黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第二十八話 記憶と現実(芦田・鹿野田・望月グループ)

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 二十年前の七月に起こった図書室の異変。そして、十年前の七月に起こった開かずの教室が作られるに至った異変。その二つが七月であったことに何か意味があるかもしれないし、ないのかもしれない。
 ただ問題なのが、その異変は一月に渡って続いており、もしかすると、今が異変の最終日なのかもしれないということだ。


「……あれ? 私、どうして開かずの教室のことを知ったんだっけ……」


 願希小学校に所属していれば誰もが知っている開かずの教室。そう思っていたはずの望月は、そこに疑問を抱く。


「開かずの教室なんて、誰も……知らない。だって、あそこに教室なんて……ううん、そもそも道なんてなかったはず……」


 確かに、この開かずの教室の下は何の教室なのか、という話は出た。しかし、開かずの教室があるということそのものが、彼らにとっての共通認識だったため、異質だとは思えど、そこに関しては疑問を抱いていなかったのだ。


「そう、だよ。だって、開かずの教室なんてない。あそこは、ただの行き止まりで、机が積み上げられた場所もない」


 記憶と自分の認識が異なっている。それを、資料を読んだことによって突きつけられた望月は、それでも資料の続きを読んでいく。


「これ、は……」


『三十日目。

 もしかしたら、これかもしれない。

 一九八三年七月七日。

 この日に、小学校の壁の中から多数の白骨死体が見つかったという事件があった。

 そして、その壁というのが、ちょうど黒板の裏側だったとのこと。

 犯人は不明。

 被害者の人数は三十人。

 白骨化していることから、相当昔のことだと思われるし、壁の中ということは、この小学校が建てられた頃に起こった事件の可能性も高い。

 そうなると、この願希小学校が建てられた時期が問題だが……何年前なのかまでは分からなかった。

 ただ、この学校の創立記念日は覚えている。

 確か、七月七日。

 七夕の日だったはずだ……』


 行き止まりのはずの壁の中という状況と、壁の中に埋まっていた白骨死体というものが、壁の中、という点で符合ふごうしている。
 望月自身も、その符合に気づいたのだろう。その顔色は、明らかに真っ青だった。そして……。


『三十一日目。

 思い出した、思い出した!

 そうだ。

 私は記憶違いをしていた。

 黒板の呪いは、黒板の怪談は、あんな簡単な話じゃないっ。

 あれはまさしく呪いだ。

 早く、逃げないとっ。

 このままじゃ、私は』


 最後の資料は、それ以上には何も書かれていなかった。
 ただ、それは走り書きだったのだろう。他のもの以上に文字が汚く、読みづらい。

 結局のところ、脱出の手がかりというものは何もなかった。
 他にある資料は、どうやらその人物が読んでいたらしい本や新聞があるのみ。それも、難しい内容ばかりで、望月では読むだけでも大変らしく、一つ手に取っては唸っていた。
 しかし、そこで、望月は初めて、この資料の作成者の名前を見つけることとなる。


「え……」


 そしてそれは、とても見慣れた名字だった。
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