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第二章 三団子、旅をする

第十話 マルマの町と三団子2

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 肉屋が閉まっている理由は、当然のことながら、売り物になる肉がないからだ。とはいえ、八百屋に比べるとまだ開いている日があるらしいというのは、その辺りを通りがかった人からロドフが聞き込むことで得た情報だ。


「「「どうしよう」」」


 そう思って困っていると、ふいに、その肉屋の閉まっていた扉が開く。


「あれ? お客さんかい? 悪いね。今日も、肉の仕入れはないんだよ」


 中から出てきたのは、顔色の悪いおばちゃんだ。元々はもう少し恰幅が良かったのかもしれないが、今は随分とゲッソリとした印象だ。きっと、食料不足が深刻なせいで色々と負担が大きいのだろう。


「あ、いえ、俺達は、肉を売ろうと思って来たんです」

「肉を売る? ……とりあえず、中に入りな」


 そんな肉屋のおばちゃんの言葉で、三団子達は肉屋の中に入ろうとして……。詰まった。


「……えっと、俺一人で売って来ますので、袋をもらっても良いですか?」

「キャウ……」


 扉が小さかったといえば小さかったのだが、それでも普通なら人一人入れるはずの扉。しかし、そこは規格外の三団子。今まで入る扉がたまたま三団子でも抜けられる程度の大きさだっただけで、ちょっと小さなお店なんかに行こうものなら、詰まるのが当然だった。


「「「ごめん、ロドフ君」」」


 そうして、三団子は、あらかじめ売るつもりで用意しておいた鳥肉入りのずた袋をロドフへと手渡す。鳥肉は、一つ一つ解体された状態で、食用にはならない硬く大きな葉に包んで袋に入れている状態だ。本来はズッシリと重く、持ち運ぶのに苦労するものなのだが、ロドフの重力操作によって軽々と持ち上げられている。


「……まさか、入り口で詰まるような人……人、だよね? ま、まぁ、その……そんなのが居るとは思わなかったよ」


 人ということを疑問視され、あまつさえ『そんなの』呼ばわりされる三団子。しかし、これはもはや仕方のないこと。三団子があまりにも巨大でブヨンブヨンなのが悪い。
 三団子の方を気にしつつ、しかし店内に入れる方法はないため外に放置するしかない状態で、肉屋のおばちゃんはロドフが店のカウンターに置いた袋の中身を確認する。


「こりゃあ、鮮度の良い肉だね。こんな肉を見るのは、随分と久しぶりだよ」

「俺達は旅をしてて、ちょうど群れが居たので狩ってきていたんです。買い取ってもらえますか?」


 鮮度が良いのは当たり前だ。何せ、そろそろ町が見えるくらいのところで、青団子がこの肉を量産したのだから。


「もちろんだよ。代金はそうさね、一羽で銀貨三枚と銅貨五枚ってところかね」

「そんなに!?」


 驚くロドフだったが、それも無理はない。通常ならば、銀貨一枚と銅貨数枚くらいが妥当な買い取り価格なのだ。日本円に換算すると、銀貨一枚が二千円くらいで、銅貨一枚が二百円くらいだ。
 考えられるのは、飢饉による物価の高騰。

 三団子達が持ち込んだ鳥肉は十羽。どれも状態は良く、合計で銀貨三十枚と銅貨五十枚。全て銀貨にするならば、銀貨三十五枚。日本円に換算すると、一気に七万円だ。


「もし、まだあるならいくらでも買い取るよ。今は、食料がとにかく足りないからね」


 そう悲しげに笑うおばちゃんに、ロドフは『また機会があれば』と返し、三団子の元へと戻った。
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