ポッチャリ三団子の逆襲 〜異世界で要らないと捨てられました〜

星宮歌

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第一章 三団子、異世界に立つ

第四話 三団子の回想3

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 この人外魔境かもしれない扉の向こうに戦々恐々とする三団子。彼らの気持ちは、きっと、よほどの筋肉愛好家でなければ、わりと多く理解が得られるはずだ。
 ブルブルと小刻みに震える可愛くない三団子達は、扉の前でゴクリ、とつばを飲むと、おもむろに拳を振り上げて……。


「「「最初はグー! じゃんけんぽんっ!」」」


 短い腕を必死に伸ばして鬼気迫る勢いでじゃんけんを始めた三団子。仲が良いのは良いことかもしれないが、とりあえず、三団子のじゃんけんなど誰も興味はない。何度も何度もあいこが続き、『あいこでしょっ! あいこでしょっ!』と言葉が続く。そして……。


「やった! 僕の勝ち!」

「僕も、勝った!」


 赤団子な末っ子に続き、黄団子の三男も勝利をおさめる。つまりは……。


「ま、負けたぁ……」


 次男であり、三団子の中で最初に生まれた存在である青団子が、じゃんけんに負けたらしい。
 ガックリと肩を落とす青団子。ただ、そもそもその体型が団子なだけあって、肩を落としたつもりの青団子の肩はそんなに動いていない。


「よし、兄さん、頑張って!」

「頑張れ、兄ちゃん!」


 無責任に、自分によく似た青団子へと応援の言葉を発する黄団子、赤団子。たゆんたゆんな頬を一応引きつらせる青団子がこれから何をしようとしているのかといえば……当然、マッスルサークルへの突撃である。その先陣を切るというとても名誉な役割が、青団子に与えられたのだ。


「……ちゃんと、後ろに居てよぉ?」

「「もちろんっ!!」」


 とってもイイ笑顔で告げる黄団子と赤団子に、青団子はノロノロと……ただでさえ、丸々していて足が遅いのに、更にノロノロと歩いて、マッスルサークルの扉の前に立つ。


「「「うぉぉぉおっ!! マッスルマッスルマッスルマッスルマッスルマッスルっ!!」」」

「よぉしっ、マッスル体操第一終了! 次ぃっ!!」

「「「マッスルゥゥゥウッ!!!」」」


 聞こえてくる、もはや狂人としか思えない集団の雄叫びに、青団子だけでなく、黃団子も赤団子も怖気づくが、残念ながら、彼らに引き返すという頭はない。ここまで来る苦労を思えば、それだけはできないと判断する三団子は、きっと、ダイエットという単語を頭の中から完全に消滅させている。命の危機でも訪れない限り、三団子は丸々ポッチャリなままであろう。


「い、行くよぉ?」


 丸々とした青団子がビクビクしながら扉のノブへ手をかける。ふっくらもっちりで微妙に汗ばんだ手は、ゆっくりとドアノブを回して……次の瞬間、彼らの視界は、眩い光の奔流に包まれた。


「「「うぁあっ! 目、目がぁぁあっ!!」」」


 こうして、三団子は、この世界から姿を消した。そこそこに存在感を発揮していた三団子。きっと、捜索する側も戸惑うに違いない。この三つの巨体が、いったいどこに隠されたのか、と。しかし、物語は世界を超えて、三団子に降りかかる。様々な思惑を、様々な悪意を、三団子はその巨体でぽよよんと受け止めるべく、ゴロゴロゴロゴロ目を押さえて転がって……。


「ふんっ、妙なものが混ざったようね」


 そこに居るはずのない、女性の声とともに、三団子は、ようやく汚く転がり続けることを止めた。


「わたくしは、筋肉を求めたというのに、なぁに? この醜いものは」


 それは確かに、と同意する声が聞こえてきそうなその空気の中、三団子はピクリとも動かない。いや、動けなかった。
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