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第一章 三団子、異世界に立つ

第三十二話 人命救助と三団子

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 男女の区別が曖昧だった行き倒れの人物は、どうやら男性だったらしい。名前はロドフと名乗り、村で口減らしにあったのだと話す。

 口減らしにあい、助けられたとはいえ三団子にあーんされるという悪夢に見舞われたロドフには同情を禁じ得ないが、その当人はといえば、特に動じた様子もないように見える。もしかすると、その間の記憶が飛んでしまったのかもしれないが、それならばそれで平和で良いのかもしれない。


「うぅっ、ぐずっ」

「た、大変っずずっ、だったね、ぐすっ」

「うぇぇん、そんな、そんなこと、うわぁんっ!」


 それよりも問題なのは、この泣きじゃくる三団子だ。
 基本的にお人好しな傾向が強いらしい三団子。ロドフの身の上話を軽く聞いただけで、この有り様だ。
 少なくとも、九割の人が直視を避けるであろう三団子の泣き顔にも、ロドフは困惑はすれども嫌がる様子がない。
 もしかしたら、ロドフは聖人か何かなのかもしれない。


「い、いえ、俺は、御三方に助けていただけて、本当に感謝しているんです。あのままでは、誰にも見つけてもらえないままに餓死していたでしょうから」


 それにしても、餓死しかけていたにしてはロドフは随分と元気そうだ。まだまだ薄汚れてはいるものの、言葉もはっきりとしているし、体もしっかりと動いている。


「キャンッ、キャンッ」

「君もありがとう。おかげで、俺、何とか生き長らえたよ」


 しかし、子狼にまで向かって頭を下げるロドフの様子から、三団子を騙そうという魂胆は感じ取れない。そうなると、三団子のスキルが何か関係しているに違いなかった。


「うぅ、元気になって、良かったよぉ」

「ぐすっ、本当に、死んじゃうかと思ったよぉ」

「うぇぇ、神様に、お祈りして良かったぁ!」


 最後の末っ子赤団子の言葉で、謎が解ける。彼らの出す食べ物は、彼らの想像次第で様々な効果を付与できる。恐らくは、『元気になりますように』くらいの想いを乗せて、食べ物を召喚していたのだろう。


「ありがとうございます。不思議なことに、食べたら力が漲っていて、今までにないくらいに元気な気がするんです」


 ロドフの言葉が、三団子の能力の高さを裏付ける。


「何かお礼をしたいところですが、生憎持ち合わせが何も無くて……」


 そして、先程まで死にかけていたというのに、こんな言葉が出てくる辺り、本当にロドフは善人なのだろう。


「村に戻っても、きっと、村は村でまだ酷い状態でしょうし……何か、俺にできることはありませんか?」


 ようやく泣き止みつつあった三団子は、ロドフのそんな言葉で、ロドフが居た村の状況を思い浮かべたのか、それともロドフの健気な言葉に心を打たれたのか、またしても涙腺が緩んだらしい。
 三団子がまともに話せるようになった頃には、すでに日が傾きつつあった。
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