黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第八話 閉じ込められて(芦田・鹿野田・望月グループ)

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「さて、と……怪しい階段を上ってみたわけだけど……どう思う? かのだん君?」

「うーん、現代において、僕達、貴重なテレポート体験ができたねー」

「そのまま閉じ込められたがな」


 開かずの教室の隣にあった不気味な階段。本来ならばそこへ足を踏み入れることなく立ち去るつもりだった彼らは、先程まで存在しなかったはずの壁によって、引き返すことが出来ず、そのまま上がることとなった。
 しかし、階段を上っている途中、一瞬、懐中電灯の明かりが消えたかと思えば、彼らは三人とも、開かずの教室の中へと入っていたというわけだ。

 飄々ひょうひょうとした会話をした杉下と鹿野田だが、現状の異常はしっかりと理解しているようで、その顔色は青を通り越して白くなっている。
 リーダーとしてこの場に居る芦田でさえ、その顔色は悪い。

 先程、外側から見た通り、窓ガラスは曇っていて外が見えない。ただ、教室の扉に関しては、多少古ぼけていて開かないだけで、中からはその異常は分からない。


「教室そのものは普通だな」


 復活した懐中電灯で辺りを照らせば、彼らが使う教室とさほど違ったところは見当たらない。


「でも、窓も扉も開かない……どうなってるんだろう?」

「他にも変なところはあるよー。ほら、黒板。使われてない教室なのに、日付とか日直とか……え……?」

「どうした?」


 各々が懐中電灯を持って周囲を照らして確認していると、鹿野田が何かを見つけたらしく硬直こうちょくした。


「……日直のところの、名前……」


 そんな鹿野田の言葉に、芦田も望月もそちらへ視線を向けて、息を呑む。


「な、んで……私達の、名前が……」


 日直と書かれたその場所の下。そこには、『芦田大地、鹿野田透、望月優愛』の名前がくっきりと書かれていた。


「……手がかりを探すぞ。何か、あるはずだ」


 何も分からないその状況に、芦田は自分に言い聞かせるように指示を出す。


「うん」

「わ、分かった」


 きっちりと並べられた生徒のための机。その引き出しを一つずつ調べていくと、最前列の一つの机からノートが出てきた。


「ノート、あったよ」


 そう言った望月は、二人が自分の元に来たことを確認してから、少しだけ古びたノート、自由帳と書かれているものを開く。



『七月八日

 今日も変わり映えのない日。

 ただ、最近、後ろの座席の誰かが怪談話をしてるから、それはちょっと面白い。

 今日はこの学校の七不思議に関して。

 動く人体模型はさすがに定番すぎじゃない?

 そう思ったけど、オチまで考えてあって案外面白い。

 動く人体模型は、理科室で殺された先生が乗り移って、殺人犯に復讐ふくしゅうするため、夜な夜な動き回ってるって内容。

 動けるのは夜だけで、日中はどんなに動きたくても動けないのだとか、夜にどんなに遠くまで動いていても、朝には元の位置に戻ってしまうとか、設定が面白いと思った。

 また明日も聞けるかな?』


 それは、どうやら日記らしく、ページを捲ればずっと日付と日記が続いている。
 背表紙の方には『秋野結実』という名前があり、きっとこの人がこの日記の持ち主なのだろうと分かる。


「これ、毎日怪談話が書いてあるね」

「うん、そうだねー。七不思議もだし、百物語でもしてたんじゃないかってくらい、ずっと続いてるねー」

「怪談……開かずの間とか、開かずの教室というものはあるか?」

「今、探してるけど、それらしいものはないね」


 何か手がかりがないかと探すものの、特にそういった話は見当たらない。しかも、途中で日記を書くことを止めたのか、八月八日までの日付しかなかった。


「八月八日……今日も八月八日だよ、ね」


 ただ、そこに一つの符合ふごうを見出した望月は、そのままじっと、その日付の日記内容へ目を落とした。
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