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第二章 三団子、旅をする

第二十九話 空腹の町と三団子6

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 倒れた子どもの姿を見た三団子の判断は早かった。


「ロドフ君! この子を軽くして!」

「僕、背負う!」

「剛兄ちゃん、交代で背負おう!」


 この世界では魔物のように見られる三団子だが、やはり見捨てるという選択肢は彼らにはなかったようだ。


「ですが……」

「ロドフ君、こういう時は、考えるのは後だよっ」


 珍しく強い口調の青団子。肉で色々埋もれているとはいえ、その真剣な目はロドフからもしっかりと見えていた。

 ロドフはこの世界の人間だし、命がどれだけ軽く、そして重いのかをこれでもかというほど見てきている。だからこそ、ロドフは三団子や自分の命を優先するし、そのためには見知らぬ子どもを見捨てることだってしてみせる。ただ、それでも、命の恩人である三団子に請われてしまっては、ロドフも優先順位などを考えてはいられない。


「っ、分かりました。では、ひとまず宿屋まで向かいましょうっ。俺は、先行して宿屋の中に入れるように宿屋の主人を説得してきます!」


 ロドフは手早くスキルを発動させて子どもの体重をほとんど無いものにすると、そのまま宿屋まで走り去る。
 青団子はいつものリュックを背負っていたため、子供を背負うのは黄団子と赤団子に任せ、三団子全員、必死にその短い足を動かして走る。
 その鬼気迫る様子は、町の人々にとっては魔物の突進も同然で、三団子が避けるまでもなく人々の方が道を開ける。そして……。


「許可が取れました!」


 宿屋の前で待ち構えていたロドフの言葉に、三団子はそのまま宿屋の部屋まで直行する。
 その様子をカウンターで見ることになった宿屋の主人は、三団子のその様相に腰を抜かしそうになっていたものの、三団子は脇目も振らず部屋の中に入ると、扉を閉める。


「おかゆ!」

「水! スポーツドリンク!」

「僕、タオルを持ってくる!」


 ほぼ叫ぶようにして汗だくの三団子はそれぞれの役割分担をこなしていく。

 最初に黄団子がスポーツドリンクを子どもの口にそっと流し込み、一口飲んだことを確認して、またゆっくりと流し込む。
 青団子は、おかゆを用意して、赤団子が持ってきたタオルに水を染み込ませて、少しずつ子どもの体を拭いていく。
 赤団子は、用意したタオルの一つを手に取って、青団子と同じく子どもの体を拭いていく。


「剛兄ちゃん、この子、怪我してるっ」

「そんなっ! それじゃあ、もう一度、スポーツドリンク!!」

「こっちも怪我だね。雑菌とかも入ってると思うけど、今は後回しかな? 剛、水をもっとお願い。もう、浴室で流した方が早い」

「うん、水、水、水、水!」


 二リットルどころか、五リットルのボトルで水がどんどんその場に量産される。それをまた遅れてやってきたロドフに軽くしてもらって、浴室で子どもの体を綺麗にしていく。
 途中、何度もスポーツドリンクを飲ませながら、時にはおかゆも食べさせながら。狭い浴室の中、三団子のうちの一人しか入れない状態ではあったものの、三団子は代わる代わる、必死に子どもの命を救うために頑張った。そして……。


「「「終わったぁー」」」


 極度の栄養不足や怪我、もしかしたら、何か病気もあったのかもしれないが、それらが解消され、身綺麗になった子どもは、三団子に世話を焼かれている間に時折微睡む程度に目覚めていたものの、今は穏やかな顔でぐっすりと眠っている。
 三団子の力であれば、子どもの目を覚まさせることもできたのだろうが、三団子はあえてそれをしなかった。
 この子どもには、休息が必要。それが、三団子の意思だった。
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