9 / 92
第一章 出会い
第八話
しおりを挟む
居心地が悪そうにするキメラと、上機嫌にキメラを膝に乗せて頭を撫でているパーシー、そして、どうにか衝撃から我に返って、今度は困惑した様子のフィスカ。それぞれがそれぞれの反応を示す中、最初に口を開いたのはパーシーだった。
「なっ、このキメラは可愛かっただろう?」
「え、えぇ、まぁ……そうですね」
どことなくビクビクしているキメラに気づいていないらしいパーシーは、キメラと一緒に居ることが嬉しくて仕方がないとでもいうかのように、ギュッとキメラを抱き締める。
「不満は、あんまりにも細くて、不健康そうなところなんだが、何とかできないか?」
「いえ、そういう話ではなかったはずですよね!?」
現在、パーシーの部屋には防音結界を張っている。いや、そもそもキメラの存在が他にバレないようにするため、パーシーは常時、この部屋に防音結界を張っていた。そのため、フィスカがどんなに声を荒らげたところで外に漏れることはない。
「あー、まぁ、そうだけどな? 昼間にこうして会えるのが嬉しい気持ちは分かるだろ?」
「分かりませんっ」
パーシーは、男勝りな性格をしているものの、可愛いものは大好きだ。ただ、普段は嘗められないようにぶっきらぼうに振る舞っているだけであって、このキメラのような可愛い女の子は、パーシーの癒やしとして最上級の存在だったりする。
「そこまで言わなくても……」
「良いですか? パーシー、あなたは今、反逆罪に問われても仕方のない行いをしているのですよ? それでもパーシーがそのキメラに何かを感じ取ったのであれば、そのキメラの有用性を証明しなければならないんです」
「まぁ、それは分かってるんだけど、な……」
現実問題として、キメラをこのまま置いておくのはあまりにも危険だった。
バレるかもしれない、という危険性はもちろんのこと、キメラ自身のことも何も分かっていない状態で、キメラを守ることはとても困難だった。万が一にでも、キメラが人を殺してしまいでもすれば、庇い切れない。例えそれが、正当防衛と呼ばれるものだったとしても、キメラに人の法は適用されないのだ。
「最終手段として、そのキメラを殺すことも念頭に入れるべきですよ」
「っ、そんなことっ」
「そうせざるを得ない可能性を頭に入れておけば、下手な行動はできないでしょう?」
フィスカの物言いに怒りをあらわにしたパーシーだったが、続く言葉で口を閉ざす。フィスカの言い分はもっともなのだから。
「ぁ……わ、悪い。怖がらせたな」
そして、黙り込んだパーシーは、すぐに、腕の中のキメラの震えに気づく。
「……キメラが怯える姿なんて、初めて見ましたね」
「あぁ、そうだろうな。けど、こいつは結構怖がりっぽいぞ? 悪魔も怖いみたいだしって、悪かった! もう話題にしないから、大丈夫だから、なっ?」
『悪魔』という単語が出ただけで、大きく震え出したキメラに、パーシーは大慌てでキメラを慰める。しかし、キメラにその声は聞こえていないのか、目をギュッと閉じたまま体を翼で覆って、震え続ける。そして……。
「…………?」
「……ぬいぐるみを抱えていれば良いですよ」
自分の翼以外のモフッとした感触に驚いたらしいキメラが目を開けた先には、難しい顔をしながらもクマのぬいぐるみを押しつけるフィスカが居た。
「もう、大丈夫ですね?」
『もう、大丈夫だよ。キメラのお姉ちゃん』
フィスカの言葉と同時に、キメラが思ったそれは何だったのか……。ただ、キメラは大きく目を見開いて、その後、静かに目を閉じる。
「おわっ、え? キメラ……?」
「……意識を失っているようですね」
急に力を失ったキメラを、パーシーは抱き締める腕に力を入れることで支える。そして、フィスカは、そんなキメラの様子を軽く診断して、結論を下した。
「意識を失ってるって……どうして?」
「わたくしも分かりませんが……特に魔法の形跡もないので、疲労か何かかと」
パーシーもフィスカも、お互いが何かをするはずがないという信頼をしているからこそ、取り乱すことはない。しかし、キメラの状態がそれで分かるということもなく、結局は、疲れが溜まっていたのではないかという結論になる。実際、フィスカの診断で寝不足や栄養不足が確認できたのも大きかっただろう。
「とりあえず、キメラを残して出ましょう。あまりわたくしがここに居続けるのは、不自然に思われますしね」
ここでしかできない、キメラの確認はもう終えた。後は、パーシーとの会話のみであったため、フィスカは後ろ髪を引かれていそうなパーシーを連れて部屋を後にする。
キメラを取り巻く事態が動いたのは、その日の夜だった。
「なっ、このキメラは可愛かっただろう?」
「え、えぇ、まぁ……そうですね」
どことなくビクビクしているキメラに気づいていないらしいパーシーは、キメラと一緒に居ることが嬉しくて仕方がないとでもいうかのように、ギュッとキメラを抱き締める。
「不満は、あんまりにも細くて、不健康そうなところなんだが、何とかできないか?」
「いえ、そういう話ではなかったはずですよね!?」
現在、パーシーの部屋には防音結界を張っている。いや、そもそもキメラの存在が他にバレないようにするため、パーシーは常時、この部屋に防音結界を張っていた。そのため、フィスカがどんなに声を荒らげたところで外に漏れることはない。
「あー、まぁ、そうだけどな? 昼間にこうして会えるのが嬉しい気持ちは分かるだろ?」
「分かりませんっ」
パーシーは、男勝りな性格をしているものの、可愛いものは大好きだ。ただ、普段は嘗められないようにぶっきらぼうに振る舞っているだけであって、このキメラのような可愛い女の子は、パーシーの癒やしとして最上級の存在だったりする。
「そこまで言わなくても……」
「良いですか? パーシー、あなたは今、反逆罪に問われても仕方のない行いをしているのですよ? それでもパーシーがそのキメラに何かを感じ取ったのであれば、そのキメラの有用性を証明しなければならないんです」
「まぁ、それは分かってるんだけど、な……」
現実問題として、キメラをこのまま置いておくのはあまりにも危険だった。
バレるかもしれない、という危険性はもちろんのこと、キメラ自身のことも何も分かっていない状態で、キメラを守ることはとても困難だった。万が一にでも、キメラが人を殺してしまいでもすれば、庇い切れない。例えそれが、正当防衛と呼ばれるものだったとしても、キメラに人の法は適用されないのだ。
「最終手段として、そのキメラを殺すことも念頭に入れるべきですよ」
「っ、そんなことっ」
「そうせざるを得ない可能性を頭に入れておけば、下手な行動はできないでしょう?」
フィスカの物言いに怒りをあらわにしたパーシーだったが、続く言葉で口を閉ざす。フィスカの言い分はもっともなのだから。
「ぁ……わ、悪い。怖がらせたな」
そして、黙り込んだパーシーは、すぐに、腕の中のキメラの震えに気づく。
「……キメラが怯える姿なんて、初めて見ましたね」
「あぁ、そうだろうな。けど、こいつは結構怖がりっぽいぞ? 悪魔も怖いみたいだしって、悪かった! もう話題にしないから、大丈夫だから、なっ?」
『悪魔』という単語が出ただけで、大きく震え出したキメラに、パーシーは大慌てでキメラを慰める。しかし、キメラにその声は聞こえていないのか、目をギュッと閉じたまま体を翼で覆って、震え続ける。そして……。
「…………?」
「……ぬいぐるみを抱えていれば良いですよ」
自分の翼以外のモフッとした感触に驚いたらしいキメラが目を開けた先には、難しい顔をしながらもクマのぬいぐるみを押しつけるフィスカが居た。
「もう、大丈夫ですね?」
『もう、大丈夫だよ。キメラのお姉ちゃん』
フィスカの言葉と同時に、キメラが思ったそれは何だったのか……。ただ、キメラは大きく目を見開いて、その後、静かに目を閉じる。
「おわっ、え? キメラ……?」
「……意識を失っているようですね」
急に力を失ったキメラを、パーシーは抱き締める腕に力を入れることで支える。そして、フィスカは、そんなキメラの様子を軽く診断して、結論を下した。
「意識を失ってるって……どうして?」
「わたくしも分かりませんが……特に魔法の形跡もないので、疲労か何かかと」
パーシーもフィスカも、お互いが何かをするはずがないという信頼をしているからこそ、取り乱すことはない。しかし、キメラの状態がそれで分かるということもなく、結局は、疲れが溜まっていたのではないかという結論になる。実際、フィスカの診断で寝不足や栄養不足が確認できたのも大きかっただろう。
「とりあえず、キメラを残して出ましょう。あまりわたくしがここに居続けるのは、不自然に思われますしね」
ここでしかできない、キメラの確認はもう終えた。後は、パーシーとの会話のみであったため、フィスカは後ろ髪を引かれていそうなパーシーを連れて部屋を後にする。
キメラを取り巻く事態が動いたのは、その日の夜だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる