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第二章 王
第十七話
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まさか、元老院からそんな要望が出ているとは、つゆほども思っていなかったパーシーとアシュレー。しかし、それでもすぐに切り替えて質問を始める。
「レイラに危険はないのか?」
「一応、わたくし達のうちの誰かが立ち会いの下、質疑応答を行うこととなっていますし、あらかじめ質問内容をこちらで確認した後、こちらである程度、その内容を絞ることも可能という条件ではあります。となれば、危険と言えるものはほとんどあり得ないでしょう」
「期間の指定は?」
「期間は、特に指定されていません。ですが、レイラの状況次第で、こちらから一方的に拒否することもできます」
「向こうは、誰が担当するんだ?」
「担当者は……オリヴィア・ラウロッツとあります。確か、ラウロッツ家の三女で、まだ二十歳という年齢で元老院に席を置く才女です。人格に問題があるとは思いませんが、もし受けるのであれば、素行調査をしてもらうことになりますね」
パーシーとアシュレーが交互に行う質問に、フィスカは次々に答えていく。それからしばらくして、質問が出尽くしたらしく、パーシーとアシュレーは、それらの内容を踏まえて考えている様子だった。
「わたくしとしましても、この提案は受けるべきではないか、とは考えています」
そんな二人を見て、フィスカはそっと、自分の意見を述べる。
「元老院にさえ認められれば、レイラができることの幅は広がります。もしかしたら、外を出歩くことすら、できるかもしれません」
「……そりゃあ、レイラに不自由を強いてるのは分かってるけど……でも、逆もあり得るだろ?」
「質問内容をこちらで絞れるのですよ? 上手くすれば、レイラに害がないことを伝えることだって可能です。そして、これ以上の不自由を強いるというのは、わたくしが、何が何でも阻止してみせますので」
ニッコリと笑って断言するフィスカ。それを見て、パーシーもなるほどとうなずく。
「……俺も、受けた方が良いと思う。むしろ、受けなければ、今後、レイラにチャンスが巡ってくるか分からない、ということもあるだろう?」
「その通りです。レイラが外界と関わるためのこの機会。逃せばきっと、レイラはずっと閉じ込めなければならないでしょう」
レイラをずっと、狭い世界に閉じ込めておきたいのであれば、きっと、何もしない方が良い。しかし、どんなに閉じ込めたいと思っていても、それが叶わないであろうことを、誰もが予感していた。
「悪魔が、取り返しに来る可能性、か……」
苦しそうに告げるパーシーのその言葉が、レイラをそのままで居させるわけにはいかない理由だった。
悪魔がレイラを取り戻そうと向かって来たとして、現状では、悪魔もレイラもひと括りに敵として認識されてしまう。
しかし、少しでも、レイラが外の世界に出られるようになれば、もしかしたら、レイラに味方する存在を作ることができるかもしれない。いや、完全な味方でなくとも、利害の一致でもなんでも、レイラが危険な時に味方する誰かができるかもしれない。
もちろん、これは希望的観測ではある。外に出たとして、味方の一人も作れないかもしれない。しかし、元々が最低ラインなのだ。試せるものはいくらでも試すべきというのが、この場の意見として纏まる。
「では、元老院には了承の報せを送っておきましょう。開始日に関しては、レイラの状態を見てからということにして、マディンには、事後報告にはなりますが、了承してもらいましょう」
「え? それ、大丈夫か?」
「一応、先に説明はしています。そして、レイラ次第だとの返答ももらっていますので、レイラに確認を取りさえすれば、問題ありません」
どうやら、マディンはパーシー達より前に同じ話を説明してもらったらしい。と、そこで、パーシーはなぜかジッとフィスカの顔を見る。それに気づいたアシュレーも、同じく、フィスカの顔へと視線を集中させる。
「? パーシー? アシュレー? どうしましたか?」
「……フィスカ、お前、眠ったのか?」
フィスカの顔色は、特に悪いようには見えない。しかし、パーシーは、鋭い眼差しでフィスカに問う。
「もちろん。でなければ、わたくしとて倒れていますよ」
少しの動揺も見せずに笑うフィスカ。しかし、相手はパーシーだけではない。アシュレーだって、パーシーと同じことを疑っているのだ。
「……いや、パーシーの言う通りだ。フィスカ、今、真っ直ぐに歩ける自信があるか? その睡魔に呑まれそうな頭を抱えたまま」
「っ……どうして、こういうことには鋭いのでしょうね……」
フィスカのその返答は、そのまま、真っ直ぐに歩ける自信がないことを示している。
しかし、それもそのはずだった。昨夜は完全に徹夜でレイラが起こした幽霊騒ぎに対処し、朝は様々な通常業務をしていたはず。恐らくはその時、マディンとも協力して仕事をしており、マディンがあそこまでやつれるだけの仕事をしっかりとこなした後、それでもなお、この場所で、書類と格闘していたのだから。
「「休めっ」」
フラフラの国王代理には、まず休息が必要とばかりに、パーシーとアシュレーはフィスカに詰め寄った。
「レイラに危険はないのか?」
「一応、わたくし達のうちの誰かが立ち会いの下、質疑応答を行うこととなっていますし、あらかじめ質問内容をこちらで確認した後、こちらである程度、その内容を絞ることも可能という条件ではあります。となれば、危険と言えるものはほとんどあり得ないでしょう」
「期間の指定は?」
「期間は、特に指定されていません。ですが、レイラの状況次第で、こちらから一方的に拒否することもできます」
「向こうは、誰が担当するんだ?」
「担当者は……オリヴィア・ラウロッツとあります。確か、ラウロッツ家の三女で、まだ二十歳という年齢で元老院に席を置く才女です。人格に問題があるとは思いませんが、もし受けるのであれば、素行調査をしてもらうことになりますね」
パーシーとアシュレーが交互に行う質問に、フィスカは次々に答えていく。それからしばらくして、質問が出尽くしたらしく、パーシーとアシュレーは、それらの内容を踏まえて考えている様子だった。
「わたくしとしましても、この提案は受けるべきではないか、とは考えています」
そんな二人を見て、フィスカはそっと、自分の意見を述べる。
「元老院にさえ認められれば、レイラができることの幅は広がります。もしかしたら、外を出歩くことすら、できるかもしれません」
「……そりゃあ、レイラに不自由を強いてるのは分かってるけど……でも、逆もあり得るだろ?」
「質問内容をこちらで絞れるのですよ? 上手くすれば、レイラに害がないことを伝えることだって可能です。そして、これ以上の不自由を強いるというのは、わたくしが、何が何でも阻止してみせますので」
ニッコリと笑って断言するフィスカ。それを見て、パーシーもなるほどとうなずく。
「……俺も、受けた方が良いと思う。むしろ、受けなければ、今後、レイラにチャンスが巡ってくるか分からない、ということもあるだろう?」
「その通りです。レイラが外界と関わるためのこの機会。逃せばきっと、レイラはずっと閉じ込めなければならないでしょう」
レイラをずっと、狭い世界に閉じ込めておきたいのであれば、きっと、何もしない方が良い。しかし、どんなに閉じ込めたいと思っていても、それが叶わないであろうことを、誰もが予感していた。
「悪魔が、取り返しに来る可能性、か……」
苦しそうに告げるパーシーのその言葉が、レイラをそのままで居させるわけにはいかない理由だった。
悪魔がレイラを取り戻そうと向かって来たとして、現状では、悪魔もレイラもひと括りに敵として認識されてしまう。
しかし、少しでも、レイラが外の世界に出られるようになれば、もしかしたら、レイラに味方する存在を作ることができるかもしれない。いや、完全な味方でなくとも、利害の一致でもなんでも、レイラが危険な時に味方する誰かができるかもしれない。
もちろん、これは希望的観測ではある。外に出たとして、味方の一人も作れないかもしれない。しかし、元々が最低ラインなのだ。試せるものはいくらでも試すべきというのが、この場の意見として纏まる。
「では、元老院には了承の報せを送っておきましょう。開始日に関しては、レイラの状態を見てからということにして、マディンには、事後報告にはなりますが、了承してもらいましょう」
「え? それ、大丈夫か?」
「一応、先に説明はしています。そして、レイラ次第だとの返答ももらっていますので、レイラに確認を取りさえすれば、問題ありません」
どうやら、マディンはパーシー達より前に同じ話を説明してもらったらしい。と、そこで、パーシーはなぜかジッとフィスカの顔を見る。それに気づいたアシュレーも、同じく、フィスカの顔へと視線を集中させる。
「? パーシー? アシュレー? どうしましたか?」
「……フィスカ、お前、眠ったのか?」
フィスカの顔色は、特に悪いようには見えない。しかし、パーシーは、鋭い眼差しでフィスカに問う。
「もちろん。でなければ、わたくしとて倒れていますよ」
少しの動揺も見せずに笑うフィスカ。しかし、相手はパーシーだけではない。アシュレーだって、パーシーと同じことを疑っているのだ。
「……いや、パーシーの言う通りだ。フィスカ、今、真っ直ぐに歩ける自信があるか? その睡魔に呑まれそうな頭を抱えたまま」
「っ……どうして、こういうことには鋭いのでしょうね……」
フィスカのその返答は、そのまま、真っ直ぐに歩ける自信がないことを示している。
しかし、それもそのはずだった。昨夜は完全に徹夜でレイラが起こした幽霊騒ぎに対処し、朝は様々な通常業務をしていたはず。恐らくはその時、マディンとも協力して仕事をしており、マディンがあそこまでやつれるだけの仕事をしっかりとこなした後、それでもなお、この場所で、書類と格闘していたのだから。
「「休めっ」」
フラフラの国王代理には、まず休息が必要とばかりに、パーシーとアシュレーはフィスカに詰め寄った。
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