75 / 96
第二章 三団子、旅をする
第二十九話 空腹の町と三団子6
しおりを挟む
倒れた子どもの姿を見た三団子の判断は早かった。
「ロドフ君! この子を軽くして!」
「僕、背負う!」
「剛兄ちゃん、交代で背負おう!」
この世界では魔物のように見られる三団子だが、やはり見捨てるという選択肢は彼らにはなかったようだ。
「ですが……」
「ロドフ君、こういう時は、考えるのは後だよっ」
珍しく強い口調の青団子。肉で色々埋もれているとはいえ、その真剣な目はロドフからもしっかりと見えていた。
ロドフはこの世界の人間だし、命がどれだけ軽く、そして重いのかをこれでもかというほど見てきている。だからこそ、ロドフは三団子や自分の命を優先するし、そのためには見知らぬ子どもを見捨てることだってしてみせる。ただ、それでも、命の恩人である三団子に請われてしまっては、ロドフも優先順位などを考えてはいられない。
「っ、分かりました。では、ひとまず宿屋まで向かいましょうっ。俺は、先行して宿屋の中に入れるように宿屋の主人を説得してきます!」
ロドフは手早くスキルを発動させて子どもの体重をほとんど無いものにすると、そのまま宿屋まで走り去る。
青団子はいつものリュックを背負っていたため、子供を背負うのは黄団子と赤団子に任せ、三団子全員、必死にその短い足を動かして走る。
その鬼気迫る様子は、町の人々にとっては魔物の突進も同然で、三団子が避けるまでもなく人々の方が道を開ける。そして……。
「許可が取れました!」
宿屋の前で待ち構えていたロドフの言葉に、三団子はそのまま宿屋の部屋まで直行する。
その様子をカウンターで見ることになった宿屋の主人は、三団子のその様相に腰を抜かしそうになっていたものの、三団子は脇目も振らず部屋の中に入ると、扉を閉める。
「おかゆ!」
「水! スポーツドリンク!」
「僕、タオルを持ってくる!」
ほぼ叫ぶようにして汗だくの三団子はそれぞれの役割分担をこなしていく。
最初に黄団子がスポーツドリンクを子どもの口にそっと流し込み、一口飲んだことを確認して、またゆっくりと流し込む。
青団子は、おかゆを用意して、赤団子が持ってきたタオルに水を染み込ませて、少しずつ子どもの体を拭いていく。
赤団子は、用意したタオルの一つを手に取って、青団子と同じく子どもの体を拭いていく。
「剛兄ちゃん、この子、怪我してるっ」
「そんなっ! それじゃあ、もう一度、スポーツドリンク!!」
「こっちも怪我だね。雑菌とかも入ってると思うけど、今は後回しかな? 剛、水をもっとお願い。もう、浴室で流した方が早い」
「うん、水、水、水、水!」
二リットルどころか、五リットルのボトルで水がどんどんその場に量産される。それをまた遅れてやってきたロドフに軽くしてもらって、浴室で子どもの体を綺麗にしていく。
途中、何度もスポーツドリンクを飲ませながら、時にはおかゆも食べさせながら。狭い浴室の中、三団子のうちの一人しか入れない状態ではあったものの、三団子は代わる代わる、必死に子どもの命を救うために頑張った。そして……。
「「「終わったぁー」」」
極度の栄養不足や怪我、もしかしたら、何か病気もあったのかもしれないが、それらが解消され、身綺麗になった子どもは、三団子に世話を焼かれている間に時折微睡む程度に目覚めていたものの、今は穏やかな顔でぐっすりと眠っている。
三団子の力であれば、子どもの目を覚まさせることもできたのだろうが、三団子はあえてそれをしなかった。
この子どもには、休息が必要。それが、三団子の意思だった。
「ロドフ君! この子を軽くして!」
「僕、背負う!」
「剛兄ちゃん、交代で背負おう!」
この世界では魔物のように見られる三団子だが、やはり見捨てるという選択肢は彼らにはなかったようだ。
「ですが……」
「ロドフ君、こういう時は、考えるのは後だよっ」
珍しく強い口調の青団子。肉で色々埋もれているとはいえ、その真剣な目はロドフからもしっかりと見えていた。
ロドフはこの世界の人間だし、命がどれだけ軽く、そして重いのかをこれでもかというほど見てきている。だからこそ、ロドフは三団子や自分の命を優先するし、そのためには見知らぬ子どもを見捨てることだってしてみせる。ただ、それでも、命の恩人である三団子に請われてしまっては、ロドフも優先順位などを考えてはいられない。
「っ、分かりました。では、ひとまず宿屋まで向かいましょうっ。俺は、先行して宿屋の中に入れるように宿屋の主人を説得してきます!」
ロドフは手早くスキルを発動させて子どもの体重をほとんど無いものにすると、そのまま宿屋まで走り去る。
青団子はいつものリュックを背負っていたため、子供を背負うのは黄団子と赤団子に任せ、三団子全員、必死にその短い足を動かして走る。
その鬼気迫る様子は、町の人々にとっては魔物の突進も同然で、三団子が避けるまでもなく人々の方が道を開ける。そして……。
「許可が取れました!」
宿屋の前で待ち構えていたロドフの言葉に、三団子はそのまま宿屋の部屋まで直行する。
その様子をカウンターで見ることになった宿屋の主人は、三団子のその様相に腰を抜かしそうになっていたものの、三団子は脇目も振らず部屋の中に入ると、扉を閉める。
「おかゆ!」
「水! スポーツドリンク!」
「僕、タオルを持ってくる!」
ほぼ叫ぶようにして汗だくの三団子はそれぞれの役割分担をこなしていく。
最初に黄団子がスポーツドリンクを子どもの口にそっと流し込み、一口飲んだことを確認して、またゆっくりと流し込む。
青団子は、おかゆを用意して、赤団子が持ってきたタオルに水を染み込ませて、少しずつ子どもの体を拭いていく。
赤団子は、用意したタオルの一つを手に取って、青団子と同じく子どもの体を拭いていく。
「剛兄ちゃん、この子、怪我してるっ」
「そんなっ! それじゃあ、もう一度、スポーツドリンク!!」
「こっちも怪我だね。雑菌とかも入ってると思うけど、今は後回しかな? 剛、水をもっとお願い。もう、浴室で流した方が早い」
「うん、水、水、水、水!」
二リットルどころか、五リットルのボトルで水がどんどんその場に量産される。それをまた遅れてやってきたロドフに軽くしてもらって、浴室で子どもの体を綺麗にしていく。
途中、何度もスポーツドリンクを飲ませながら、時にはおかゆも食べさせながら。狭い浴室の中、三団子のうちの一人しか入れない状態ではあったものの、三団子は代わる代わる、必死に子どもの命を救うために頑張った。そして……。
「「「終わったぁー」」」
極度の栄養不足や怪我、もしかしたら、何か病気もあったのかもしれないが、それらが解消され、身綺麗になった子どもは、三団子に世話を焼かれている間に時折微睡む程度に目覚めていたものの、今は穏やかな顔でぐっすりと眠っている。
三団子の力であれば、子どもの目を覚まさせることもできたのだろうが、三団子はあえてそれをしなかった。
この子どもには、休息が必要。それが、三団子の意思だった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる