41 / 96
第一章 三団子、異世界に立つ
第四十話 ロドフの記憶と三団子1
しおりを挟む
結論から言おう。やはり、ロドフの記憶は色々とおかしかったようだ。
目が覚めたロドフは、それまでの取り乱し具合が嘘のように落ち着いていて、ここまで何も聞かないままに世話をしてくれた三団子へとゆっくり話を始めた。
「俺は、本来、捨て子でした。それをたまたま近くを通りがかった夫婦に引き取られて、ずっと、一緒に暮らしていたんです」
三男な黄団子が緑茶を用意し、末っ子赤団子がお饅頭を大量に出しているテーブルを囲み、三団子と子狼はロドフの話を聞く。
ロドフのようなハーフエルフという存在は、人間でもエルフでもない存在として、迫害対象となるのだそうだ。しかし、ロドフを拾った夫婦はそんなことを気にする人達ではなく、また、その村の人間達も温かく迎え入れてくれたのだそうだ。
「血の繋がりはなくても、確かに、その夫婦は俺にとっての両親でしたし、二人もそう思ってくれていたと思います。ただ、一年前、俺達の村では大規模な干ばつによる飢饉が起こり、追い打ちをかけるように流行り病のまん延まで起こりました」
ロドフの以前の記憶では、干ばつは最近の記憶のようだったが、本来は一年も前。しかも、流行り病まで起こったとなると、そうとう悲惨なことになったのだろう。ロドフの握り締める拳が、その状況を物語っているようだ。
「仲が良かったはずの村人同士は、いつの間にかいがみ合う関係になっていました。……俺も、ハーフエルフだからって理由だけで、流行り病の原因のように思われて、迫害されるようになりました」
ロドフのとても優しかった記憶は、やはり偽りだった。ひもじさと苦しさと死の恐怖。そんなものに直面して、人々がどこまで理性を保てるのかを考えた時、悲しいことに今、ロドフが言ったことが現実なのだろうと思い知らされる。
「「「そんな……」」」
「キュゥン……」
百八十度違うロドフの記憶に、三団子は言葉を失う。
三団子は、そのぶよぶよボヨンボヨン体型から容易に想像できるように、ひもじい思いをしたことなんて一度もない。苦しい思いだって、死を感じるほどのものは未経験。唯一、この世界に来たことで死の恐怖くらいは感じたことはあっても、その恐怖に終わりが見えない状態もまた体験したことのないものだった。
しかし、ロドフや、この村の人々はそんな状況の中で生きていたのだ。生き残るために、大切なもののために、理性を失うのは当然のことだったのかもしれない。
「ただ、俺は、両親に守られたんです。本来なら、俺は殺されてもおかしくはなかったのに、両親が守ってくれて、偽りとはいえ、幸せなままの、いつもの村の幻影を見せ続けてくれました」
『幻影』という言葉の通り、ロドフは、村のそんな異常に気づくことなく、日々を過ごしていたらしい。少しでもおかしいと思えば、母親がロドフの記憶に干渉していたそうだ。そう、ロドフの母親が、記憶を操作するスキルの持ち主だったのだ。
きっと、ロドフの両親は機を見てロドフを安全な場所に逃がすなり、誰かに託すなりしたかったのだろう。しかし、閉鎖的な村の中に居たまま、それを望むことは不可能に近い。ただ、そこでロドフの父親のスキルが活躍したようだった。
目が覚めたロドフは、それまでの取り乱し具合が嘘のように落ち着いていて、ここまで何も聞かないままに世話をしてくれた三団子へとゆっくり話を始めた。
「俺は、本来、捨て子でした。それをたまたま近くを通りがかった夫婦に引き取られて、ずっと、一緒に暮らしていたんです」
三男な黄団子が緑茶を用意し、末っ子赤団子がお饅頭を大量に出しているテーブルを囲み、三団子と子狼はロドフの話を聞く。
ロドフのようなハーフエルフという存在は、人間でもエルフでもない存在として、迫害対象となるのだそうだ。しかし、ロドフを拾った夫婦はそんなことを気にする人達ではなく、また、その村の人間達も温かく迎え入れてくれたのだそうだ。
「血の繋がりはなくても、確かに、その夫婦は俺にとっての両親でしたし、二人もそう思ってくれていたと思います。ただ、一年前、俺達の村では大規模な干ばつによる飢饉が起こり、追い打ちをかけるように流行り病のまん延まで起こりました」
ロドフの以前の記憶では、干ばつは最近の記憶のようだったが、本来は一年も前。しかも、流行り病まで起こったとなると、そうとう悲惨なことになったのだろう。ロドフの握り締める拳が、その状況を物語っているようだ。
「仲が良かったはずの村人同士は、いつの間にかいがみ合う関係になっていました。……俺も、ハーフエルフだからって理由だけで、流行り病の原因のように思われて、迫害されるようになりました」
ロドフのとても優しかった記憶は、やはり偽りだった。ひもじさと苦しさと死の恐怖。そんなものに直面して、人々がどこまで理性を保てるのかを考えた時、悲しいことに今、ロドフが言ったことが現実なのだろうと思い知らされる。
「「「そんな……」」」
「キュゥン……」
百八十度違うロドフの記憶に、三団子は言葉を失う。
三団子は、そのぶよぶよボヨンボヨン体型から容易に想像できるように、ひもじい思いをしたことなんて一度もない。苦しい思いだって、死を感じるほどのものは未経験。唯一、この世界に来たことで死の恐怖くらいは感じたことはあっても、その恐怖に終わりが見えない状態もまた体験したことのないものだった。
しかし、ロドフや、この村の人々はそんな状況の中で生きていたのだ。生き残るために、大切なもののために、理性を失うのは当然のことだったのかもしれない。
「ただ、俺は、両親に守られたんです。本来なら、俺は殺されてもおかしくはなかったのに、両親が守ってくれて、偽りとはいえ、幸せなままの、いつもの村の幻影を見せ続けてくれました」
『幻影』という言葉の通り、ロドフは、村のそんな異常に気づくことなく、日々を過ごしていたらしい。少しでもおかしいと思えば、母親がロドフの記憶に干渉していたそうだ。そう、ロドフの母親が、記憶を操作するスキルの持ち主だったのだ。
きっと、ロドフの両親は機を見てロドフを安全な場所に逃がすなり、誰かに託すなりしたかったのだろう。しかし、閉鎖的な村の中に居たまま、それを望むことは不可能に近い。ただ、そこでロドフの父親のスキルが活躍したようだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる