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第三章 レイラ
第一話
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銀の長い髪にミルク色のうさ耳を生やしたレイラ。純白の大きな翼を背中に負うレイラ。その瞳は、今は見えないが、美しい瑠璃色の瞳であり、時折黄金にも輝く。
キメラ、という種族でありながら、このロゼリアの王と同じ黄金を纏っていたレイラは現在、スヤスヤとお昼寝中だった。
「では、詳しい事情を聞かせてくださいますね?」
「フィスカ……その顔は、怖いからやめない?」
「あら? わたくしは、ただただ、笑顔を浮かべているだけですよ?」
そんなレイラを横目に何やら攻防をしているのは、フィスカとシェラの二人だ。
シェラとレイラが目を覚まして、今は二日目のお昼だった。その間に、元気なレイラから事情聴取も行ったのだが、レイラ自身も説明が難しい部分があるらしく、分かったことといえば、何らかの方法で魂をシェラに戻したことと、二人の間に繋がりが残っているらしいことだった。
「そんなに脅さなくても、ちゃんと話すわよ。レイラを取られて悔しいからって、そこまでしなくても……いえ、何でもないわ」
笑顔なのに何やら迫力のあったフィスカは、さらにその笑みに凄みを追加する。
実際、シェラが目覚めてから、レイラはシェラにベッタリだった。『お姉ちゃん』と何度も何度も呼んで、ニコニコ笑うレイラの様子を、最初こそ微笑ましく見ていたフィスカ、パーシー、マディンの三人は、次第にシェラへ嫉妬心を募らせるはめになっていた。
「そうね……何から話そうかしら……」
「では、レイラとの関係性を簡潔に」
「……宿主と寄生者?」
「……シェラ?」
当初予想されていた血縁関係云々に関して、全く言及するつもりのなさそうなシェラの返答に、フィスカはいつの間にかその手に鞭を装備している。
「いえ、冗談ではなく、事実よ。私もどうして、レイラに宿ることができたのか不思議ではあるの。分かっていることで関係のありそうなことは、レイラの魔力と私の魔力がとても良く似ていること、ね」
フィスカが予想していたのは、何らかの血縁関係にあるがゆえに、レイラがシェラを宿せた、というものだったのだろう。とはいえ、あの魂に関する研究そのものがどこまで本当なのか分からない部分もある。だからこそ、フィスカはシェラの言葉に納得したようにうなずく。
「なるほど。ですが、だとしたら、レイラも黄金の魔力を持つ、ということですか?」
「そうね。フィスカが言いたいことは分かるわ。それならなぜ、レイラが王にならなかったのか、でしょう?」
黄金の魔力を持つということは、王の証でもある。にもかかわらず、この国で、シェラ以外に黄金の魔力を持つ者は見つからなかった。
「レイラと魂が混ざり合わないように、あまり話してはこなかったけど、突拍子もない仮説ならあるわ」
「シェラが突拍子もないことをするのはよくあることですので、大丈夫です」
そう請け合うフィスカに、シェラは一つ息を吐いて話す。
「恐らく、レイラが居た世界と、私達の世界は別物よ」
「……は?」
しかし、さすがにそれは予想できなかったのか、フィスカはポカンと口を開ける。
「レイラの話に出てくるもののほとんどを、私は理解できなかった。そして、魔法そのものがほとんどの人間にとって幻想のような扱いで、悪魔すらも存在しない。それが、レイラの居た世界なのよ」
「待って、ください。それでは、まるで、レイラは異世界から来たということになりますし、そもそもシェラの魂が異世界に……? いえ、ですが、レイラも幼いですし、妄想という可能性は?」
懸命に、現実に当てはめた常識的な思考を維持しようとするフィスカだったが、無情にも、そこに新たなる爆弾が投下される。
「確かに、記憶を失って幼児退行してはいるけど、レイラは十七歳よ」
「…………………十、七…………?」
とうとう固まってしまったフィスカに、シェラは『そういえば』と付け加える。
「背が伸びないって毎回嘆いていた気がするわね……」
そう、レイラの身長は、百五十センチにすら届かない。服を渡すために測った際、その身長は百四十五センチだと判明した。フィスカはその時のことを鮮明に思い出しているのか、まだフリーズから溶けることはない。
「そこそこ頭も良いし、度胸もある子ではあったけど、今の様子は、幼い頃の感覚と十七歳の頃の感覚が混じってるように見えるわね」
ギギギッと音がしそうな様子で、フィスカは現在、ぬいぐるみを抱き締めて眠るレイラへと視線を向ける。
「あっ、でも、幼い精神の方が強そうだから、今まで通りの対応で問題ないわよ」
「……とりあえず、レイラの年齢については、考えないことにします」
精神衛生上、それが一番と判断したらしいフィスカは、そんな結論を述べた。
キメラ、という種族でありながら、このロゼリアの王と同じ黄金を纏っていたレイラは現在、スヤスヤとお昼寝中だった。
「では、詳しい事情を聞かせてくださいますね?」
「フィスカ……その顔は、怖いからやめない?」
「あら? わたくしは、ただただ、笑顔を浮かべているだけですよ?」
そんなレイラを横目に何やら攻防をしているのは、フィスカとシェラの二人だ。
シェラとレイラが目を覚まして、今は二日目のお昼だった。その間に、元気なレイラから事情聴取も行ったのだが、レイラ自身も説明が難しい部分があるらしく、分かったことといえば、何らかの方法で魂をシェラに戻したことと、二人の間に繋がりが残っているらしいことだった。
「そんなに脅さなくても、ちゃんと話すわよ。レイラを取られて悔しいからって、そこまでしなくても……いえ、何でもないわ」
笑顔なのに何やら迫力のあったフィスカは、さらにその笑みに凄みを追加する。
実際、シェラが目覚めてから、レイラはシェラにベッタリだった。『お姉ちゃん』と何度も何度も呼んで、ニコニコ笑うレイラの様子を、最初こそ微笑ましく見ていたフィスカ、パーシー、マディンの三人は、次第にシェラへ嫉妬心を募らせるはめになっていた。
「そうね……何から話そうかしら……」
「では、レイラとの関係性を簡潔に」
「……宿主と寄生者?」
「……シェラ?」
当初予想されていた血縁関係云々に関して、全く言及するつもりのなさそうなシェラの返答に、フィスカはいつの間にかその手に鞭を装備している。
「いえ、冗談ではなく、事実よ。私もどうして、レイラに宿ることができたのか不思議ではあるの。分かっていることで関係のありそうなことは、レイラの魔力と私の魔力がとても良く似ていること、ね」
フィスカが予想していたのは、何らかの血縁関係にあるがゆえに、レイラがシェラを宿せた、というものだったのだろう。とはいえ、あの魂に関する研究そのものがどこまで本当なのか分からない部分もある。だからこそ、フィスカはシェラの言葉に納得したようにうなずく。
「なるほど。ですが、だとしたら、レイラも黄金の魔力を持つ、ということですか?」
「そうね。フィスカが言いたいことは分かるわ。それならなぜ、レイラが王にならなかったのか、でしょう?」
黄金の魔力を持つということは、王の証でもある。にもかかわらず、この国で、シェラ以外に黄金の魔力を持つ者は見つからなかった。
「レイラと魂が混ざり合わないように、あまり話してはこなかったけど、突拍子もない仮説ならあるわ」
「シェラが突拍子もないことをするのはよくあることですので、大丈夫です」
そう請け合うフィスカに、シェラは一つ息を吐いて話す。
「恐らく、レイラが居た世界と、私達の世界は別物よ」
「……は?」
しかし、さすがにそれは予想できなかったのか、フィスカはポカンと口を開ける。
「レイラの話に出てくるもののほとんどを、私は理解できなかった。そして、魔法そのものがほとんどの人間にとって幻想のような扱いで、悪魔すらも存在しない。それが、レイラの居た世界なのよ」
「待って、ください。それでは、まるで、レイラは異世界から来たということになりますし、そもそもシェラの魂が異世界に……? いえ、ですが、レイラも幼いですし、妄想という可能性は?」
懸命に、現実に当てはめた常識的な思考を維持しようとするフィスカだったが、無情にも、そこに新たなる爆弾が投下される。
「確かに、記憶を失って幼児退行してはいるけど、レイラは十七歳よ」
「…………………十、七…………?」
とうとう固まってしまったフィスカに、シェラは『そういえば』と付け加える。
「背が伸びないって毎回嘆いていた気がするわね……」
そう、レイラの身長は、百五十センチにすら届かない。服を渡すために測った際、その身長は百四十五センチだと判明した。フィスカはその時のことを鮮明に思い出しているのか、まだフリーズから溶けることはない。
「そこそこ頭も良いし、度胸もある子ではあったけど、今の様子は、幼い頃の感覚と十七歳の頃の感覚が混じってるように見えるわね」
ギギギッと音がしそうな様子で、フィスカは現在、ぬいぐるみを抱き締めて眠るレイラへと視線を向ける。
「あっ、でも、幼い精神の方が強そうだから、今まで通りの対応で問題ないわよ」
「……とりあえず、レイラの年齢については、考えないことにします」
精神衛生上、それが一番と判断したらしいフィスカは、そんな結論を述べた。
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