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第二章 旅と王都
第四十話 説明されるネリア2(ネリア視点)
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「最優先項目としては、当然、姫君の健康面の改善となります。本来であれば、ある程度栄養がつき次第、少しずつ運動も取り入れたいところですが、まずは、食事から何とかしなければなりません」
「……はい」
食事、と言われて思い浮かべるのは、ゼス様達に拾われて以来口にするようになった、とても美味しい食べ物達。ただし……。
「姫君は、あまりにも少食過ぎます」
美味しい、とは思えるのだが、だからといって、たくさん食べられるかというとそうでもない。アルマさんは、少しでも多く食べられるように、少しずつ量を増やそうと提案してくれて、それを実践してはいるものの、中々私の少食は改善されない。
「しかも、殿下が来られなくなってから、さらに少食になっているご様子。これでは到底、外に出すことはできません」
アルマさんの言うとおり、最近はより一層、食が進まない。これでも頑張ろうとはしているのだが、どうしても、美味しいはずのそれらを口に運べないのだ。
「殿下のことは仕方ないにしろ、姫君は、何か、食事に関するトラウマでもお持ちですか?」
そう聞かれて、ドクリと、嫌な感じで心臓が音を立てる。
食事に関するトラウマ……そんなもの、数え切れないほど存在する。中でも現状に関係がありそうなものといえば……。
「………………食事は、決められた量以上を食べることは、許されていませんでした」
言うべきかどうか、とても悩みはしたものの、私の要望に真摯に対応してくれるアルマさんに隠そうとは思えなかった。
決められた食事量をオーバーするほどに食べようとすれば、私は酷い折檻を受けた。味は、感じられない方が幸せかもしれないというくらいに酷いものだし、それでお腹を下すことだって良くあることだったが、それでも、空腹はツラい。出された食事とも呼べない食事を前に、監視され、そのあまりに少ない量に文句を言うことなく必死に食べて、しかし、監視する人間の気分によって、私は『食べ過ぎだ』と殴られ、鞭を振るわれた。
食べたくとも、食べられないが、食べたくとも、食べてはいけないに変わったのはいつだったか。いや、そもそも、食べることが悪である、くらいの認識にいつの間にか変わっていたのかもしれない。
多くは語らずとも、アルマさんは眉間にシワを寄せて考えてくれる。その手に握られている資料が随分と握りこまれているのは気になるが、きっと、アルマさんは暴力をふるってきたりはしないと必死に信じて、長い沈黙の中を待つ。
「承知いたしました。では、対策を考えて参りますので、また明日、この話をいたしましょう」
「はい……」
対策などあるのか分からないが、アルマさんが言えば、実在するのだと思えてくる。
その後、私はアルマさんにいくつかの職の概要を教えてもらい、興味があるものを次回教えてほしいと言われて解散となる。
あれだけ楽しみにしていたお仕事案内だったが、トラウマと対峙しなければならないと分かった今は、少しだけ、憂鬱だった。
「……はい」
食事、と言われて思い浮かべるのは、ゼス様達に拾われて以来口にするようになった、とても美味しい食べ物達。ただし……。
「姫君は、あまりにも少食過ぎます」
美味しい、とは思えるのだが、だからといって、たくさん食べられるかというとそうでもない。アルマさんは、少しでも多く食べられるように、少しずつ量を増やそうと提案してくれて、それを実践してはいるものの、中々私の少食は改善されない。
「しかも、殿下が来られなくなってから、さらに少食になっているご様子。これでは到底、外に出すことはできません」
アルマさんの言うとおり、最近はより一層、食が進まない。これでも頑張ろうとはしているのだが、どうしても、美味しいはずのそれらを口に運べないのだ。
「殿下のことは仕方ないにしろ、姫君は、何か、食事に関するトラウマでもお持ちですか?」
そう聞かれて、ドクリと、嫌な感じで心臓が音を立てる。
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「………………食事は、決められた量以上を食べることは、許されていませんでした」
言うべきかどうか、とても悩みはしたものの、私の要望に真摯に対応してくれるアルマさんに隠そうとは思えなかった。
決められた食事量をオーバーするほどに食べようとすれば、私は酷い折檻を受けた。味は、感じられない方が幸せかもしれないというくらいに酷いものだし、それでお腹を下すことだって良くあることだったが、それでも、空腹はツラい。出された食事とも呼べない食事を前に、監視され、そのあまりに少ない量に文句を言うことなく必死に食べて、しかし、監視する人間の気分によって、私は『食べ過ぎだ』と殴られ、鞭を振るわれた。
食べたくとも、食べられないが、食べたくとも、食べてはいけないに変わったのはいつだったか。いや、そもそも、食べることが悪である、くらいの認識にいつの間にか変わっていたのかもしれない。
多くは語らずとも、アルマさんは眉間にシワを寄せて考えてくれる。その手に握られている資料が随分と握りこまれているのは気になるが、きっと、アルマさんは暴力をふるってきたりはしないと必死に信じて、長い沈黙の中を待つ。
「承知いたしました。では、対策を考えて参りますので、また明日、この話をいたしましょう」
「はい……」
対策などあるのか分からないが、アルマさんが言えば、実在するのだと思えてくる。
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