黒板の怪談

星宮歌

文字の大きさ
上 下
21 / 39
第一章 肝試しの夜

第二十話 少女の記憶②

しおりを挟む
 家庭で上手くいっていない少女は、学校でも順風満帆とは言い難かった。
 臆病で物静かな少女は、人と関わることが苦手だった。
 何となく、明るい女の子のグループに入れてはもらったものの、その中でも少女は静かで、時々意見を求められて口にすることはあれど、ただそれだけ。
 面白みがあるのかと問われれば、少女自身も首を傾げただろう。


「いたっ……」


 学校の中では、ただただ惰性で日々が過ぎていく。そのはずだったのに、その退屈ながらも、家庭内の疲労を少しでも癒せる学校での時間は、ある日突然悪夢となった。

 下駄箱に仕込まれた画鋲。
 典型的ないじめの形。
 知識はあれど、対応力など何もない少女は、ただただ呆然とすることしかできない。
 誰が、どうして自分を標的にしたのかなど、何一つ分からない恐怖。

 女の子同士のグループはいつもと変わらない。他のグループでも、特別に少女へ何かをしようと企んでいる人が居る様子もない。

 親や教師への相談?

 それはきっと、大人を信じられなければ出来ない話だ。大人への信頼など欠片も持たない少女は、そもそも相談するという思考さえできなかったのだから。

 下駄箱の画鋲に始まって、机の落書きや、物の紛失。教科書が破かれたこともあったが、少女はずっと、その犯人を見つけ出すことはできなかった。
 毎日のように悪意にさらされる日々は、少女の心を盛大に蝕んだ。

 しかし……ただ、一つだけ、犯人の心当たりがないわけではなかった。


「私のきょうだい……」


 具体的には何も知らない。少女と同じ年だということ以外に情報はない。しかし、相手は違うのかもしれないのだ。
 相手は、少女と自分の関係を知っていて、何らかの理由で憎んでいる可能性もある。


「誰が……」


 顔を見て、父親に似ているかどうかを判断できるほどに、父親の顔を覚えてはいない少女。もし覚えていたとしても、会ったことのない父親の浮気相手に似た子供であれば、完全にお手上げだ。

 何もできない。無力感に涙する少女の下に転機が訪れたのは、夏休みが始まる少し前。七月八日のこと。
 机の引き出しに入っていた見覚えのない紙。そこには、こう書かれていた。


『キミのキョウダイは、ライゲツのキモダメシにサンカするヨ。キミも、サンカできるヨウニ、テハイしよウ』


 なぜか、カタカナと平仮名が混ざりあった何とも読みにくい怪文書。
 ご丁寧に、新聞の文字を切り抜いて作られたそれは、少女にとって絶対に無視のできない内容だった。

 敵の姿さえ見えれば、何かが変わるかもしれない。そんな、幼い幻想を抱いて、少女は恐怖に怯えながら、怪文書の通りに誘われた肝試しへの参加を決めた。
 例えそれが間違った道だったのだとしても、もう、少女は止まることなどできなかった……。
しおりを挟む

処理中です...