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第一章 三団子、異世界に立つ

第二十九話 進行する三団子

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 何故かやる気になってしまった三団子。ただし、その方向性には恐ろしいまでの不安が伴う。
 そもそも、三団子の能力は食料を出すことにしか特化していない。いや、防御力とか魔力が異様に高いというのはあるものの、そんな能力で異世界人召喚の魔法陣を未来永劫消し去るなど、どう考えても不可能ではないかと思われる。
 運動能力は並以下。戦闘能力は皆無。頭脳の面でも頼りにならない。顔面偏差値の勝負は、そもそも勝負にすらならないレベル。……こうして考えると、三団子に良いところなどどこにあるのか全く分からない。


「クゥーン」


 子狼も不安なのか、三団子の様子を見て情けない声を出す。
 三団子をここへ案内したのは紛れもなく子狼なのだが、きっと今になって、三団子の様子に危機感を抱いたのだろう。
 気づくのが遅すぎると言ってはいけない。子狼は、その名の通り、まだまだいたいけな子供なのだから。


「でも、そうなると、どうしよぉ」

「うーん、いっぱい食べて、強くなる!」

「まずは、この世界で頼れる人を見つけられたら良いかもしれないね!」


 末っ子だというのに、一番しっかりとした意見が出てくる赤団子。次男青団子は少しばかりおっとりしていて優柔不断。三男黄団子はあまり考えずに意見を出すこと多々。

 ようやく、少しだけ三団子の違いが分かってきたところで、そろそろツッコミを入れよう。
 黄団子よ、たくさん食べただけでは、強くはなれないからっ。

 ツッコミ不在の三団子は、永遠にボケをかますことだろう。願わくば、早めにツッコミ担当を仲間にしてほしいところだ。……三団子の仲間になりたがる人物がまともかどうかは非常に怪しいが。

 そんなこんなで、小屋を後にした三団子。子狼も仕方なしにといった具合で三団子に付いていく。
 とても危険なはずの黒の森。しかし、三団子はそれから幾度かこの森の中で夜を過ごすこととなるのだが、一度たりとも別の生き物に襲われることはなかった。
 勘の良い者であれば、子狼と神獣の関係を訝しみ、三団子が襲われない原因として子狼の存在を思い浮かべるかもしれないが、残念ながら主人公たる三団子にそんな勘の良さはない。
 ただただあるのは食欲のみ。


「明日の夕飯は、焼き肉が良いなぁ」

「ちゃんこ鍋も食べたーい」

「バケツプリンをデザートにしたいね!」


 のんびりノソノソ歩きながら食べ物を思い浮かべる三団子。スキルの発動はコントロールできるようになったらしく、食べ物の名前を挙げたところでそれが出現することはない。

 そうして、三団子は八日後に黒の森を抜けることに成功したのだった。
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