黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第十話 状況整理とさらなる異変(芦田・鹿野田・望月グループ)

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「ひとまず、俺達は夜の学校に侵入して肝試しをしようとしたが、途中で清美が叫んで走り出したため、それを追いかけてなぜかバラバラになってしまった。ここまでは良いか?」

「あっ、そうだ! そういえば、僕、キヨちゃんが悲鳴を上げた時、変なものを見てたんだったっ」


 と、その時、鹿野田が声を上げる。


「変なもの?」

「うん、というか、僕、何で忘れてたんだろー?」


 不思議そうに、されど真剣に悩む鹿野田は、自分の言葉を待つ二人を見て、慌てて口を開く。


「具体的には、キヨちゃんが悲鳴を上げる直前、誰か分からない人を見たんだー」

「誰か分からない?」

「人?」


 そんな人物が近くに居ただろうかと首を傾げる芦田と望月。


「うーん、キヨちゃんの視線を追ってみたら、その人が居てー、でも、その後、キヨちゃんが悲鳴を上げた時には見つけられなくてー、そのまま忘れて……?」


 鹿野田は懸命けんめいに言葉にしているが、その様子はどうにも自信がなさそうだった。


「その人は、どんな人だったんだ?」

「……今、思い出そうとしてるんだけど、どうしても分からない……うわー、何か、記憶がおかしいみたいで、すっごく気持ち悪いっ」

「男性か女性かとか、大人か子どもかとか、そういったことも分からない?」

「うーん…………子ども、かなー? でも、男女はどちらか覚えてないし、そもそもその時に認識できてたのかすら怪しいというか……どこで見失ったのかも判然はんぜんとしないよー」


 ともすれば泣きそうな表情で告げる鹿野田。その姿に、これ以上は何も分からないだろうと判断したのか、芦田は『分かった。とりあえず、その情報は皆で頭に入れておこう』とまとめる。


「じゃあ、続き、いってみよう! えーっと、キヨちゃんこと清美ちゃんが悲鳴を上げて、バラバラになった後、私達は開かずの教室を目指した!」


 明らかにから元気ではあるものの、望月はいつもの調子で話し出す。


「けれど、開かずの教室は御札おふだがビッシリであまりにも不気味っ。引き返そうとしたものの、出口はなぜか壁になっていて出られないっ。仕方なく、見慣れない階段を上った私達は、そのまま開かずの教室に引き込まれてしまった!」


 身振り手振りでそれぞれの状況を表す望月は、そこで一旦いったん深呼吸して、真剣な表情になる。


「そうして、今、私達は謎の日記を見つけた……」

「大体合ってるな」

「お疲れ様ー」


 迫真はくしんの演技(?)に対して、芦田と鹿野田はサラッとした対応をする。


「くっ、この私の場を盛り上げようという意思が伝わらないなんてっ! もっと、演技力を上げねばっ」

「うんうん、それは学校を出てから頑張ってねー」


 状況だけを見るなら、もっと殺伐さつばつとしていてもおかしくはないのだが、こうして望月や鹿野田が掛け合えば、不思議と深刻な状況が長続きしない。
 もちろん、望月も鹿野田も現状がどれほど大変な状況なのかは理解できているのだろうが、それでも彼らにとって、これは必要なことだった。


「よし、ひとまずある程度は情報が行き渡っていると考えて良いか? そうしたら次を――――」


 少しだけ、緊張が解けたような表情の芦田は、そう声をかけようとして、不意にソレに気づく。




 カツン…………カツン…………。


 何かが、歩くような音。
 それがまた、響いていた。
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