悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第二十三話 契約

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「しぇい……(セイ……)」


 足に触れたのは、セイの小さな手だった。


『仕方ない、から……契約、してやる』

「けいやく?」


 何を言っているのか分からず、私はセイの言葉を反芻する。


「それは、良い……ぼくも、ユミリアと、契約したい」


 弱々しくも、しっかりと答えた鋼。しかし、私にはその『契約』に心当たりがなかった。


『時間が、ない……おい、お前……ユミリア……僕達に、魔力を流せ。そうしたら、後は……僕達自身が、何とかする』


 『契約』というのが何かは気になる。内容も聞かずに、ただ言う通りにするのは愚かなことだと理解していた。しかし、ここに居るのは大切な友達。信じることに躊躇いはなかった。


「みゅっ、わかっちゃにょっ! (みゅっ、分かったのっ!)」


 私は、すぐにセイと鋼の体に触れて、魔力を流し込む。


『我、セイはユミリア・リ・アルテナと契約する』

「我、コウは、ユミリア・リ・アルテナと契約する」


 それぞれがそう宣言し、私に対して魔力を流し込んできた途端、何かが、繋がった感覚を覚える。


『えっ?』

「うおっ!?」


 しかし、契約した実感に浸る間もなく、セイと鋼の体には、それぞれ変化が訪れた。


「み、みゅうぅぅうっ!?」


 まず、セイは、大きくなった。両手の上に乗せられそうなそのサイズから、成人男性のサイズにまで、一気に成長する。幸いだったのは、仕組みは不明であるものの、服が破けたりはしなかったということくらいか。
 腰まである青く長い髪に、金の瞳は変わらない。鋭い目付きも変わらない。少しシックな花のような衣装も変わらない。ただただ、それがちょうど良い配分で伸びて、膨らんだだけなのだが、元が美形であるため、ちょっとばかしドキドキする。
 次に、鋼の方は……なぜか、キラキラと輝いている。毛並みの艶も良くなっていそうだが、それだけが理由ではなさそうだ。もう、物理的にキラキラしているのだから。そして、体の方も一回りくらいは大きくなったらしく、もふもふが増えたという事実に、ドキドキが止まらない。


「いやいやいやいやっ、どんな魔力してるのっ!?」

「進化、した?」


 何だか、セイの声がはっきり聞こえるようになったなぁと思いながら、私は、鋼の言葉を聞かなかったフリをする。


「確かに、僕達が倒れる中、平気そうなおま……ユ、ユミリアには、違和感はあったけど……」

「ユミリア、すごいっ!」


 しかし、話題はやはり、私の魔力についてらしい。どうやら、現実逃避は許されないようだ。それに、よくよく考えてみれば、この魔力があったからこそ二人を助けられたのだ。


(……よし、割り切ろう!)

「よかっちゃにょ(良かったの)」


 ただし、何か聞きたそうなセイの視線には答えない。それをするのは、ここから無事、脱出してからでも良いはずだ。


「これで、ユミリアは友達で、主っ」

「みゅ?」


 ただ、鋼のその言葉に、私はまた、首をかしげる。


「……さっきのは、主従契約だよ」

「みゅうぅぅうっ!?」


 暗い森で、私の絶叫はとてもよく響いた。
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