上 下
65 / 97
第四章 遠い二人

第六十五話 状況整理(アルム視点)

しおりを挟む
 それにしても、と、ボクはあらかた片付いた書類の小山を前に、ペンを止める。

 ギースは恐らく、悪魔に乗っ取られたのだろう。それがいつのことなのかは不明だが、ギースと共に行動していた影の何人かは、行方知れずとなっている。どうにも、ギース自身のことをかぎまわったらしい形跡はあるのだが、ここまで捜して見つからないとなると、彼らは帰らぬ人となったのだろう。
 そして、最も重要なのは、ギースの抜けた穴を埋める人材が居ないということだった。


(よりにもよって、行方不明の影は実力者揃い。こんなことなら、シェイラに影の育成を頼んでおくべきだったか……)


 シェイラのために、悪魔騒動を何とかしたい気持ちは強いものの、そのための情報収集がままならない状態では、苦労することは必須。ギースの居場所を割り出すことも、バルファ商会に迫ることも、今は難しかった。


(バルファ商会は、見事に蜥蜴の尻尾切りをしてきたからな)


 あの倉庫の持ち主であったバルファ商会は、悪魔召喚に関して、知らぬ存ぜぬを貫いた。倉庫には、確かに悪魔召喚を行った形跡はあったものの、召喚主については不明で、強制的にバルファ商会の面々を調査してみたものの、召喚主を割り出すことは叶わなかった。完全に、手詰まり。それが、今の状況だ。


「ディーク、お前は、誰が、何の目的で悪魔召喚を行ったと思う?」


 ちょうど、書類、ではなく、二人分のお茶を持ってきたディークは、ボクの前に一つ、そして、書類を挟んだ反対側に椅子を持ってきて、そのまま机に一つお茶を置いて、我が物顔でそれを啜っている。暇なのかと問いたい気持ちを抑えて問えば、ディークは、顎に手を当てて考え込む。


「そうですね。陛下を殺そうとしたことから考えるに、私怨か、もしくは王位簒奪目的か、といったところでしょうか? 誰が、となると、さすがに分かりかねますがね」

「それなら、シェイラが狙われたのは、ボクにダメージを与えるためか?」


 そうであるならば、これほど効果的なものは中々ないだろう。しかし、ディークの考えは違うらしく、ティーカップを置くと、ゆっくり首を横に振る。


「そちらに関しては、本当に悪魔に興味を持たれてしまった可能性が高いかと」

「悪魔が、興味?」


 悪魔というのは、所詮魔法でできた存在だ。そんなものが興味を持つとは何事かと訝しめば、ディークは伊達眼鏡の奥で目をキラリと光らせる。


「悪魔は、高位のものであるほど、強い感情を持つとされます。そして、過去には悪魔が対価に自身の花嫁を望んだという例も確認されております」

「……つまりは、シェイラは悪魔に花嫁認定されたかもしれない、と?」

「シェイラ様のお話が正しいのであれば、そう考えるのが自然かと」


 ディークは淡々と応えるが、ボクの腸は煮えくり返そうだ。自然と殺気が吹き出すものの、ディークは平然と受け流して「さっさとその殺気を収めなければ、斬りますよ?」……本気の目で脅されたため、とりあえず何とか鎮まる。


「陛下は、まずはギースの代わりを立てて、早急に調査すべきかと存じます」

「いや、しかしだな。そもそもギースの代わりなど……」

「居るではありませんか」

「……どこにだ?」


 平然と告げたディークに、ボクは思いっきり眉を寄せて尋ねる。


「あぁ、ちょうど来たようですよ?」


 そして、ボクの執務室に、ノックの音が響いた。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

悪女ですので、あしからず。 処刑された令嬢は二度目の人生で愛を知る

双葉愛
恋愛
旧題:アイリスに祈る 女神ラトラと同じ瞳を持つアイリス=ウェルバートンは公爵家の娘であり国王の姪、そして皇太子リュートの婚約者である。頂点で微笑みながら、毒を吐き捨てる稀代の性悪だった。 アイリスは数々の悪行により、王の怒りをかい、父とリュートにも見捨てられ処刑されてしまう。 それでもアイリスは笑った。とある秘密を抱えて。 そして毒を飲んだアイリスは、もう一度生まれ変わった。 生まれ変わってもアイリスは、金色の瞳で愚か者を睨みつける。愚図共を蹴散らす。女神の美貌で、前世と同じ秘密を抱えて、悪辣の花として。 「無礼よ、おまえ。頭が高いわ」 最後に笑うのは女神ではなく、アイリスだ。 これはアイリスが全てを手に入れるための物語。女神をもうち落とす物語。 そして、リュートと生きる愛の物語。 あなたのためなら、毒まで飲める。 唯一アイリスを窘めることができる皇太子×気高く高貴で性格が死ぬほど悪い公爵令嬢 (ハッピーエンドです) (なろうにも掲載中)

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜

まさかの
恋愛
ソフィアは二十歳で死んでしまった。 王太子から婚約破棄されてからは、変な組織に入り、悪の道に進んでしまった。 しかし死ぬ間際に人の心を取り戻して、迷惑を掛けた人たちに謝りながら死んでいった――はずだった! 気付いたら過去に戻っていた! ソフィアは婚約破棄される当日に戻ってきたと勘違いして、自分から婚約破棄の申し出をしたが、まさかの婚約破棄される日を一年間違えてしまった。 慌てるソフィアに救いの手、新たな婚約を希望する男が現れ、便乗してしまったのが運の尽き。 なんと婚約をしてきたのは未来で、何度も殺そうとしてきた、ドSの武闘派司祭クリストフだった。 なのに未来とは違い、優しく、愛してくれる彼に戸惑いが隠せない だが彼もなんと未来の記憶を持っているのだった! いつか殺されてしまう恐怖に怯えるが、彼は一向にそんな素振りをせずに困惑する毎日。 それどころか思わせぶりなことばかりする彼の目的は何!? 私は今回こそは本当に幸せに生きられるのだろうか。 過去の過ちを認め、質素にまじめに生き抜き、甘々な結婚生活を送る、やり直し物語。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。 第10話から甘々展開になっていきます。

夕闇のネリネ

三条 よもぎ
恋愛
「噂の赤い目の女を捕縛しました」 その知らせを受け、元宰相のルイスは王都へ向かう。 「顔を上げろ」 しかし、椅子に縛り付けられたネリネは憔悴して動かない。 兵士がネリネの髪を引っ張り、痛みに歪んだ顔が見える。 「あなたはネリネ・エイジャー嬢ですね?」 探し求めていた彼女を見つけたルイスは領地へ連れて帰る。 状況を理解出来ないネリネはルイスに従った振りをする。 そもそも心が壊れているネリネには活力が無い。 実は伯爵令嬢だったネリネが暗殺集団に入れられ、心が壊れることになった原因にルイスが関係していた。 やがて、共に生活しながらその事実を知ることとなり……。 残酷な運命に翻弄される元貴族令嬢と彼女を探し求める宰相の物語です。 第1章はネリネの人生が壊れていき、捕縛されるまで、第2章はネリネがルイスに引き取られてからのお話です。 本編全33話、完結しました。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

処理中です...