黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第二十五話 安全な場所(芦田・鹿野田・望月グループ)

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 しん、と静まり返る世界。
 背後に感じる異様な視線を前に、最初に耐えられなくなったのは、望月で……。


「見るな!!」
『ミルナ!!』

「ひゃいっ!」


 鹿野田と誰かの声が重なり、望月が変な声で返事を返した直後だった。


「っ! 出るぞ!!」


 急に、それまで全く動かなかったはずの扉が勢い良く開き、芦田は鹿野田を支えながら駆け出す。
 一歩遅れて、望月も扉から外に出たところで、ピシャッと扉が閉められた。


「っ……」

「望月っ、このまま離れるぞっ」


 恐怖に立ち止まった望月へと、芦田は必死に声をかける。


「優愛ちゃん、行こう!」


 芦田に支えられながらも手を差し伸べる鹿野田に、望月は首をぶんぶんと振って、バチンと自分の両頬を叩く。


「うんっ! 急ごう!」


 出た場所は、廊下らしき場所。そこを必死に必死に、三人は走る。鹿野田は芦田に支えられているため、走っているというよりも早足という方が正しいかもしれないが、とにかくその場を離れることに必死だった。そして……。


「あっ、光!」


 ようやく見つけた、自分達以外が発する光を見つけた望月は、背後の芦田と鹿野田を気にかけながらも、その表情を明るくした。
 廊下の長さは、相変わらず空間が歪んでいるのではないかと思えるほどに長かったが、それでも、三人はようやくその場所へと辿り着く。


「図書室!」

「優愛ちゃんは寄り付かない場所だよねー」

「失敬な! 私も本くらいは読むよ!?」

「うん、面白い漫画はいっぱい知ってるよねー」


 そんな軽口を叩きながら、望月は扉をグッと押す。

 少し軋んだ音を立てながら開いた扉。その先は、何の変哲もない、普段通りの図書室だった。


「鹿野田、そこの椅子に座れるか?」

「うん、大丈夫だよー。肩貸してくれて、ありがとうねー」


 捻ったとはいえ、あまり酷くは捻らなかったのか、鹿野田は多少痛みを堪えるような表情をしたものの、難なく椅子に座る。


「いやぁ、図書室なんて久しぶりに来たよ」

「……まぁ、そういう奴も居るか」

「ぷっ」


 望月の言葉に芦田が戸惑いながらも頷き、それに鹿野田が噴き出す。


「ちょっと、鹿野田君?」

「ごめんねー。でも、あんまりにも堂々と言うから、おかしくてー」


 逃げ切れた。その安心感から普段通りか、それ以上に明るい二人。
 しかし、実際には疲労感が大きいのか、望月も椅子に座ってから、そこから動くことはなかった。


「少し休もう。そして、その後にこれからの方針を考えよう」


 体格が良い芦田でさえ疲れたらしく、椅子にドカッと座ると、大きく息を吐く。考えることは、もちろんたくさんある。それでも今は、休息が必要な時だった。


「うん、そうだよね。さすがに、色々あり過ぎた……」

「保健室ならベッドもあったのにねー」


 そんなことを言い合った後、三人はじっと黙り込む。
 疲労はもちろんのこと、三人は、普段ならばとっくに眠っているはずの時間で、明かりのある安全そうな場所に出てきたことで睡魔にも襲われていた。

 うつらうつらとしながら、それでも、まだ危険かもしれないということを意識してハッと顔を上げる。
 そんなことを繰り返す三人だったが、しばらくすると、静かな寝息だけが、図書室に響いていた。
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