黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第十九話 少女の記憶①

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 何をすれば親に愛されるのか。そんなことを考える子供は、残念ながら一定数は存在し続けている。
 理想はきっと、親に愛されていないかもしれないと疑うこともなく過ごす状態なのだろう。しかし、それは理想であって、現実とは異なることもある。


「神様が居るなら、どうして、子供を愛さない親が生まれるのか答えてくれるかな?」


 その少女もやはり、理想とは異なる家庭で育った。

 父親は滅多に帰ってこないし、帰ってきても母親と怒鳴り合いの喧嘩を繰り広げる。時には物が壊れることもあって、少女にとって、父親が家に来る時というのは恐ろしい時だ。


「お、かぁさん、おなか、すいたよ……」


 少女は、とても幼い頃、この言葉を母親に言ってしまったがために殴られた。
 以来、少女はどんなに空腹でも我慢しなければならないのだと理解した。


「おかあさん、あのね、私、テストで百点、とったの」


 初めて受けたテストというもので満点を取った少女は、真っ先に母親へと報告した。
 それは、満点を取ったことで親に褒められている他の子供を、たまたま見ていたから。きっと、自分も、母親に褒めてもらえるのだと信じて疑わなかったから。


「そんなの当然でしょ? そんな面倒な報告はいらないから、さっさと家事をしといて」


 頭を撫でてくれるとまでは思わなかったかもしれない。大袈裟に褒めてくれるとも思ってはいなかったかもしれない。
 それでも、一言でも『すごい』とか、『よく頑張った』とか、そんな言葉をかけてもらえたら、少女はここまで落ち込むこともなかっただろう。

 少女は、とてもとても頑張り屋さんだった。きっと、自分が頑張れば、お母さんは自分を見てくれる。お父さんもお母さんと喧嘩せずに、仲のいい家庭というものを実現できる。
 そう、希望を抱いていたからこそ、頑張った。
 母親から言いつけられる家事を必死にこなして、勉強でも毎回満点を取れるように必死に机にかじりついた。
 父親が帰ってくる日は、少しでも母親の機嫌が良くなるように、一生懸命美味しい料理を作った。

 ただ……そんなことで何かが変わってくれるのならば、とっくの昔に変わっていただろう。

 必死の努力の結果、少女はとても精神的に早熟となった。そして、母親と父親の仲が悪い理由を理解してしまう。


「浮気……私と、同じ年の子供が、居る……」


 父親の浮気によって、少女は、少女と同じ年の異父兄弟が居ることを知る。いや、もしかしたら異父姉妹かもしれない。

 父親は、離婚して慰謝料や養育費を払いたくなくて、現状維持を望んでいた。母親は、父親が憎くて憎くて、離婚するよりも縛り付けてやろうとしていた。

 そこには、どこにも愛情なんてない。最初からないものを求めても、手に入れることはできない。

 聡い少女は、そんな残酷な真実に辿り着いてしまい、絶望した。
 少女がどんなに頑張っても、誰も、少女を愛してなどくれない。それでも、生きるためには、母親と父親を頼らなければならない。その現状は、まだ小学生の少女にとって、耐え難い現実だった。
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