32 / 412
第一章 幼少期編
第三十一話 動き出す者達(三人称視点)
しおりを挟む
これは、ユミリアがローランの忠誠の誓いを受け入れて、セイから報酬の素材をもらい、グッスリ眠った後のこと。
「さて、と。それじゃあ、少し話し合いといこうか?」
椅子なんていう気の利いたものが一切置かれていないこの部屋で、セイは床に座り込んでそう告げる。すると、鋼はセイの対面になる位置で伏せ、ローランもその近くに腰を下ろす。
「何の話し合いだ? ユミリア様に関することなら、俺はいくらでも話に乗るぞ?」
ユミリアに様をつけ始めたローランは、真剣な目でセイを見つめる。
「もちろん、ユミリアのことだよ。ただ、僕は人間のことをよく知らないから、思い違いかもしれないんだけど、それでも話しておいた方が良いかと思ってね」
そう言って、セイは自分が知るユミリアのことを話し出す。鋼をあっさりと下した実力、ユミリアが素材を集める目的、魔境で自分達を進化させてしまったユミリアの魔力。
黙って話を聞いていたローランは、次第に顎が外れんばかりに口を開け続けることとなる。
「そ、れは、また……ユミリア様は、随分と規格外な方なんだな」
「ユミリア、強い」
驚くローランに、鋼は自分が褒められたかのように、嬉しそうに尻尾をブンブンと振る。
「あぁ、やっぱり、ユミリアって異常だったんだねぇ」
対して、人間を知らなかったセイは、やはりユミリアが特殊だったのだと知り、遠い目をする。
「しかし、ユミリア様が助けようとしている盲目のメイド、か……。ん? だが、ユミリア様くらいの年齢ならば、普通は親を頼るものだろう? 少なくとも、妖精の森なんて場所に出入りを許すのは普通じゃないと思うが?」
「あぁ、それについても、ちょっと知りたいことがあったんだ。ねぇ、人間は、カビが生えたものでも平気で食べるものなの?」
「はっ? カビ? 食べるわけないだろう?」
ローランは、ユミリアがメリーから食事を渡されている場面を見ていない。その時はまだ意識を失った状態だったため、目の見えないメリーが、ユミリアにカビの生えたパンを渡している様子を見ていないのだ。そのため、セイは慎重に、言葉を選びながらその時の説明をしていく。
「多分、あの盲目のメイドは何も知らない。ユミリアのことを大切に想っていることは、僕達にも伝わってきたよ。ただ、だからこそ、この場所には、ユミリアを良く思っていないやつが居るってことになる」
そう締め括れば、凄まじい殺気が鋼とローランの二人から放たれそうになり……。
「落ち着いてよ。ユミリアが起きるよ?」
すんでのところで踏み留まる。しかし、セイ自身も怒りを感じていないわけではないようで、その魔力が可視化できるほど濃密に集まってきている。
「そうか、だから、ユミリアは、ぼくに食料調達を頼んだ……」
鋼のその言葉に、セイとローランはすぐさま食い付き、カビパン事件が今回限りのものではなかったことを知る。
「ふ、ふふふふっ。これは、情報収集が必要だね」
「あぁ、それなら俺に任せろ。隠密は得意だし、もしかしたらこの国の文字も読めるかもしれない」
「ぼく、ユミリアの食料、毎日調達するっ。牙も、研いておくっ」
三者三様に、魔力、闘気、殺気を揺らめかせて、役割を決めていく。
そんなこととは知らないユミリアは、魔境での疲れが出たのか、全く目を覚ます様子はない。小さな寝息を漏らして、クゥクゥと眠り続ける。
三人の守護者は、己の守護する愛しい主のために、手を取り合う。そして、彼らは愛しい主を優しい瞳で眺めると、護衛として、セイを一人残して散開する。
フェンリルの最終進化形態であり、災厄の化身である蒼月狼。伝説の存在として語り継がれているだけの魔法のスペシャリスト、星妖精。最悪の魔王を打ち倒した竜人の最強勇者。彼らは、ただ一人の少女のために、今、動き出したのだった。
「さて、と。それじゃあ、少し話し合いといこうか?」
椅子なんていう気の利いたものが一切置かれていないこの部屋で、セイは床に座り込んでそう告げる。すると、鋼はセイの対面になる位置で伏せ、ローランもその近くに腰を下ろす。
「何の話し合いだ? ユミリア様に関することなら、俺はいくらでも話に乗るぞ?」
ユミリアに様をつけ始めたローランは、真剣な目でセイを見つめる。
「もちろん、ユミリアのことだよ。ただ、僕は人間のことをよく知らないから、思い違いかもしれないんだけど、それでも話しておいた方が良いかと思ってね」
そう言って、セイは自分が知るユミリアのことを話し出す。鋼をあっさりと下した実力、ユミリアが素材を集める目的、魔境で自分達を進化させてしまったユミリアの魔力。
黙って話を聞いていたローランは、次第に顎が外れんばかりに口を開け続けることとなる。
「そ、れは、また……ユミリア様は、随分と規格外な方なんだな」
「ユミリア、強い」
驚くローランに、鋼は自分が褒められたかのように、嬉しそうに尻尾をブンブンと振る。
「あぁ、やっぱり、ユミリアって異常だったんだねぇ」
対して、人間を知らなかったセイは、やはりユミリアが特殊だったのだと知り、遠い目をする。
「しかし、ユミリア様が助けようとしている盲目のメイド、か……。ん? だが、ユミリア様くらいの年齢ならば、普通は親を頼るものだろう? 少なくとも、妖精の森なんて場所に出入りを許すのは普通じゃないと思うが?」
「あぁ、それについても、ちょっと知りたいことがあったんだ。ねぇ、人間は、カビが生えたものでも平気で食べるものなの?」
「はっ? カビ? 食べるわけないだろう?」
ローランは、ユミリアがメリーから食事を渡されている場面を見ていない。その時はまだ意識を失った状態だったため、目の見えないメリーが、ユミリアにカビの生えたパンを渡している様子を見ていないのだ。そのため、セイは慎重に、言葉を選びながらその時の説明をしていく。
「多分、あの盲目のメイドは何も知らない。ユミリアのことを大切に想っていることは、僕達にも伝わってきたよ。ただ、だからこそ、この場所には、ユミリアを良く思っていないやつが居るってことになる」
そう締め括れば、凄まじい殺気が鋼とローランの二人から放たれそうになり……。
「落ち着いてよ。ユミリアが起きるよ?」
すんでのところで踏み留まる。しかし、セイ自身も怒りを感じていないわけではないようで、その魔力が可視化できるほど濃密に集まってきている。
「そうか、だから、ユミリアは、ぼくに食料調達を頼んだ……」
鋼のその言葉に、セイとローランはすぐさま食い付き、カビパン事件が今回限りのものではなかったことを知る。
「ふ、ふふふふっ。これは、情報収集が必要だね」
「あぁ、それなら俺に任せろ。隠密は得意だし、もしかしたらこの国の文字も読めるかもしれない」
「ぼく、ユミリアの食料、毎日調達するっ。牙も、研いておくっ」
三者三様に、魔力、闘気、殺気を揺らめかせて、役割を決めていく。
そんなこととは知らないユミリアは、魔境での疲れが出たのか、全く目を覚ます様子はない。小さな寝息を漏らして、クゥクゥと眠り続ける。
三人の守護者は、己の守護する愛しい主のために、手を取り合う。そして、彼らは愛しい主を優しい瞳で眺めると、護衛として、セイを一人残して散開する。
フェンリルの最終進化形態であり、災厄の化身である蒼月狼。伝説の存在として語り継がれているだけの魔法のスペシャリスト、星妖精。最悪の魔王を打ち倒した竜人の最強勇者。彼らは、ただ一人の少女のために、今、動き出したのだった。
139
お気に入りに追加
5,677
あなたにおすすめの小説
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる