44 / 97
第三章 悪魔
第四十四話 間違えた場所(アルム視点)
しおりを挟む
(ボクは、どこで間違った……?)
今日は、ようやく日程を調整し終えて、シェイラと出掛けられる日だった。それがデートと呼ばれるものだと気づいた瞬間、ボクはしばらく悶絶することになったのだが、仕事の合間、とにかく入念にシェイラが気に入りそうな店を調べ上げてみせた。そうして、ようやく叶ったデート……それなのに……。
「お見合い……」
シェイラは、たまたま街で出会った見合い候補者を気に入ってしまったらしい。そんなことにならないように、シェイラを紹介することもしなかったというのに、それは関係なかったようだ。
「……か………陛下っ」
「っ、何だ?」
「シェイラ様に、本当にお見合いをさせるおつもりですか?」
執務室に帰ってきて、ぼんやりとしていたボクに声をかけてきたのは、ギースだった。ギースは、フードで顔を隠したままではあるものの、珍しく心配そうな声音だ。
「そう、するしかないだろう。レンドルク公爵家には問題はないし、ドライム本人も……ボクが何となく顔が気に入らなかったこと以外、特に問題はない」
前に、見合い相手の情報が書かれた釣書を選別する際、唯一いちゃもんに近い感情ではね除けたのが、ドライムだった。勤勉実直で、女性や子供には優しい。家族仲も良好。問題を抱える家族も存在しない。そんな優良物件と見合いをしたいと望まれて、退けることなどできなかった。
「しかし……」
「……ボクじゃ、ダメだ。ボクは、竜王で、正妃となる人には相応の責任がかかる。後ろ楯もないシェイラを正妃に望んだところで、待っているのはシェイラに向けられる悪意の視線だ」
きっと、シェイラを寵妃のままにすることはできない。寵妃は仮の立場でしかないし、『絶対者』とシェイラを幸せにすることを約束している。どうあっても日陰者の立場となってしまう寵妃では、その約束を果たしたことにはならない。かといって、シェイラを正妃にすることは、それはそれで問題なのだ。
「……」
ギースは何か言いたげにするものの、それ以上、声を上げることはなかった。
「これで、良い。これで……」
大丈夫。シェイラの幸せのためならば、身を引くくらいなんともない。そう言い聞かせでもしないと、ボクは、自分が何をしでかすか分からなかった。
(シェイラの幸せは、ボクの隣には、ない。それ、でも……)
「つらい、な」
立て続けの失恋。しかも、今回は『絶対者』に対する想いよりも、さらに深い想いだったらしく、もう、頭の中がグチャグチャだった。
「すまないが、悪魔の件と同時並行で、ドライム・レンドルクの調査も頼む。問題がなければ、シェイラとの見合いの席を設けることとする」
「……はっ」
最近の情報を仕入れて、問題がなければシェイラを送り出せる。それは、喜ばしいことのはずなのに、シェイラに対する強い想いが、それを否定する。
「あとは……しばらく、一人にさせてくれ」
そう命じれば、控えていた影達がそっと部屋から出ていく。
そうしてボクは、しばらく放心するのだった。
今日は、ようやく日程を調整し終えて、シェイラと出掛けられる日だった。それがデートと呼ばれるものだと気づいた瞬間、ボクはしばらく悶絶することになったのだが、仕事の合間、とにかく入念にシェイラが気に入りそうな店を調べ上げてみせた。そうして、ようやく叶ったデート……それなのに……。
「お見合い……」
シェイラは、たまたま街で出会った見合い候補者を気に入ってしまったらしい。そんなことにならないように、シェイラを紹介することもしなかったというのに、それは関係なかったようだ。
「……か………陛下っ」
「っ、何だ?」
「シェイラ様に、本当にお見合いをさせるおつもりですか?」
執務室に帰ってきて、ぼんやりとしていたボクに声をかけてきたのは、ギースだった。ギースは、フードで顔を隠したままではあるものの、珍しく心配そうな声音だ。
「そう、するしかないだろう。レンドルク公爵家には問題はないし、ドライム本人も……ボクが何となく顔が気に入らなかったこと以外、特に問題はない」
前に、見合い相手の情報が書かれた釣書を選別する際、唯一いちゃもんに近い感情ではね除けたのが、ドライムだった。勤勉実直で、女性や子供には優しい。家族仲も良好。問題を抱える家族も存在しない。そんな優良物件と見合いをしたいと望まれて、退けることなどできなかった。
「しかし……」
「……ボクじゃ、ダメだ。ボクは、竜王で、正妃となる人には相応の責任がかかる。後ろ楯もないシェイラを正妃に望んだところで、待っているのはシェイラに向けられる悪意の視線だ」
きっと、シェイラを寵妃のままにすることはできない。寵妃は仮の立場でしかないし、『絶対者』とシェイラを幸せにすることを約束している。どうあっても日陰者の立場となってしまう寵妃では、その約束を果たしたことにはならない。かといって、シェイラを正妃にすることは、それはそれで問題なのだ。
「……」
ギースは何か言いたげにするものの、それ以上、声を上げることはなかった。
「これで、良い。これで……」
大丈夫。シェイラの幸せのためならば、身を引くくらいなんともない。そう言い聞かせでもしないと、ボクは、自分が何をしでかすか分からなかった。
(シェイラの幸せは、ボクの隣には、ない。それ、でも……)
「つらい、な」
立て続けの失恋。しかも、今回は『絶対者』に対する想いよりも、さらに深い想いだったらしく、もう、頭の中がグチャグチャだった。
「すまないが、悪魔の件と同時並行で、ドライム・レンドルクの調査も頼む。問題がなければ、シェイラとの見合いの席を設けることとする」
「……はっ」
最近の情報を仕入れて、問題がなければシェイラを送り出せる。それは、喜ばしいことのはずなのに、シェイラに対する強い想いが、それを否定する。
「あとは……しばらく、一人にさせてくれ」
そう命じれば、控えていた影達がそっと部屋から出ていく。
そうしてボクは、しばらく放心するのだった。
1
お気に入りに追加
1,199
あなたにおすすめの小説

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

魔王様は転生王女を溺愛したい
みおな
恋愛
私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。
私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。
*****
タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。
よろしくお願いします。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる