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第三章 レイラ
第十四話
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フィスカ達が油断をしていたのは、きっと仕事が膨大だったことと、レイラがあまりにも強く、いつも笑顔を浮かべてくれていたからというものもあったのだろう。
扉をぶち破る勢いでシェラの執務室へ戻ったフィスカは、レイラを休ませながらシェラ達に事情を説明して、拳を強く握り締める。
「レイラは、キメラだと……。キメラへの憎しみは根深いと、理解していたはずでしたが……」
「……フィスカ。レイラを傷つけたのは、ドコのドイツ?」
「ふふふっ、僕達の妹に毒を盛るなんて、良い度胸、ダネ?」
敵意どころか、殺意を全開にするシェラとマディンを前に、ストッパー役を果たすはずのフィスカはというと……。
「ふ、ふふふふっ、そうですね。手早く調べて、懲らしめなきゃいけませんヨネ?」
同じく、殺意を全開に暴走し始めていた。名目上、レイラはシェラの妹という立場になったものの、レイラ自身は、無自覚に四将全員の妹としての精神的な立場を確立していた。
つまりは、シスコン最強軍団が、ここに結成されているというわけだ。
「まずは、厨房への殴り込みカシラ?」
「そうですネ。もちろん、わたくしも参加しますヨ?」
「僕だって、しっかりと精神的にいたぶる準備を整えるから、ちゃんと残しててネ?」
目を据わらせて、殺気を振りまく王と二人の将。仕事で募らせたストレスが爆発している、ということもあるのだろうが、とにかく、今回の件をシェラ達は全く許すつもりはないらしい。
すぐさま準備を整えたシェラとフィスカは、そのまま厨房へと向かう。マディンは、ひとまずはレイラの側で看病することとなるが、それでも、入れ代わりで厨房へ恐怖をもたらすことになるのは確定している。
その日の夜。料理人達が全員寝込むという異例の事態で、別の料理人が急遽募集される事態もなっていた。そして、その真相を知ろうとする貴族達はシェラ達の様子を見て口を噤むという状態となり、誰も、その真相に辿り着くことはなかったそうだ。
「……ふゅ……お姉ちゃん?」
「レイラ! どうして、何も言わなかったの!」
目を覚ましたレイラの前には、心配を全開にしたシェラが居た。当然、フィスカやマディン、そして、話を聞いて駆けつけたパーシーやアシュレーも部屋に居ないわけではなかったものの、レイラの視界にはシェラしか映っていなかっただろう。シェラは、レイラから一番近いベッドサイドで、レイラの顔を覗き込んでいたのだから。
「ふゆ??」
しかし、心配されているレイラの方はというと、何を心配されているのか分からないとでも言いたげに疑問符を浮かべている。
「レイラ、お前、毒を盛られてたんだよ。と、いうか、毒キノコを盛られてた、と言えば良いか……?」
パーシーの悲痛な表情に、レイラはしばらく沈黙し、唐突にそのうさ耳を跳ね上げる。
「ふゆっ! あの面白いキノコ!」
その一言で、どうやら、レイラには毒を盛られた自覚がなかったらしいと、シェラ達は気づく。
「お姉ちゃん、パーシー、皆、だいじょーぶなの! 毒なら、しばらくしたら何ともなくなるの!」
ただ、その後に続く言葉に、シェラ達は絶句した。
「あのね、毒はね。いつものことだし、キノコ、あれは美味しいやつだから、問題ないの!」
しかも、毒キノコをガッツリ食材として見ているそのキラキラとした目に、誰もが言葉を失う。
「ふゆっ、でも、解毒の魔術、覚えたら全部、普通に食べられるようになる……?」
たいへん、食い意地の張ったその言葉は、多少どころではない衝撃を、シェラ達に与え、もはや彼ら彼女らは、レイラの言葉についていくだけで精一杯だ。
「ふゆっ! お姉ちゃん、お姉ちゃん、解毒の魔術、教えてほしーの!」
仕事のストレスに、レイラへの心配、そして、この言葉が止めとなり、ロゼリアで最も強いはずのシェラは、フッと意識を飛ばした。
「お姉ちゃん!?」
「……今のは、フォローできませんね」
「……シェラ……気持ちは分かるぞ」
「毒キノコが、美味しいって……」
「……毒のない、美味しいものを、たくさん食べさせてやろう」
それぞれが困惑する中、アシュレーの言葉に全員が大きくうなずく。
「ふゆ??」
シェラが倒れたことによって、素早く自分とシェラの位置を入れ替えたレイラは、全員の言葉に首をかしげる。
「レイラ、そんなキノコより、もっと美味いものを食わせてやるからなっ!!」
「わたくしも、腕をふるいます!」
「食材の見分け方も、教えてあげるからね」
「実際に採取する時は、俺が同行しよう」
とにかく、レイラに健全な食生活を、と決意した面々に、レイラは疑問符を浮かべながらも応える。
「ふゆっ! 楽しみにしてるの!」
レイラが毒を好んで食べる未来を回避すべく、フィスカ達は今後、その言葉を実現させるべく、獅子奮迅の努力を強いられることとなる。
扉をぶち破る勢いでシェラの執務室へ戻ったフィスカは、レイラを休ませながらシェラ達に事情を説明して、拳を強く握り締める。
「レイラは、キメラだと……。キメラへの憎しみは根深いと、理解していたはずでしたが……」
「……フィスカ。レイラを傷つけたのは、ドコのドイツ?」
「ふふふっ、僕達の妹に毒を盛るなんて、良い度胸、ダネ?」
敵意どころか、殺意を全開にするシェラとマディンを前に、ストッパー役を果たすはずのフィスカはというと……。
「ふ、ふふふふっ、そうですね。手早く調べて、懲らしめなきゃいけませんヨネ?」
同じく、殺意を全開に暴走し始めていた。名目上、レイラはシェラの妹という立場になったものの、レイラ自身は、無自覚に四将全員の妹としての精神的な立場を確立していた。
つまりは、シスコン最強軍団が、ここに結成されているというわけだ。
「まずは、厨房への殴り込みカシラ?」
「そうですネ。もちろん、わたくしも参加しますヨ?」
「僕だって、しっかりと精神的にいたぶる準備を整えるから、ちゃんと残しててネ?」
目を据わらせて、殺気を振りまく王と二人の将。仕事で募らせたストレスが爆発している、ということもあるのだろうが、とにかく、今回の件をシェラ達は全く許すつもりはないらしい。
すぐさま準備を整えたシェラとフィスカは、そのまま厨房へと向かう。マディンは、ひとまずはレイラの側で看病することとなるが、それでも、入れ代わりで厨房へ恐怖をもたらすことになるのは確定している。
その日の夜。料理人達が全員寝込むという異例の事態で、別の料理人が急遽募集される事態もなっていた。そして、その真相を知ろうとする貴族達はシェラ達の様子を見て口を噤むという状態となり、誰も、その真相に辿り着くことはなかったそうだ。
「……ふゅ……お姉ちゃん?」
「レイラ! どうして、何も言わなかったの!」
目を覚ましたレイラの前には、心配を全開にしたシェラが居た。当然、フィスカやマディン、そして、話を聞いて駆けつけたパーシーやアシュレーも部屋に居ないわけではなかったものの、レイラの視界にはシェラしか映っていなかっただろう。シェラは、レイラから一番近いベッドサイドで、レイラの顔を覗き込んでいたのだから。
「ふゆ??」
しかし、心配されているレイラの方はというと、何を心配されているのか分からないとでも言いたげに疑問符を浮かべている。
「レイラ、お前、毒を盛られてたんだよ。と、いうか、毒キノコを盛られてた、と言えば良いか……?」
パーシーの悲痛な表情に、レイラはしばらく沈黙し、唐突にそのうさ耳を跳ね上げる。
「ふゆっ! あの面白いキノコ!」
その一言で、どうやら、レイラには毒を盛られた自覚がなかったらしいと、シェラ達は気づく。
「お姉ちゃん、パーシー、皆、だいじょーぶなの! 毒なら、しばらくしたら何ともなくなるの!」
ただ、その後に続く言葉に、シェラ達は絶句した。
「あのね、毒はね。いつものことだし、キノコ、あれは美味しいやつだから、問題ないの!」
しかも、毒キノコをガッツリ食材として見ているそのキラキラとした目に、誰もが言葉を失う。
「ふゆっ、でも、解毒の魔術、覚えたら全部、普通に食べられるようになる……?」
たいへん、食い意地の張ったその言葉は、多少どころではない衝撃を、シェラ達に与え、もはや彼ら彼女らは、レイラの言葉についていくだけで精一杯だ。
「ふゆっ! お姉ちゃん、お姉ちゃん、解毒の魔術、教えてほしーの!」
仕事のストレスに、レイラへの心配、そして、この言葉が止めとなり、ロゼリアで最も強いはずのシェラは、フッと意識を飛ばした。
「お姉ちゃん!?」
「……今のは、フォローできませんね」
「……シェラ……気持ちは分かるぞ」
「毒キノコが、美味しいって……」
「……毒のない、美味しいものを、たくさん食べさせてやろう」
それぞれが困惑する中、アシュレーの言葉に全員が大きくうなずく。
「ふゆ??」
シェラが倒れたことによって、素早く自分とシェラの位置を入れ替えたレイラは、全員の言葉に首をかしげる。
「レイラ、そんなキノコより、もっと美味いものを食わせてやるからなっ!!」
「わたくしも、腕をふるいます!」
「食材の見分け方も、教えてあげるからね」
「実際に採取する時は、俺が同行しよう」
とにかく、レイラに健全な食生活を、と決意した面々に、レイラは疑問符を浮かべながらも応える。
「ふゆっ! 楽しみにしてるの!」
レイラが毒を好んで食べる未来を回避すべく、フィスカ達は今後、その言葉を実現させるべく、獅子奮迅の努力を強いられることとなる。
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