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第二章 三団子、旅をする

第四十三話 とある盗賊達と未来(盗賊視点)

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 俺は、小さな村でただただ農業をしていただけの男だ。
 ある時から、酷い干ばつによって飢饉が起こり、村の人間がどんどん死んでいく様を目にして、盗賊なんてものに成り下がった、どうしようもない人間でもある。

 人様から物を盗んで、それでどうにか食いつなぐ日々なんて、ずっとは続かない。いずれ、俺や、俺に付いてきてくれた連中は、どこかで野垂れ死ぬか、捕まるか……とにかく、明るい未来なんて想像できなかった。
 それでも、盗賊を続けたのは、養う家族が居たから。大切な人が居たからだ。
 武器なんてまともに持ったこともない奴らばかりで、時には仲間を失うこともある。それでも、数の暴力で、必死に食料を集めて生き延びていたところに、あの三体の救世主様達に出会ったんだ。

 もらったのは、日持ちする食料と、様々な食べ物の種、その種を成長させて得られた瑞々しい果物。


「俺達、あんな優しい方々に、武器を向けてたんだなぁ……」


 種を持ち帰った当初、それが育つということに半信半疑だった家族達。しかし、実際に試してみれば、あの場で実演してもらった時のように、急速に成長して大量の実をつけていく様々な種。その姿に、全員が歓喜したのは記憶に新しい。しかも、その実から採れた種も同じように急速に成長するため、すぐに食料不足は解消された。

 そうして、落ち着いて考える時間ができると、俺達はあまりにも、救世主たる御三方へ何のご恩返しもできていないということに気づいてしまう。それどころか、俺達は初め、救世主様達に武器を向けたのだ。
 まずは、渾身の謝罪を行い、それから救世主様達を敬うべく、この奇跡を広めるべきなのかもしれないと、俺達は布教活動の旅に出ることを決意する。

 きっと、それは楽な道のりではない。もしかしたら、救世主様達を見つけることも叶わず、道半ばで死んでしまうかもしれない。
 しかし、救世主様達の施してくださった作物を食べることで、俺達には不可能などないと思えるほどの力が漲っていた。疲労も病も、何もかもを寄せ付けない無敵の肉体を手に入れたかのような万能感。実際、病で苦しんでいた家族が、救世主様達の作物を食べることで快復したこともある。


「俺達は、救世主様達のために、ご恩返しのために、救世主様達の御業を広めるんだ!」

「「「おーっ!!!」」」


 元盗賊だった俺達は、その時から宣教師となった。そして、そのタイミングがちょうど、救世主様達が行う貴族達への介入と合わさったことで、大きな撹乱の一助となることなど思いもしなかった。
 たまたま偶像崇拝を禁じる環境下にあったために、救世主様達のお姿が都合良く解釈され、救世主様達を追う者を撹乱する形になるなんて、俺達の語り口が悪かったせいで、もう近くには救世主様達が存在しないと解釈されるだなんて、思いもしなかったのだ。
 しかも、俺達の布教によって、後々、救世主様達を手助けする存在が現れるなど、それこそ、全くもって予想外のことだった。
 俺達がその事実を知るのは、ずっとずっと先のこと。全てが終わり、そこからさらに時が経ってからのことで、その時、俺達は、自分の行動が間違っていなかったのだと涙を流すこととなるのだった。
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