上 下
59 / 96
第二章 三団子、旅をする

第十三話 昔話と三団子

しおりを挟む
「ワシは、今でこそこんな有り様じゃが、昔はこの町一番の木工職人じゃった」


 そんな語り口から始まった老人の昔話に、三団子は真剣に耳を傾ける。
 ただし、その真剣な表情が頬の肉で埋まっているのはいつものことだ。

 マルマの町の木工職人といえば、世界でも通じるほどの技術を持つ職人だ。そして、その中でも、このご老人は、マルマの町の中心に位置する場所を飾る木工カラクリの作成に携わった一人だった。

 そうして、三年という年月をかけて完成したのが、今のこの場所。
 本来は、木が朽ちることのないように、木そのものへのガードはもちろん、天井には屋根まで付いていたらしい。

 至る所に存在する木の出っ張りを押し込めば、様々なカラクリが動き出し、人々を楽しませる。人形が踊り出したり、軽快な音楽が鳴り響いたり、はたまたパネルの絵が入れ替わったり……。そんな、面白おかしい仕掛けの数々が幾人もの職人達の手で作り上げられた自慢の場所。
 観光名所としても大人気のこの場所では、様々な屋台が出店し、日々賑わっていたのだ。
 楽しくて、温かくて、マルマの町に暮らす人々にとってはあまりにも大切な場所だった。それなのに……。


「干ばつが起こり、食料不足が起こり……きっと、魔物も食うものに困ったんじゃろ。奴らは、空からこの町を襲撃したんじゃ」


 ただでさえ弱っていた人々。そんな中での魔物による襲撃は、防ぎきれるようなものではなかった。
 多くの人が死に絶え、多くの人が大小様々な傷を負い、そして……この場所も、魔物によって破壊され、屋根が吹き飛ばされ、カラクリのほとんどが壊し尽くされてしまった。
 様々な職人達が、丹精込めて作ったマルマの町の憩いの場は、たった一度の襲撃で破壊し尽くさてしまったのだ。


「ワシは、形あるものはいずれ壊れると知っておったはずじゃった。じゃが、この場所だけは、壊れることなぞないとも信じておったんじゃ」


 ご老人と共にこの場所を作った職人のほとんどは、すでに引退して別の場所にいたり、亡くなっていたりしているらしい。
 ご老人だけが唯一、この町で生き残っていた。唯一人、破壊され尽くしたこの場所を想って嘆いた。

 もう、この町には、憩いの場が破壊されたということを嘆く余裕のある者など居ないのだ。それを嘆く者は、自分の命よりも重いものを、この場所に宿していた者だけ。そう、このご老人のような人間しか、嘆くことはできないのだ。


「その後、視力がどんどん衰えて、今じゃあこの有り様、というわけじゃ」


 最後におどけて言うご老人を、三団子は全く笑うことなく、沈黙を続ける。
 いや、良く見……たくはないが、良く見ると、涙を堪えているようにも見える。きっと、大号泣寸前なのだろうと思われるので、近くに居る人は退避を勧めよう。


「もう、いつお迎えがきてもおかしくはないんじゃがのぉ。どうしても、この場所を離れられないんじゃ。どうしても、ワシは……」


 そうして、沈黙するご老人。
 三団子は、その様子を見てアワアワとしつつも、どう声をかけたものかと思案しているのか、誰も声を出さない。


「……すまんのぉ。ワシの昔話はここまでじゃ。長く付き合わせて悪かったのぉ」


 泣いているかに思えたご老人。しかし、ご老人は顔を上げると、三団子の方へと顔を向けて話の終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

人生フリーフォールの僕が、スキル【大落下】で逆に急上昇してしまった件~世のため人のためみんなのために戦ってたら知らぬ間に最強になってました

THE TAKE
ファンタジー
落ちて落ちて落ちてばかりな人生を過ごしてきた高校生の僕【大楽 歌(オオラク ウタ)】は、諦めずコツコツと努力に努力を積み重ね、ついに初めての成功を掴み取った。……だったのに、橋から落ちて流されて、気付けば知らない世界の空から落ちてました。 神から与えられしスキル【大落下】を駆使し、落ちっぱなしだった僕の人生を変えるため、そしてかけがえのない人たちを守るため、また一から人生をやり直します!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...