黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第二十一話 床下(杉下・中田グループ)

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「結局、何も分からなかったわね」

「う、うん……」


 七月八日の日誌の記録は、グチャグチャに塗り潰されて読めず、それ以上の情報はどこにもなかった。


「集団失踪、ね……」


 十年前の集団失踪が、恐らくは開かずの教室で起こった事件なのだろうとは予測できる。ただ、それが自分達の身に起こったこととは結びつかない。


「とりあえず、ここから出よう。このままここに居ても、寧子ちゃんがどこに居るか分かりそうもないし……」

「そ、そうだね……あっ、それと、ちょっと、役に立ちそうなものを見つけたんだ」


 そう言って中田が取り出したのは、ハサミやカッター、軍手だった。確かに、サバイバルという観点で見るならそれらを持つことは間違いではない。


「そ、それと、今、分かってることを少しだけまとめておいたから、もし、誰かと合流できたら、共有しようと思って……」


 中田が差し出したのは、小さなメモ帳ではあったが、簡潔に今までの経緯と知り得た情報が書かれている。


「さすがね。私は、そんなことまで気が回らなかったわ。ありがとう」

「ど、どういたしまして」


 少し照れた様子の中田だったが、次の瞬間、凍りつくこととなる。


『たす、けて………』

「「っ!?」」


 自分達以外、誰も居ないと思っていたその場所で、なぜか聞こえた誰かの声。しかも、内容も不穏だ。


「今の……」

「う、うん……」


 声の主が誰かは分からない。しかし、それでも二人はその声を無視はできなかった。

 その声は、女の子の声に聞こえたのだから……。


「ね、寧子ちゃん……?」


 誰も居なかったはず、そんな思いからか、杉下の声も心なしか震える。
 しかし、声をかけたところで、どこからも返事はない。


「中田君……他に、調べてない場所って、ある?」


 十年前とはいえ、見知った場所であるはずの図書室。それが一気に、知らない場所になってしまったような感覚を味わっているだろう中田は、必死に頭を回転させて……。


「そう、いえば、地下があるかも……」


 自信なさげに、そんな言葉を発した。しかし、その自信のなさは当然のことでもある。


「た、ただ、その地下は、完全に荷物で埋まってて……そうじゃなくても、そんなに広い空間じゃ、なかったはずなんだ……」

「でも、十年前なら、荷物もないかもしれないでしょ?」


 そんな杉下の言葉に、中田は首を横に振る。


「そ、その地下は、いわゆる床下収納で、小さな保存スペースになってるんだけど……赤ちゃんならまだしも、普通は人が入れるようなスペースじゃ、ないはず……」


 そう、中田が説明した直後だった。中田が視線を向ける方向から、トンッと床を突き上げるような音がしたのは……。
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