すり潰して、妖精の魔力水に一晩漬け込んで、濾して、干して、パン生地に練り込んで、焼いたもの。魔の実入りパンをセイ達と一緒に食べていたところ、ローランには劇的な変化があった。元々、魔の実入りパンには魔力回復効果が付与されてはいるのだが、どうやらそれが作用して、ローランは元の姿に戻ったらしい。
二メートルほどの身長を持つ、ガッチリとした体格の巨漢。幼子姿の時には見えなかった竜人を示す黒いヒレらしきものが、耳の辺りに生えており、お尻にはやはり黒色の竜の尻尾もある。ツンツンとした黒い短髪に、意思の強そうな黒い瞳。もう、幼子の時の面影なんて、黒という特徴くらいしか見当たらない。
魔の実入りパンを幾度か食べた後に、その急激な成長が起こったわけで、服は破けるわ、見えちゃいけないものが見えそうになって、セイ達が慌てて割り込むわ、なんてこともあったが、とりあえず、ローランは大喜びだったとだけ言っておこう。
「これで、動きやすくなった。これならもっと奴らを……ククッ」
だから、その時、ローランが何やら不穏な言葉を呟いていたことなんて知らない。知らないったら知らないのだ。
「ちょりぇではっ、しゃくしぇんかいぎをはじめりゅにょっ(それではっ、作戦会議を始めるのっ)」
「いよいよ、神霊樹の森に挑む?」
「色々準備してたもんなぁ」
「ぼ、僕も、ついていってやるから、一人で行くなよ?」
鋼、ローラン、セイが順番に声をかける中、私は大きく頷く。そう、いよいよ万能薬作成のために必要な素材は残り一つとなった。それは、神霊樹の雫。神霊樹のウロに溜まった雫には、強力な癒しの効果があるため、万能薬作成に必要不可欠なのだ。
「みゅっ、しょうにゃにょっ! しょにょちゃめに、じゅんびをちょちょにょえちゃにょっ(みゅっ、そうなのっ! そのために、準備を整えたのっ)」
今回の私は一味違う。錬金術や裁縫、魔導職人の力はもちろん、鍛冶、設計、機械の力だってフルに活用して、素晴らしい装備を産み出したのだ。その名も……。
「こにょとちにょちゃめにょ、めっしゃちゅしりーじゅっ(この時のための、滅殺シリーズっ)」
そう、私の新たな装備は、そんな物々しい名前の装備だった。ちなみに、これはまだ、最強の武器には程遠い。サブステータスとしては、こんなものだ。
『サブステータス
体力1800、気力1600、腕力1920、敏捷2000、器用1800
補助装備効果
毒耐性80、麻痺耐性80、呪い耐性90、混乱耐性60、即死耐性100』
このステータスは、軽く上級冒険者を越えるものなのだが、実際のところ、ここまでの力があっても神霊樹の森は厳しいところだ。ただ、ここにセイ、鋼、ローランの力が加われば安心であるのも事実。と、いうか、ただ素材を採ってきてもらうだけなら、セイ達に頼めば採れないことはないのだが、セイ達では素材を見定めることができないだろうということで、私もついていくことになったのだ。あそこは、中々に特殊な場所であるため、セイ達だけに頼むのは難しかった。
「しぇいには、じょーくうかりゃにょたんしゃくをおねがいすりゅにょ(セイには、上空からの探索をお願いするの)」
「し、仕方ないなぁ」
「こうとろーらんは、わちゃしといっちょに。はにゃれちゃめっにゃにょ(鋼とローランは、私と一緒に。離れちゃメッなの)」
「分かった」
「おうっ」
あと一つ。あと一つ材料が集まれば、メリーを救う万能薬が完成する。私は、セイ達に神霊樹の森の厄介さを詳しく説明して、注意点を話す。何がなんでも、メリーを助けるために、私は自重なんてするつもりはなかった。
「けっこーはあしちゃ。あしちゃにょおひりゅがおわっちゃりゃ、しゅぐにこうどうしゅりゅにょ(決行は明日。明日のお昼が終わったら、すぐに行動するの)」
そう強く断言すれば、セイ達もうなずいてくれる。油断はできないが、最近、メリーの容態が悪い。時々私の声が聞こえなくなっているようで、メリーは見せないように頑張っているが、随分と辛そうな表情を浮かべている時だってある。
『モフ恋』では、私が二歳の時にメリーが亡くなったとあったが、きっと、その前にメイドを辞めることになりそうだと気づいて、今、大急ぎで事を進めていた。
(どうか、間に合って……)
私は、メリーを助けられますようにと、強く、強く祈って、明日に備えて眠りに就いた。
(鋼のお肉は分かるし、セイの木の実やら山菜も分かる……でも、ローランはどこからパンとか調味料とか調達してくるんだろう?)
その頃、屋敷では頻繁に食材が盗まれる被害が多発していたのだが、私がそれを知ることはなかった。
(まっ、いっか!)
一週間の間の変化はそれだけではない。あの魔境で採取した魔の実。あれを、すり潰して、妖精の魔力水に一晩漬け込んで、濾して、干して、パン生地に練り込んで、焼いたもの。魔の実入りパンをセイ達と一緒に食べていたところ、ローランには劇的な変化があった。元々、魔の実入りパンには魔力回復効果が付与されてはいるのだが、どうやらそれが作用して、ローランは元の姿に戻ったらしい。
二メートルほどの身長を持つ、ガッチリとした体格の巨漢。幼子姿の時には見えなかった竜人を示す黒いヒレらしきものが、耳の辺りに生えており、お尻にはやはり黒色の竜の尻尾もある。ツンツンとした黒い短髪に、意思の強そうな黒い瞳。もう、幼子の時の面影なんて、黒という特徴くらいしか見当たらない。
魔の実入りパンを幾度か食べた後に、その急激な成長が起こったわけで、服は破けるわ、見えちゃいけないものが見えそうになって、セイ達が慌てて割り込むわ、なんてこともあったが、とりあえず、ローランは大喜びだったとだけ言っておこう。
「これで、動きやすくなった。これならもっと奴らを……ククッ」
だから、その時、ローランが何やら不穏な言葉を呟いていたことなんて知らない。知らないったら知らないのだ。
「ちょりぇではっ、しゃくしぇんかいぎをはじめりゅにょっ(それではっ、作戦会議を始めるのっ)」
「いよいよ、神霊樹の森に挑む?」
「色々準備してたもんなぁ」
「ぼ、僕も、ついていってやるから、一人で行くなよ?」
鋼、ローラン、セイが順番に声をかける中、私は大きく頷く。そう、いよいよ万能薬作成のために必要な素材は残り一つとなった。それは、神霊樹の雫。神霊樹のウロに溜まった雫には、強力な癒しの効果があるため、万能薬作成に必要不可欠なのだ。
「みゅっ、しょうにゃにょっ! しょにょちゃめに、じゅんびをちょちょにょえちゃにょっ(みゅっ、そうなのっ! そのために、準備を整えたのっ)」
今回の私は一味違う。錬金術や裁縫、魔導職人の力はもちろん、鍛冶、設計、機械の力だってフルに活用して、素晴らしい装備を産み出したのだ。その名も……。
「こにょとちにょちゃめにょ、めっしゃちゅしりーじゅっ(この時のための、滅殺シリーズっ)」
そう、私の新たな装備は、そんな物々しい名前の装備だった。ちなみに、これはまだ、最強の武器には程遠い。サブステータスとしては、こんなものだ。
『サブステータス
体力1800、気力1600、腕力1920、敏捷2000、器用1800
補助装備効果
毒耐性80、麻痺耐性80、呪い耐性90、混乱耐性60、即死耐性100』
このステータスは、軽く上級冒険者を越えるものなのだが、実際のところ、ここまでの力があっても神霊樹の森は厳しいところだ。ただ、ここにセイ、鋼、ローランの力が加われば安心であるのも事実。と、いうか、ただ素材を採ってきてもらうだけなら、セイ達に頼めば採れないことはないのだが、セイ達では素材を見定めることができないだろうということで、私もついていくことになったのだ。あそこは、中々に特殊な場所であるため、セイ達だけに頼むのは難しかった。
「しぇいには、じょーくうかりゃにょたんしゃくをおねがいすりゅにょ(セイには、上空からの探索をお願いするの)」
「し、仕方ないなぁ」
「こうとろーらんは、わちゃしといっちょに。はにゃれちゃめっにゃにょ(鋼とローランは、私と一緒に。離れちゃメッなの)」
「分かった」
「おうっ」
あと一つ。あと一つ材料が集まれば、メリーを救う万能薬が完成する。私は、セイ達に神霊樹の森の厄介さを詳しく説明して、注意点を話す。何がなんでも、メリーを助けるために、私は自重なんてするつもりはなかった。
「けっこーはあしちゃ。あしちゃにょおひりゅがおわっちゃりゃ、しゅぐにこうどうしゅりゅにょ(決行は明日。明日のお昼が終わったら、すぐに行動するの)」
そう強く断言すれば、セイ達もうなずいてくれる。油断はできないが、最近、メリーの容態が悪い。時々私の声が聞こえなくなっているようで、メリーは見せないように頑張っているが、随分と辛そうな表情を浮かべている時だってある。
『モフ恋』では、私が二歳の時にメリーが亡くなったとあったが、きっと、その前にメイドを辞めることになりそうだと気づいて、今、大急ぎで事を進めていた。
(どうか、間に合って……)
私は、メリーを助けられますようにと、強く、強く祈って、明日に備えて眠りに就いた。
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