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第二章

第五十八話 レレ様とのお茶会2

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「レレ様」

「ひゃいっ、な、なんですのっ!」

「緊張、して、る?」

「そ、そそそそ、そんな、わけないでしょう! わ、私は、レレ・ナイティアールですわよ!?」


 お茶会で、侍女のジーナを除けば二人っきり、という空間にもかかわらず、レレ様は緊張が抜けないようだった。


 どうしたら、レレ様の緊張が和らぐかなぁ?


 どうしようかと考えるうちに、ついつい、私はジーナへと視線を向けてしまう。こういう時に、ジーナは頼りになるのだ。


「失礼します。こちらは、お嬢様が早朝から作っていらしたクッキーでございます。どうぞ、お召し上がりください」


 そうして出されたのは、レレ様のお茶会用に作っていたチョコチップクッキー。この世界にチョコはあるのだが、チョコチップにまで加工されたものはないので、自分で刻んで、クッキーに練り込んでいる。ほんのりシナモンが香るようにクッキー生地にシナモンパウダーも入れており、私のお気に入りのクッキーでもある。


「っ、バルトリア嬢が、作ったの!?」

「レレ様、私のことは、リコと、呼んで、ください」

「あっ、そ、そうね。じゃなくて、こんな、美味しそうなクッキーを、あなたが!?」

「レレ様、まずは、食べてみて、ください」

「うぅっ……い、いただくわ」


 どうやら、私がクッキーを作れるとは思っていなかったらしいレレ様は、それはそれは驚いていたが、途中でバツが悪そうな様子でクッキーを一つ手に取る。


「っ……お、美味しいっ! ちょっと、リコさんっ、このクッキーの作り方を教え……い、いえ、何でもないわ!」

「後で、レシピ、送ります」

「っ……あ、あり、がとうですわっ」


 瞳をキラキラと輝かせて喜ぶレレ様を前に、レシピを教えないなんて意地悪をするつもりには欠片たりともなれなかった。
 クッキーを食べて緊張が抜けたのか、レレ様の表情は柔らかい。


「レレ様、今日は、ありがとう、ございます」

「っ、ふ、ふんっ、感謝は当然ね! ですが、私だって感謝してさしあげますわよっ!」

「はい!」


 素直じゃない上に、戸惑って変な言葉遣いになってしまっているレレ様は、とっても可愛い。


 …………私も、セインさんに可愛いって思ってもらいたいなぁ……。


「……と、ところで、あなたがこんな風に私を誘ったのは、何か理由があるのでしょう? 大方、あの元婚約者がらみだとは思っていますわよ? いえ、それ以外もあるかもしれませんが、私はそこまでの情報を得られなかったというか……っ、と、とにかく、理由をお話しなさい! あっ、いや、その、言いたくないなら、別に……」


 一生懸命私のことを気遣うレレ様。そんなレレ様の様子に、私も決意する。


「レレ様、相談が、あります」


 セインさんのことを、しっかりと相談させてもらおう。そして、美味しいクッキーをこれからもレレ様と食べよう、と。
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