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第三章 悪魔
第四十一話 傷ついた心
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(これで、良いのです……これで……)
アルムは、お姉様に想いを寄せている。たとえ、それが叶わない想いなのだとしても、私が入る隙などない。そもそも、竜王であるアルムに対して、私は後ろ楯も何もない、他国の貴族令嬢。……いや、もう、家は取り潰されているだろうから、元貴族令嬢だろう。
(私などより、有益な人はいくらでも居るはずです)
もし、アルムがお姉様のことを諦めたとしても、アルムを支えられる身分を持つご令嬢は、この国にも居るはずなのだ。私の存在など、そんな人達と比べれば塵芥でしかない。
(アルムを避けていれば、きっと、アルムも私をお茶会に誘うことなんてしなくなります。そうすれば、こんなに……こんなに、苦しい思いをすることだって、なくなり、ます……)
数日経って、少しは失恋の傷が癒えてくれたかと思ったものの、どうにもそんな様子はない。むしろ、ジクジクと痛みが増しているかのようだった。
「はぁ……」
思わず漏れたため息に、側に居たベラが心配そうに寄ってくる。
「シェイラ様? 何が、あったんですか?」
『何か』ではなく、『何が』と聞いてくる辺り、私の落ち込み具合はバレバレらしい。慌てて表情を取り繕ってみても、ベラは心配そうな表情を崩そうとしない。
「……ベラは、失恋をしたことはありますか?」
「失恋、ですか?」
自分一人で抱えるのは、もう無理かもしれないと、私はベラにポツリと漏らす。
「その……すみません。まず、恋もしたことがなくて……」
「そう、ですか。あぁ、気にしないでください。ただ、聞いてみただけですので」
私の質問に答えられず、暗い顔になったベラを慌てて励ますと、ベラは恐る恐るといった具合に顔を上げる。
「その……シェイラ様は、もしかして、失恋をした、とか?」
そう問われて、問われることは分かっていた癖に、私は答えに詰まる。
「っ………………そ、う、みたいです……」
どうにか答えを絞り出せば、ギュウッと心臓が締め付けられるような痛みに襲われる。
まだ、傷が癒えることはなさそうだ。
「シェイラ様を振るなんてっ、どこのどいつですかっ! ちょっと、とっちめてきますっ!」
「い、いえ、違います。その、私は、えっと……」
違う。私は、アルムに想い人が居ることを知りながら、好きになってしまったのだ。だから、振られたわけではない。ただ、私の想いは、芽生えた瞬間に潰れてしまっただけなのだ。
「っ、シェイラ様!?」
「えっ……?」
必死に、どう言えば良いのかを考えていると、ふいに、ベラが慌て出す。
「す、すみません。泣かせるつもりはなくてっ。あのっ、タオルっ、持ってきますっ!」
バタバタと遠ざかるベラを見ながら、そっと頬に手を当てれば、確かに、そこは湿っていた。
(こんな風に泣くなんて……久しぶりです)
自覚なく泣いていた私は、そのままポロポロと涙を流し続ける。
それを、誰かに見られているとも知らず、私は、失恋の傷に枕を抱き締めるのだった。
アルムは、お姉様に想いを寄せている。たとえ、それが叶わない想いなのだとしても、私が入る隙などない。そもそも、竜王であるアルムに対して、私は後ろ楯も何もない、他国の貴族令嬢。……いや、もう、家は取り潰されているだろうから、元貴族令嬢だろう。
(私などより、有益な人はいくらでも居るはずです)
もし、アルムがお姉様のことを諦めたとしても、アルムを支えられる身分を持つご令嬢は、この国にも居るはずなのだ。私の存在など、そんな人達と比べれば塵芥でしかない。
(アルムを避けていれば、きっと、アルムも私をお茶会に誘うことなんてしなくなります。そうすれば、こんなに……こんなに、苦しい思いをすることだって、なくなり、ます……)
数日経って、少しは失恋の傷が癒えてくれたかと思ったものの、どうにもそんな様子はない。むしろ、ジクジクと痛みが増しているかのようだった。
「はぁ……」
思わず漏れたため息に、側に居たベラが心配そうに寄ってくる。
「シェイラ様? 何が、あったんですか?」
『何か』ではなく、『何が』と聞いてくる辺り、私の落ち込み具合はバレバレらしい。慌てて表情を取り繕ってみても、ベラは心配そうな表情を崩そうとしない。
「……ベラは、失恋をしたことはありますか?」
「失恋、ですか?」
自分一人で抱えるのは、もう無理かもしれないと、私はベラにポツリと漏らす。
「その……すみません。まず、恋もしたことがなくて……」
「そう、ですか。あぁ、気にしないでください。ただ、聞いてみただけですので」
私の質問に答えられず、暗い顔になったベラを慌てて励ますと、ベラは恐る恐るといった具合に顔を上げる。
「その……シェイラ様は、もしかして、失恋をした、とか?」
そう問われて、問われることは分かっていた癖に、私は答えに詰まる。
「っ………………そ、う、みたいです……」
どうにか答えを絞り出せば、ギュウッと心臓が締め付けられるような痛みに襲われる。
まだ、傷が癒えることはなさそうだ。
「シェイラ様を振るなんてっ、どこのどいつですかっ! ちょっと、とっちめてきますっ!」
「い、いえ、違います。その、私は、えっと……」
違う。私は、アルムに想い人が居ることを知りながら、好きになってしまったのだ。だから、振られたわけではない。ただ、私の想いは、芽生えた瞬間に潰れてしまっただけなのだ。
「っ、シェイラ様!?」
「えっ……?」
必死に、どう言えば良いのかを考えていると、ふいに、ベラが慌て出す。
「す、すみません。泣かせるつもりはなくてっ。あのっ、タオルっ、持ってきますっ!」
バタバタと遠ざかるベラを見ながら、そっと頬に手を当てれば、確かに、そこは湿っていた。
(こんな風に泣くなんて……久しぶりです)
自覚なく泣いていた私は、そのままポロポロと涙を流し続ける。
それを、誰かに見られているとも知らず、私は、失恋の傷に枕を抱き締めるのだった。
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