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第三章 レイラ
第二十三話
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レイラの言葉によって、全員、どうにか攻撃を回避できていた。そして、それは敵も理解していたのだろう。
レイラに降り注いだ攻撃は、確実に、レイラを邪魔者として認識したゆえのものだった。
「レイラーっ!!」
パーシーのその叫びは、断続的な凄まじい爆音に掻き消される。
もうもうと立ち込める土煙。一撃ですら、パーシーの結界を破るほどの威力を持つそれが、無数に降り注いだのだ。小さな小さなキメラの生存は、絶望的であるかに思えた。
「そんな……気配が、消えてるっす……」
先程まで確かに感じていたレイラの気配は、攻撃の後、全く感じられなくなっていた。戦闘が始まった時は、気配を抑えることを止めていたはずのレイラ。調査隊メンバーが問題なく追える状態だったそのレイラの気配は、現在、誰も感じ取れていないらしい。
全員が、最悪を想像し、それでも、戦いが終わったわけではないからと、そちらにばかり意識を割けない。
「っ、警戒を緩めるな!」
そのパーシーの言葉は、果たして、本当に部下に向けてのものだったのか。いつの間にか抜き放っていた短剣に、ギリリッと力を込めるパーシーは、本当に冷静なのか。それを知る術はない。
ただ、一つ確かなことは、敵はまだ、パーシー達を狙っているであろうことのみ。
と、パーシー達が全力で警戒し、敵の正確な位置を探ろうとしていたその刹那。遥か上空で、巨大な爆発音が響く。
『攻撃かっ』と身構えたパーシー達だったが、そこへ視線を向けた瞬間、違うことに気づく。
上空から降り注ぐもの……。いや、上空から強制的に落下させられているのは、黒い影。そして、それを実現させていたのは……。
「「「レイラっ!!??」」」
何か分からない人型の黒いモノの首を締めるような形で、翼を折りたたみ、そいつとともに落下するのは、どう見てもレイラだった。
ズドンと、重い地響きを立てて、レイラと敵らしい存在は地面へと落ちる。
「っ、レイラ!!」
レイラの無事は、地響きの直後に巻き起こった突風で、全く確認はできない。しかし、そこには確かに、レイラの気配が存在した。
パーシーは警戒したまま、風を操り、レイラの元へ向かう道を作って飛ぶ。すると……。
「はっ、はっ……うっ……く……」
巨大なクレーターの中心に、レイラは息を切らせ、脂汗を浮かべながらそこに居た。それと同時に、その敵の正体にも、パーシーは気づく。
「……キメラ、だったのか……」
人型の黒い敵、となれば、パーシー達が真っ先に思い浮かべるのは悪魔だ。しかし、レイラがその首をへし折ったらしい敵のその姿は、確かに人型ではあるものの、鳥類と猫科の動物を足して二で割ったような頭を持つ、奇妙な生き物だった。
「レイラ、大丈夫か? ……レイラ?」
上空で、どのような戦いになっていたのかは分からない。レイラの気配が消えたのは、恐らく、レイラが意図的に行ったことであり、気配が消えたことで敵に自分の死を確認させたかったのかもしれない。
ただ、今現在、どこか焦点の合わない瞳で、完全に事切れているはずのキメラの首をねじ切ろうとしているのではないかと思えるレイラの様子は、明らかに異常だった。
「レイラ? レイラっ!」
異様な様子のレイラへと、パーシーは躊躇うことなく手を伸ばす。そして、その手がレイラの肩に触れれば、レイラはビクッと肩を震わせ、ようやく、その目に焦点が戻る。
「レイラ。もう、大丈夫だ」
「パー、シー……?」
「ゆっくりで良い。体の力を抜いて、その手を離すんだ」
「て……? ……あっ……」
少しばかり意味を捉えきれていなかったらしいレイラは、ノロノロとパーシーの言葉に促されるまま、自分の手元へと視線を向け、そこに、キメラの死体があることに気づく。
「見なくて良い。ただ、ゆっくり、力を抜くんだ」
すぐに、そのレイラの目を両手で覆い隠したパーシーは、そんな指示を出す。
パーシーがそう指示をする理由。それは、レイラの様子が、初めて人を殺した新人の騎士達の様子と被って見えていたからだ。
騎士にとってのそれは、たいていが盗賊討伐の任務ではあるものの、初めて人を殺した騎士の中には、必要以上に攻撃を加え続ける者や、茫然自失状態に陥る者、恐慌状態に陥る者とて存在する。
レイラはきっと、その状態に近い。そう判断したパーシーは、とにかく余計な力を抜かせて、ゆっくりと現実を認識させようとする。そして、それは、正しかった。
ゆっくり、ゆっくり、不自然なほどに窄まっていたその首から、レイラは力を抜いていく。それでも、指が動かないのか、首から手を離せそうにないのを見て取ったパーシーは、そっと集まってきていた他のメンバーへと目配せをする。
「指、少し触るぞ?」
「大丈夫大丈夫! 指を一本一本引き剥がすだけだから痛くない、痛くない」
「今は、考える必要はないすから」
「レイラ、よく頑張ったっすね!」
パーシーと同じく、状況を理解した彼らは、とても優しく、協力的だった。
ゆっくり、一本一本、ダモンによって引き剥がされる指。両隣では、アレイルとガットがレイラを励まし、モナはレイラを労う。
そうして、ようやく、レイラは『ふ、ゆ……』と小さく声をあげたのだった。
レイラに降り注いだ攻撃は、確実に、レイラを邪魔者として認識したゆえのものだった。
「レイラーっ!!」
パーシーのその叫びは、断続的な凄まじい爆音に掻き消される。
もうもうと立ち込める土煙。一撃ですら、パーシーの結界を破るほどの威力を持つそれが、無数に降り注いだのだ。小さな小さなキメラの生存は、絶望的であるかに思えた。
「そんな……気配が、消えてるっす……」
先程まで確かに感じていたレイラの気配は、攻撃の後、全く感じられなくなっていた。戦闘が始まった時は、気配を抑えることを止めていたはずのレイラ。調査隊メンバーが問題なく追える状態だったそのレイラの気配は、現在、誰も感じ取れていないらしい。
全員が、最悪を想像し、それでも、戦いが終わったわけではないからと、そちらにばかり意識を割けない。
「っ、警戒を緩めるな!」
そのパーシーの言葉は、果たして、本当に部下に向けてのものだったのか。いつの間にか抜き放っていた短剣に、ギリリッと力を込めるパーシーは、本当に冷静なのか。それを知る術はない。
ただ、一つ確かなことは、敵はまだ、パーシー達を狙っているであろうことのみ。
と、パーシー達が全力で警戒し、敵の正確な位置を探ろうとしていたその刹那。遥か上空で、巨大な爆発音が響く。
『攻撃かっ』と身構えたパーシー達だったが、そこへ視線を向けた瞬間、違うことに気づく。
上空から降り注ぐもの……。いや、上空から強制的に落下させられているのは、黒い影。そして、それを実現させていたのは……。
「「「レイラっ!!??」」」
何か分からない人型の黒いモノの首を締めるような形で、翼を折りたたみ、そいつとともに落下するのは、どう見てもレイラだった。
ズドンと、重い地響きを立てて、レイラと敵らしい存在は地面へと落ちる。
「っ、レイラ!!」
レイラの無事は、地響きの直後に巻き起こった突風で、全く確認はできない。しかし、そこには確かに、レイラの気配が存在した。
パーシーは警戒したまま、風を操り、レイラの元へ向かう道を作って飛ぶ。すると……。
「はっ、はっ……うっ……く……」
巨大なクレーターの中心に、レイラは息を切らせ、脂汗を浮かべながらそこに居た。それと同時に、その敵の正体にも、パーシーは気づく。
「……キメラ、だったのか……」
人型の黒い敵、となれば、パーシー達が真っ先に思い浮かべるのは悪魔だ。しかし、レイラがその首をへし折ったらしい敵のその姿は、確かに人型ではあるものの、鳥類と猫科の動物を足して二で割ったような頭を持つ、奇妙な生き物だった。
「レイラ、大丈夫か? ……レイラ?」
上空で、どのような戦いになっていたのかは分からない。レイラの気配が消えたのは、恐らく、レイラが意図的に行ったことであり、気配が消えたことで敵に自分の死を確認させたかったのかもしれない。
ただ、今現在、どこか焦点の合わない瞳で、完全に事切れているはずのキメラの首をねじ切ろうとしているのではないかと思えるレイラの様子は、明らかに異常だった。
「レイラ? レイラっ!」
異様な様子のレイラへと、パーシーは躊躇うことなく手を伸ばす。そして、その手がレイラの肩に触れれば、レイラはビクッと肩を震わせ、ようやく、その目に焦点が戻る。
「レイラ。もう、大丈夫だ」
「パー、シー……?」
「ゆっくりで良い。体の力を抜いて、その手を離すんだ」
「て……? ……あっ……」
少しばかり意味を捉えきれていなかったらしいレイラは、ノロノロとパーシーの言葉に促されるまま、自分の手元へと視線を向け、そこに、キメラの死体があることに気づく。
「見なくて良い。ただ、ゆっくり、力を抜くんだ」
すぐに、そのレイラの目を両手で覆い隠したパーシーは、そんな指示を出す。
パーシーがそう指示をする理由。それは、レイラの様子が、初めて人を殺した新人の騎士達の様子と被って見えていたからだ。
騎士にとってのそれは、たいていが盗賊討伐の任務ではあるものの、初めて人を殺した騎士の中には、必要以上に攻撃を加え続ける者や、茫然自失状態に陥る者、恐慌状態に陥る者とて存在する。
レイラはきっと、その状態に近い。そう判断したパーシーは、とにかく余計な力を抜かせて、ゆっくりと現実を認識させようとする。そして、それは、正しかった。
ゆっくり、ゆっくり、不自然なほどに窄まっていたその首から、レイラは力を抜いていく。それでも、指が動かないのか、首から手を離せそうにないのを見て取ったパーシーは、そっと集まってきていた他のメンバーへと目配せをする。
「指、少し触るぞ?」
「大丈夫大丈夫! 指を一本一本引き剥がすだけだから痛くない、痛くない」
「今は、考える必要はないすから」
「レイラ、よく頑張ったっすね!」
パーシーと同じく、状況を理解した彼らは、とても優しく、協力的だった。
ゆっくり、一本一本、ダモンによって引き剥がされる指。両隣では、アレイルとガットがレイラを励まし、モナはレイラを労う。
そうして、ようやく、レイラは『ふ、ゆ……』と小さく声をあげたのだった。
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